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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年02月09日

Bunkamura『恋する妊婦』02/08-28シアターコクーン

 『恋する妊婦』は岩松了さんが1994年に水戸芸術館専属劇団ACMのために書き下ろした作品です。東京で上演されるのは約14年ぶり。上演時間は2時間25分(途中15分の休憩を含む)。

 前半はなぜか舞台が遠く感じて入り込めなかったんですが、後半のあるシーンですっかり心を奪われ、耳の後ろが熱くなってきて、意味が全くわからないままに、涙がこぼれました。

 昨年(⇒)ぐらいから、やっと岩松さんの世界を少しはわかるようになったかな~と感じています。「わかる」のではなく「感じる」だけでいいと思えるようになったからかも。パンフレットに書かれていますが、「分からないことは色っぽい」(小泉今日子)んですよね。

 ⇒CoRich舞台芸術!『恋する妊婦

 ≪あらすじ≫ パンフレットより
 寝食を共にしながら全国を旅して回る大衆演劇の坪内竹之丞一座。ある興行先で二枚目俳優の慎之介と女優のあざみが駆け落ちし、失踪してしまう。公演に穴をあけた二人に副座長の橋本は怒り心頭だが、座長は慎之介から謝罪の電話を受け、座員が「ママ」と慕う妻の取りなしもあって、劇団への復帰を許すつもりらしい。橋本はそんな座長にイライラを募らせ妻の波江に普段以上につらく当たる。それを冷ややかに見つめる橋本の妹さつき。また同じころ、「大衆演劇に興味がある」と道後という学生が一座に加わる。そんな状況にも若い座員たち(秀樹、ともあき、マー坊、ちはる)や一座に入り浸る八百屋の福田、近所の絵美子のマイペースぶりは相変わらずだ。しかし、あざみが一人で小屋に戻ってきたのをきっかけに、彼らの不自然に安定した日常に荒波が立ち・・・。
 ≪ここまで≫

 「わかりづらい」が代名詞の岩松作品ですが、この作品については設定(大衆演劇の一座のバックステージもの)や舞台上で起こる出来事に難しさはないと思います。ただ、「なぜ?」という疑問に一向に答えてくれないのはいつもどおり(笑)。説明なんていらないし、私達の人生にも説明なんてないんだと思います。

 登場人物が突然フっと消えたり、現れたりします。ほとんど神隠しか手品みたいに。誰も居ないところで起こったある出来事が、第三者の出現によって違う側面を見せます。プライベートからパブリックに変化する瞬間って、とてもドラマチック。

 音楽が流れ出すタイミングも、音の大きさも、選曲も、なんとも言葉では言い表せない味があります。旋律はメランコリックなのですが、ただ「メランコリック」というだけではないんですよね。それは照明(明かり)についても同様に感じました。美術はリアルな大衆演劇用のステージと桟敷席で、出来事もちゃんとその場所で起こっているのですが、溶暗したり部分的に明るくなると、なぜか「室内」だと思えなくなって、宇宙だとか心の中だとか、抽象的な空間に見えてきたりします。
 そういえば、舞台が過激な抽象絵画のように見えた瞬間が何度もありました。ルネ・マグリットみたいな。

 「ママ」という言葉は「母親」「妻」「バーのママ」など、呼ぶ人・呼ばれる人によって意味が違ってきますよね。色んな人が小泉今日子さんのことを「ママ」を呼ぶ度に、その意味が変わっているような気がして、自分の拠り所がぐらぐらと不安定になるような気持ちがしました。「ママ」ってものすごく重要なのに、便利で(軽くて)曖昧な言葉ですよね。

 ここからネタバレします。

 8ヶ月になるママ(小泉今日子)のお腹の子の父親は、失踪しているイケメン俳優・慎之介(姜暢雄)かもしれない。そんな噂に全く動じないどころか「それでもいいじゃないか。ヤったら出来て、生まれるんだから」と開き直っている座長(風間杜夫)。帰ってきた慎之介に対して「1回しかヤってないんだから、あんたの子じゃない」と言い放つママ。慎之介はそんなママを恋人としてだけでなく、母親としても慕っているようで・・・。

