REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2003年10月12日

劇団まくらまくら企画公演『フリーバード』10/10-12早稲田大学学生会館B2

 お友達が関わっているので観にいきました。私は初・早稲田観劇!カンパ制も初めて♪
 ※カンパ制とは、チケットは買わずに観終わってから好きな額をカンパする形式。0円でも100万円でもOK。

 前回の『鶯(うぐいす)』という作品に比べると、全てが数段レベルアップしていましたね。

 まず舞台美術(菅原あや)がきれい!未来のお話ということで、全体が白で統一されていました。石膏や自然素材系の布を使っているので温かみがあり、テカテカの未来ものにするよりも、かえって臨場感がありました。ラストに壁が開くのも効果的。低予算を乗り越えて、世界をしっかり作り上げていました。

 衣裳もカラフルで楽しげでした。(ほぼ)無料公演なのによくあんなに作ったな~と思いました。デザインもちゃんと未来のランナーのイメージを具現化できていました。
 照明はシンプルの極地でしたね。舞台が白で衣裳が原色カラフルだったからちょうど良かった気がします。
 音楽はダメでしたね~。どこかで聞いたことのあるようなメジャーな曲ばかりでしかもかなりダサイ選曲でした。

 役者さんは前回に比べると途方もなく上手くなっていたと思います。セリフを忘れちゃっている人もいましたけど、それはまあ可愛い女の子だし、学生のカンパ公演(無料)だし、ご愛嬌。

 脚本は前回とは全く違うステージに入っていました。いきなりアクション・エンタテインメントでしたね。しかもかなりちゃんとしてる。クライマックス近くでロボットが出て来るくだりはちょっとイケてないと思いましたけど。楽しいセリフもいくつかありました。
 「うすらバカ!おたんこナス!」
 「不可能インポッシブル」
 「アロイを漢字で書くと・・・」
 「子供産みたい。卵でもいい。産卵したい。」

 とにかく感じたのは、若いってスゴイ!!!ってこと。経験がないから、こだわりがないんですよね。プライドがない。だからそれまでの自分を簡単に壊して、次の自分を作り出すことができるんです。しかも体力と希望があるから、そのスピードがべらぼうに早い。かなり元気をもらいました。

 ・・・・というのが、公演が終わった直後の感想でした。でも、その数時間後、全てが崩れ去りました。友達が言ったんです。
 「あれ、『破壊ランナー』まんまだよね。」
 ・・・・え? なにそれ??

劇団まくらまくら : http://shinjuku.cool.ne.jp/makura2/


続き。『破壊ランナー』とは?

 『破壊ランナー』は、今は亡き劇団”惑星ピスタチオ”の代表作の一つで、西田シャトナーさん作の未来SFアクション大作です。
 1993年初演で1995年に再演、1999年の再々演ではシアターアプルで14ステージという大規模公演。
 惑星ピスタチオ年表 http://www.appricot-bus.com/pistaccio/

 まねきねこさんのHP「演劇◎定点カメラ」内
 惑星ピスタチオ『破壊ランナー』シアターアプル(1999年6月)のレビュー
 http://homepage1.nifty.com/mneko/play/WA/19990613M.htm

 水銀灯さんのHP「Heaven's Gate」内→Air Gate →
 惑星ピスタチオ「破壊ランナー」レビュー 【ソニック・ランは何処までも】
 http://www.geocities.co.jp/Hollywood/3576/scrap/scrap019.html

 『破壊ランナー』を劇場で観た友人によると、ストーリーの顛末はもちろん、オープニングで司会者風の男が人間の走行速度の歴史について述べることや黄色い衣裳を着た役者2人がTVの実況中継すること、エンディングで一人一人の役者が観客に配られた走行速度の歴史を1行ずつ読むこと等が一緒で主役の「豹二郎ダイアモンド」やライバル・キャラの「ライデン」「キャデラック」等の名前もそのまま使っているとのこと。「ソニック・ラン」についてもそう。ということは、完全コピーなの・・・?脚本は、アレンジもしてないってこと?私はオリジナルを観ていないので、想像ばかりが膨らんでしまいます。

 この『フリーバード』のチラシと当日パンフレットには”脚本・演出 山崎悟”と書かれいて、『破壊ランナー』関連のことは全く書かれていません。HPも同様です。昔の作品を上演することは、とっても素晴らしいことだと思うしどんどんやってもらいたい、挑戦してもらいたいって思います。でも「自分が作り出したものではない」ってことは、ちゃんと言わなきゃ。観た人に嘘をつくことになります。もちろん西田シャトナーさんにも失礼です。それどころか泥棒になっちゃうよね。

 学生が大学内で上演するカンパ公演だから・・・・ということで上演許可をもらわないでやっちゃう、というのはよくあるのかもしれません(絶対しちゃだめだけど)。明治大学の劇団の同じくカンパ公演のチラシで、夢の遊眠社(野田秀樹)の作品を何度か目にしています。でもそれには”作・野田秀樹”って書いてありました。(上演許可は取ってないと思いますが)だから、この劇団も一筆「西田シャトナー作『破壊ランナー』より」とか書けばよかったんですよね。チラシに間に合わなかったなら、せめて当日パンフレットに。

