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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年10月10日

松竹『若き日のゴッホ Vincent in Brixton』10/1-13日生劇場

 ニコラス・ライト 作。

 桃井かおりさん目当てで早々から席をGETしていました。チラシや前評判からあまり期待をしないで観にいったのですが・・・すごく良かったです。特に桃井さんが!!

 最初の20分間があまりにスルっと始まりすぎて、セリフがだらだら流れて、尾上さん(ゴッホ役)は硬いしで、「途中休憩で帰ろう・・・」と心が決まりそうな状態でした。でも、あの、中盤の、桃井さんの後姿が・・・腕が・・・。シビレました。帰らずに済みました♪

 ニコラス・ライトさんの作品は日本で何本も紹介されているのですが、今回のように商業演劇で上演されるのは初めてだそうです。ものすごく深い思慮と洞察に富んだセリフ劇でした。ベニサンピットとかに似合うような。いい意味で予想を裏切られました。オリヴィエ賞最優秀作品賞受賞作、納得です。

 差し出がましいことなのですが、脚本の構成が完璧だと思いました。さりげなく、驚くほど普通に始まり、きちんと事件&奇跡を起こして休憩。後半しょっぱなに新しい人物を登場させて物語を違う方向から映し出し最後の幕は観客が全くついていけない急展開。すっかり頭が真っ白。いやおうなしに心が舞台に集中します。そしてラストはまたもやさりげなく、溶け込むように、輝きながら終わりました。

 ゴッホは気性の激しい男性で、すごく不遇な人生を送ったんですよね。生きているうちに売れた絵はたったの1枚。37歳でピストル自殺したことも有名です。この物語はゴッホがまだ「狂う」前、ゴッホにとって最初で最後の青春の日々をすごしたイギリスの町を舞台にしています。

 衣裳が美しかった・・・。さすが前田文子さんのデザインです。ドレスのパレード。あの腰のくびれ。あの胸のふくらみ。ツンとあがったお尻。長いすそ。細部まで計算しつくされた繊細な色使いと布使いにため息が出ます。必見です。

 舞台美術は私いちおしの横田あつみさん。舞台奥の空は床とつながった巨大なスクリーンで、ゴッホの筆のタッチの絵になっているんです。照明のあたり具合でそれが「晩鐘」や「種をまく人」にそっくりな色になるのは感動的。

 尾上菊之助さん。甘いマスクできれいに通る声で発音完璧で。だから歌舞伎役者さんってスゴイ!でも、もうちょっと余裕というか、遊びが欲しかった気もします。息がつまりすぎ、というか。
 桃井かおりさん。「女優」とはすなわち彼女のこと。セリフに予定調和が全くないんです。一言、一声を聞き逃したくないです。じっとしている時の肩、腕、手、腰、首・・・それぞれのパーツの先っぽまで、命が満ち足りていました。体の動きもいちいち美しいです。特に後ろ姿にぞっこん。

 出演者は5人だけだったんですが、全くそれを感じさせない舞台でした。町の人々の声や働く姿が当然のごとく頭に浮かんでいました。私は出演者が少ないお芝居については、そういう所を作品の良し悪しの判断材料にしています。

 松竹内: http://www.shochiku.co.jp/play/others/nissei/0310-1/index.html

Posted by shinobu at 2003年10月10日 16:48