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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年02月11日

らくだ工務店『ScHOOL』02/05-08新宿シアターモリエール

 らくだ工務店は、石曽根有也さんが作・演出をする劇団です。
 ガーディアンガーデン演劇フェスティバル出場も2週間後に控えたこの時期に本公演なんて、それだけで応援したくなります。

 ガーディアンガーデン演劇フェスティバル(えんげきのページ内)

 とある田舎の中学校。学校で起こる非行問題について淡々と語る先生たち。ふたつの教室で同時並行に起こる出来事。

 特に目立った展開や事件があるわけではない、いわゆる「静かな演劇」と言われるジャンルに入る作品だと思います。でも青年団弘前劇場のように作家の強い主張が伝わって来るのではなく、あくまでも“らくだ工務店”が作り上げた空間とその雰囲気を、観客も劇団員も一緒にリラックスして楽しむという感じです。

 登場人物一人一人のキャラクターが独特ではっきりしている静かな演劇、というと、役者さんのキャラクター勝負に陥る傾向があると思うのですが、らくだ工務店は違うんですよね。空気が優しいんです。舞台の上に乗っている役者さんたちのコミュニケーションが柔らかくて、暖かくて、どうにも顔がにやけてしまいます。「あ・うんの呼吸」というのはまさにこのことだと思います。

 つまり、ストーリー展開やその整合性などは観客にとってはあまり重要なポイントにならず、あくまでも“らくだ工務店”を味わうことで心が満たされると私は思います。例えば、ラストシーンで一人の先生(佐藤洋行)がナイフで誰かを刺したらしく、手が血にまみれたまま教室に入って来るのですが、誰を(何を)刺したのかがわかりませんでした。私は彼が自分で自分を刺したんじゃないかと予想したのですが、関係者に聴いたところハズレでした。でも私は別に何でも良かったんですよね。あぁ、刺しちゃったんだなーっていうだけで。うっすらと透明な閉塞感と、それに対する一つの絶望的な突破方法だったんだなって感じただけで充分でした。

 最初にらくだ工務店を拝見したのはアイピット目白での『smile』という作品だったのですが、それと比べると「これが同じ劇団の作品なの!?」というぐらい作風が変わっています。ずっと同じなのは舞台装置が福田暢秀さんのリアルで味のあるデザインで、とってもおしゃれだということ。

 シャイな男の子と女の子が「私たち、こういう雰囲気が気持ちいいと思うんです。皆さんも一緒に味わって楽しんでいただけたらな~って思います」という、非常に謙虚で優しい姿勢を感じられる、現在の東京の演劇シーンでは珍しい劇団だと思います。

 教育実習生(宮本拓也)が先輩の先生(瓜田尚美)に心寄せている演技がほほえましかったです。やっぱり恋がなきゃね。

作・演出:石曽根有也
出演:一法師豊 志村健一 今村裕次郎 兼島宏典 石曽根有也 瓜田尚美 山内三知 佐藤洋行(明日図鑑) 宮本拓也(bird's-eye view)
スタッフ 舞台美術:福田暢秀 美術製作:F.A.T. STUDIO 音響:菊池秀樹 照明:三瓶栄 宣伝美術:C-FLAT 宣伝写真:NUMBERSICS/エリ 制作補助:高橋邦浩 企画制作:音光堂

らくだ公務店 : http://rakuda.onkoudo.gr.jp/

Posted by shinobu at 2004年02月11日 14:33