 こっそり一座に戻ってきた慎之介と病院から抜け出してきたママが、部屋の電気を消してじゃれ合うシーン。2人がはけた下手袖から電気の点いた懐中電灯が転がってきて、その明かりが客席と舞台をぐるりと照らしながらステージ上をくるくる回ります。ものすごくエロティック!

 慎之介と駆け落ちした女優あざみ(中込佐知子)が、慎之介をピストルで撃ち殺してしまいます。それを目撃したママの髪が、突然真っ白に!即座に浮かんだのは「マリー・アントワネット」。そしてその直後の長い暗転中に、なぜだかわからないまま、涙がポロポロこぼれました。
 そう、赤いワンピースに白髪のおかっぱ頭の妊婦が畳の上に立ち尽くす姿が、抽象絵画のようだったんです。

 最後のセリフはママの「変だよ」だったと思います(言葉は正確ではありません)。しかもこれで終わる思えないような幕切れで。それがとても良かったです。

出演:小泉今日子、風間杜夫、大森南朋、鈴木砂羽、荒川良々、姜暢雄、平岩紙、森本亮治、佐藤直子、佐藤銀平、中込佐知子、米村亮太朗、大橋智和、安藤サクラ
作・演出:岩松了 美術:島次郎 照明:沢田祐二 衣裳:堀井香苗 音響:藤田赤目 ヘアメイク:宮内宏明 劇中劇指導:姫京之助 舞台監督:二瓶剛雄 美術助手:松村あや 大道具:俳優座劇場 森島靖明 小道具:高津映画装飾 鵜城清 特殊効果:特効 糸山正志 宣伝美術:一八八 東學 宣伝写真:谷敦志 営業:加藤雅広 票券:森田友規子 プロデューサー:加藤真規 制作:大宮夏子 制作助手:稲村宗子 清水光砂 企画・製作:Bunkamura 主催:Bunkamura
【発売日】2007/11/24 S席 9,000円 A席 7,500円 コクーンシート 5,000円
http://www.bunkamura.co.jp/shokai/cocoon/lineup/shosai_08_nimpu.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 15:54 | TrackBack

新国立劇場演劇研修所1期生修了公演『リハーサルルーム』02/08-10新国立劇場 小劇場

 新国立劇場演劇研修所(NNTドラマスタジオ)の第1期生修了公演です(⇒公演詳細)。1期生は日本初の国立の演劇学校(2005年開講)のはじめての卒業生になります。
 ⇒写真レポート ⇒試演会

 あまりの素晴らしさに、中盤から涙がぽろぽろ。なんてことない場面で涙があふれて止まらない・・・。私は、こんな俳優が、こんな舞台が観たかったのかもしれません。

 東京公演は完売ですが、福岡公演神奈川(川崎市)公演があります。1期生全員が揃った公演はたぶん最初で最後でしょう。どうぞお見逃しなく!上演時間は2時間弱(すみません、うろ覚えです)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『リハーサルルーム

 国立の俳優学校の噂を聞いたのは2004年3月末。2005年2月に募集告知を掲載してからは、研修生の姿を観られる機会があれば、何よりも優先して駆けつけてきました。まるで追っかけファンのように(笑)。
 だから1期生の修了公演がとうとう開幕したことを、勝手に感慨深く思っています。しかもこんな、奇跡の集合体のような作品を観せてくれるなんて・・・(嬉涙!)。