 このお芝居に関わっていた私の知り合いは、幸か不幸か、このことを知らなかったようでその人自身がすごくショックを受けていました。このお芝居に見合うと思った額をカンパした私も相当悲しいです。

 これから、この劇団だけでなく他の場面でも、こんなことが起こらないように強く願います。あえて長々と書かせていただきました。

 ご参考までに下記。私よりも説得力があるはず。
 佐藤治彦さんのHP『H(アッシュ)』 : http://www5e.biglobe.ne.jp/~haruhiko/
 コラム「感激の記録」内 “「猫のホテル」千葉雅子の勇気を称える”

Posted by shinobu at 17:51

ニ兎社『萩家の三姉妹』10/11-19世田谷パブリックシアター

 チェーホフの三人姉妹を下敷きに、永井愛さんが大胆にアレンジした“フェミニズム喜劇”だそうです。2000年の初演では紀伊國屋演劇賞団体賞をはじめ多くの賞を受賞しています。

 旧家・萩家に住む3人姉妹のそれぞれの恋模様を、女性の自立をからめて描かれています。
 長女はフェミニズムを研究するガチガチの大学助教授。
 二女は歯科医の夫と2人の子供を持つ良妻賢母。
 三女は貞操観念のない奔放な今どきの若者。
 父親の一周忌を境に三人三様の生き方が大爆笑(苦笑)と共につづられて行きます。あー・・・気持ちよく疲れた。

 私は原作本を読んでいたのもありますが、ものすごく冷静に拝見してしまいました。とにかく予想のつかない演技と展開の連続なんです。そしてラストはもっとブっ飛びます。「ええー・・・なんでそうなる? そこ、そういう意味??」と、おののき戸惑い、のめり込めなかったのが正直なところ。

 ファッション・デザイナーの山本耀司さんの言葉(映画「都市とモードのビデオノート」より)を思い出しました。
「僕には女性デザイナーのことは理解できない。
 例えば川久保玲(コム・デ・ギャルソン)、ソニア・リキエル、ヴィヴィアン・ウェストウッド。
 男のデザイナーの気持ちはわかるけれどね。
 ジャン・ポール・ゴルチエやイブ・サン・ローラン等。」(言葉は完全に正確ではありません。)

 コム・デ・ギャルソンの服って、形が体に沿ってないものが多いですよね。それを着たら体がまるで違う物体に見えるような。「美しい」とされるものをわざと壊して、汚していく感覚。そして全く新しいフォルムが生まれます。人間存在そのものを異物にしていき、その中に本質が見出されされていくような感覚なのではないかと思います。私は永井愛さんについても同じような気がしたんです。こうなるのが人間の常だろうと予想される展開を片っ端から壊していき、それを上から上から積み重ね、さらに最後にはそれさえもぶっ潰すというか。でもそのぐちゃぐちゃが完成された世界そのものなんです。それを、笑いと驚きをもって観客の心にスイっと入り込ませてしまう。女って強い。

 対して男性の演出家の作品は、円であったり球であったり、最終的にはきれいな形に納まることが多い気がしますね。坂手洋二さん、栗山民也さん、野田秀樹さん、デヴィッド・ルヴォーさん、ピーター・ブルックさんなど。そう考えていろいろ想像すると面白いです。

 オープニングや幕間明けの音楽に昔のヒット歌謡曲(だと思われる)が使われていました。「あなたのために操を守っているのよ、私。帰ってきて、あなた~♪」みたいな歌詞の、男性が歌っている演歌とか。そりゃもーむずがゆくって笑えます。一歩間違うと超ダサになる危険も省みず、全く大胆で奔放ですよね。というか恐いもの知らずです(笑)。

 渡辺えり子さん。長女。役柄がそうだとはいえ、ちょっとナーバス過ぎでしたね。ラストの三姉妹のセリフの言い合いは、ああ、このセリフは渡辺さんならではの説得力だ!と実感。でも、やっぱり初演の余貴美子さんで観たかった気がするなー。
 南谷朝子さん。二女。不倫の恋に落ち泥沼化。エリートから不良へ転落。禁じられた恋に落ちて狂う様子が破天荒。あそこで笑えるなんて!!芸ってすごい。
 岡本易代さん。三女。同時に2人の男と肉体関係を持つ。導き出した結論も自由奔放。あまり好きになれなかったんですが、渡辺さんと同様、ラストが非常に美しかった。

 土屋良太さん。三女のもう一人の恋人役。男らしいおとぼけキャラが素晴らしかったです。『オイル』ではあまり伝わらなかった魅力全開。鍛えられた体が笑えるし。
 大鷹明良さん。二女と不倫の恋に落ちる”プリンス”役。『浮標』で最高にイヤな感じの男の役を演じられて、私は背中からしびれてちゃったんですよね。顔と体と声と演技のバランスがめちゃくちゃちぐはぐなんです。それが妙でいい。彼にしかできない。

 しかし、世田谷パブリックシアターの一番前の席ってどうなんでしょ。積極的に、観づらいです。もう先行で買うのやめようかな~。

二兎社(にとしゃ) : http://www.nitosha.net/

Posted by shinobu at 17:04