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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年06月11日

青年座『パートタイマー・秋子』06/05-15紀伊國屋ホール

 青年座の公演。永井愛さん作、黒岩亮さん演出です。永井さんの大ファンなので見逃しません。

 センスの悪すぎるチラシ・・・と思っていましたが、内容がチラシのまんまでした。ほんっとにスーパーの特売のお話なんです。「激安!大売出し」します。ということは、あれでセンスが悪いわけではないんですよ。あぁ、すごい。狙いが完璧です。

 成城の豪邸に住み、順風満帆な半生を生きてきた主婦、秋子。だけど夫の会社が倒産し、今ではその家も車も売らなければ、家族の生活費も子供の学費も払えなくなった。やっとの思いで見つけたパート先は問題が山積み。文字どおりサバイバルな日々が始まる・・・。

 舞台は場末のスーパーマーケットの従業員控え室。パートタイマー達の骨肉の争いが繰り広げられます。こんな地味な設定を爆笑コメディーにできる永井さんの視点に完敗です。

 ごく平凡な庶民の日常生活の中に、期待はずれのどんでん返しが何度も訪れます。端から見たらめちゃくちゃくだらない事に、いい年の大人がじたばたと必死でもがく様がなんとも滑稽で、劇場は笑いの渦でした。

 土田英生さん脚本・演出のMONO『きゅうりの花』に似たところがあったように思います。平凡で素朴な人たちが、今のままの生活を守りたいがために、新しいことを拒否するところとか。無意識の悪事や全く罪悪感のないイジメが蔓延します。人間はここまで簡単に汚くなれるのかと、とてもがっかりします。

 当事者でなければ気づきづらいけれど、この不況が庶民に与えている影響はものすごく大きいんですね。窮地に立たされたら人は人ではなくなるんです。じわじわと、自分では気づかないうちに。人間の弱さ、汚さに胸が悪くなりました。笑っていても、どこか後ろめたい気持ちが常に離れませんでした。自分がそうなった時、どうするんだろう・・・秋子のようになるかもしれない、と身につまされました。

 終始笑いがいっぱいでしたが、決してハッピーではないエンディングに、またまた頭をひねらせられました。お芝居が始まった時に比べると、登場人物たちの人生は良い方向に進んだとも言えるし、再びスタートに戻ってきたとも言えます。人間はこうやって失敗を繰り返し、足踏みしたり振り出しに戻ったりしながら、自分探しの旅を前進し続けていくのでしょうか。そうだとしたら私にできることは、なるべく明るく生きていくことかなと思いました。

 高畑淳子さん。シリアスな展開をユーモラスな演技で暖かく包んで届けてくださいました。

 初日は通路席もいっぱいでした。たしか追加公演も決まっていたと思います。客席は大人が大半でしたが若者にも楽しめる作品です。

作=永井愛 演出=黒岩亮 装置=柴田秀子 照明=中川隆一 音響=井上正弘 衣裳=三大寺志保美 舞台監督=安藤太一 製作=紫雲幸一
出演=高畑淳子/山本龍二/横堀悦夫/津田真澄/小林さやか/土屋美穂子/藤夏子/井上夏菜/村田則男/石母田史朗/小豆畑雅一/森塚敏
青年座内:http://www.seinenza.com/performance/167/
ニ兎社:http://www.nitosha.net/

Posted by shinobu at 2003年06月11日 16:51 | TrackBack (0)