2003年07月29日

シアター21『スリーデイズ・オブ・レイン』07/24-31俳優座劇場

 シアター21は見逃さないようにしています。
 「Three Days of Rain」は日本語に訳すと「3日続きの雨」。アメリカの戯曲です。

 技術の有る役者さんとスタッフによる濃厚な3人芝居でした。どこをとっても上質で、安心して観られます。でも、ちょっと拍子抜けしちゃいましたね。思わせぶりなキャッチコピーでミステリーの要素を期待させるけれど、たいした秘密じゃなかったんだもの。

 「3日続きの雨」とは、死んだ父親の日記の冒頭の文章です。たしかにあの日、雨が降っていなかったら二人は恋に落ちなかった。もう一人の彼は公園で未来の妻にばったり出会うこともなかったかもしれない。でも、そんなのは今も昔も変わらず日常茶飯事じゃないかなーって思います。わざわざミステリー・タッチのドラマチックな出来事としてあらわす必要がない気がします。

 それに、その秘密が明かされることによって伝わってくるメッセージが少なすぎると思いました。観客にゆだねすぎって言うか。どうとでも取れる状態で放られたというか。それも意図かもしれませんが、私には物足りなかったなー。

 堀尾幸男さんの美術。シンプルだけど細かいところにこだわりが感じられます。
 小田島恒志さんの翻訳は、「超」とか「ぶっちゃけ」とか、遊び心が入ってて面白いです。
 鵜山仁さんの演出ですが、「雨続きの3日間」に起こる”事件”の前触れとして二人がバクバクとサラダを食べるところの照明と音楽はさすがだなと思いました。でも、全体としてはちょっと地味すぎるかなー。眠くなっちゃった。

 高橋和也さん。巧いです。技術がすごいなっていつも思います。ずっと追いかけたい俳優さんです。1幕ではちょっと変わった弟の役ですが、少しコミュニケーションが少なすぎる気がしました。
 神野三鈴さん。あいかわらず妖精のように美しい方。セミヌードも披露。いやん。でも今回はナーバスすぎる気がします。涙流しすぎですよね。私は大ファンですが。
 浅野雅博さん。コミカルで好感度大。すごく好きになってしまいました。こういうシリアスなお芝居には適度の笑いをはさむのが通ですよね♪

RUP : http://www.rup.co.jp/

Posted by shinobu at 22:14

2003年07月23日

子供のためのシェイクスピアカンパニー『シンベリン』07/18-22サンシャイン劇場

 いちおし日本製シェイクスピア。毎回すごく楽しみにしていて、その期待を裏切らないカンパニーです。
 今回も笑って泣いて、満足して劇場を後にできました。カーテンコールが3回。ブラボーの声も何度も掛かりました。

 『シンベリン』はシェイクスピア作品の中でも「ロマンス劇」に属するとされる作品です。人間の能力を超える超自然的な力(神の力)が働いて、最後は大団円で終わるタイプ。『テンペスト』とかに似ているんですね。

 たしかにラストがあまりにうまく納まり過ぎだと言えるかもしれませんが、私は気持ちよく受け止められました。実はラストがどうなろうと、あんまり気にならなかったというのが本音です。だって、そこにいたる過程が最高に楽しいし感動的なんですから。

 演出は山崎清介さん。手拍子と黒マント、そしてシェイクスピア人形の腹話術。おなじみの構成もやっぱり面白いです。

 誤解しあって憎みあい、お互いに行方知れずになってしまった夫婦が、あれよあれよと運命にもてあそばれながらも奇跡的にラストシーンで出会う展開はあまりにスマート!シンプルであることは美しきことかな。

 いつもは脚色が田中浩司さんなのですが、今回はじめてそのお名前がありませんでした。山崎さんが両方やられたのかもしれませんね。そんなに違いは感じなかったのですがあえて挙げるとすると、いつもなら紙にたくさん書き留めるセリフがあったのに今回はなかったかも。

このカンパニーの作品を観ることが、子供にとって毎年の恒例行事になるといいなと思います。

子供のためのシェイクスピアカンパニー : http://homepage1.nifty.com/j-ishikawa/c-ro.html

Posted by shinobu at 20:50

2003年07月09日

燐光郡『象』07/3-24梅が丘Box

 別役実さんの戯曲です。新国立劇場『マッチ売りの少女』からハマってしまい、別役作品は機会があるならぜひ逃さず観たいと思っています。

 広島の被爆者たちのその後の話。原爆症の発症のため次々と病院に入院していく。そして死んでしまう。背中の大きなケロイドを見せることによって、見世物役者のように食いつないできた男。「みんなが俺の裸(ケロイド)を見たいと思っている。あの場所に戻るんだ。」と、這ってでも戻ろうとする。

 それにしてもなんと複雑なことでしょうか。
 原爆を落とされたせいでケロイドが出来たが、そのケロイドこそがその男のアイデンティティーだった。だが、その爆弾のせいで自分は死んでしまう。殺されるのだ。同じく原爆症で入院してきたその男の甥は、ケロイドを自慢する叔父のことが許せない。だが、行きたい場所があり、やりたいことがあり、それを実行せんとする叔父は強い。無力感に打ちひしがれ、ただ一人で居たい、と闇に篭って死を待っている甥よりも人間らしいのではないか?
 まったく太刀打ちできない、命がけの矛盾が次々と心を襲ってきて、涙が止まりませんでした。

 ケロイド男のまわりに5人ぐらい黒子がいて、セリフを一人ずつ順番に代弁するのはさまざまな被爆者たちの叫びに聞こえました。看護婦についてもそうでした。

 ステッキを持った初対面の男たちの戦いのシーンがすごかったです。
 突然知らない人からまじまじと見つめられ、「戦いましょう」とケンカを売られる。
 「私は戦えない。ごめんなさい。」と土下座までするが
 「やられたくないなら、やりかえさなきゃ」と笑って言い放ち、手を緩めない。
 結局、襲われた方はそのまま殺されてしまった。
 これは第2次世界大戦の時の日本と欧米列国との関係を表しているのだと思います。極シンプルに端的に核心をついていました。怖かったです。

 舞台美術がシンプルで渋かったです。地がすりはつるつるの真っ黒な素材で、病院のベッドの足があざやかに映っていました。歩くとコツコツと音が鳴りました。

 タイトルがなぜ『象』なのかまったくわかりません。おわかりになる方、どうぞ教えてください。

 燐光郡 : http://www.alles.or.jp/~rinkogun/

Posted by shinobu at 21:42