 少し前から徐々に感づいていたことですが、自分が心から観たいと思うお芝居の基準が変わる気がします。いや、既に変わっていたのですが、この作品でそれが決定的になったかもしれません。舞台で役を生きている俳優たちが、豊かに影響を与え受け止め合うことで、おのずと立ち上がってくる世界を観たいです。一瞬たりともとどまる事なく進む時間。でも一瞬一瞬がそのままで完成している時間。それは私達が生きている世界そのものです。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。
 東京近郊のベッドタウンに集まる若者たち。急きょ、市民たちで芝居を立ち上げることになったのだ。芝居の稽古が進むにつれて、一見平和に過ごす若者たちのもう一つの姿が浮かび上がってくる。やがてそれは芝居づくりにも波及し、思わぬ事態が持ち上がってくる。しかし、そのぶつかり合いや葛藤から、彼らはある手応えを見つけ出して行く・・・。
 ≪ここまで≫

 描かれるのは市民演劇ワークショップの稽古場(リハーサルルーム)の、10月から3月までの約5ヶ月間。研修生に宛て書きされた脚本は、15人の登場人物それぞれに見せ場があり、特定の誰かに偏ることなくうまくまとまっている群像劇でした。

 極力シンプル、だけど、上品な空間です。舞台は灰色の壁に囲まれた公民館ですが、真横に細く一直線に光る白い蛍光灯の明かりが効いています。静かに流れるジャズ・ピアノ(かな?)がクール。ダイナミックな演出にも魅せられます。

 演劇を知らない人たちが演劇に関わることで、自分達の実生活の中の演劇に気づいていきます。食卓で家族と顔を見合わせた時、私達は無自覚にその場の空気に合わせて言葉を選び、演技をしているのではないか。「リハーサルルーム」の出来事が、その事実を浮かび上がらせていきます。 

 ここからネタバレします(2008/02/10追加)。セリフは完全に正確なわけではありません。

 発表会の演目選びの会議を経て、市民の実生活や生い立ちのエピソードをもとに脚本を立ち上げることになります。横一列に並んだイスに市民が座り、一人ずつ自分の家族について虚実をまじえて話していく場面で、衝撃を受けました。役者さん1人1人が演じる役そのものとして存在しているので、登場人物の世界(人生)が一列に並んでいるように見えたのです。互いに独立しながら、ふんわり触れ合ったり、重なったり離れたり。一言のセリフが生まれる度に舞台がプリズムの輝きを放射します。人間の多様性と存在そのものの豊かさが、俳優が舞台に居ることだけで遜色なく表されていたと思います。それって奇跡と言えるのではないでしょうか?

 郵便配達夫を演じることになった大(ダイ・古川龍太)の「郵便です」というセリフに、毎回、か細いながらも強い光を感じました。
 「家族で、ハッピーエンドで、ミュージカルなのは、ファンタジーだと思う。」 
 「ちゃんと聞いてしゃべる。会話がしたい。会話が。」

 小野寺(二木咲子)「私、『三人姉妹』には積極的に反対します。」
 織絵(高島令子)「家族って、居心地のいい収容所みたい。」「家だと、演技していて疲れるの。ここ(稽古場)だと、演技していて楽しいの。」
 久留栖(三原秀俊)「道楽ですから、妥協しないですよ」

 最後は市民の実生活をもとに翻案された『わが町』が上演されます。
 「それでも・・・」というセリフが素晴らしかった。

≪東京、福岡、神奈川≫
出演:内田亜希子、野口俊丞、岡野真那美、河合杏奈、小泉真希、高島令子(髙島玲)、二木咲子、眞中幸子、北川響、窪田壮史、古河耕史、古川龍太、前田一世、三原秀俊、山本悠一(山本悠生)
作:篠原久美子 演出:栗山民也 美術:長田佳代子 照明:田中弘子 音響:河原田健児 衣裳:宇野善子 音楽:後藤浩明 演出助手:田中麻衣子 舞台監督:三上司 研修所長:栗山民也
【発売日】2007/12/12 A席3,000円 B席2,000円 Z席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000051.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 01:51 | TrackBack