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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2004年09月07日

JACROW×ブラジル『民宿~JACROWとブラジルがお贈りする6つの怖いお話~』09/02-06中野あくとれ

 JACROWブラジルの合同公演です。なぜこの組み合わせ?と驚きましたが、仮チラシによるとどちらも作・演出・主宰だけの一人ユニット(JACROWは中村暢明さん。ブラジルはブラジリー・アン・山田さん)だったんですね。現在のブラジルには辰巳智秋さんという可愛らしいおデブさんキャラの役者さんと、制作さんが一人加わっています。
 ものすごい山奥の過疎の村にある、旅館(民宿)を舞台にしたホラーストーリーでした。(この先ネタバレします)

 6話のオムニバス(JACROWとブラジルが3話ずつ)だったのですが、完全にバラバラの短編集ではなく、少しずつ登場人物が重なっていき、中盤以降は1つのお話だと受け取れる展開でした。
 狙いやカラーが全然違うので、JACROWかブラジルのどちらの作品なのかはすぐにわかりましたね。

 第1話では「これはホラーですよ~、怖いんですよ~」という空気をしょっぱなから作り出してしまっていたので、ちょっと興ざめしてしまいました。ごく自然に、穏やかに始まり、徐々に奇異な事象を挟み込んで行ってくれると「なんだかヘンだな」「え、もしかして・・・!?」という風にお話に入っていけたと思います。露骨に化け物(幽霊)が登場するのにも、ちょっと笑ってしまいました。
 第2話で、舞台になっている村には昔、炭鉱があって、地盤沈下のために150人(?)以上が生き埋めになったという事実が明らかにされます。ここでも最後に着物を着た幽霊らしき女が出てきてしまい、なんだかちゃちいなぁと思いました。
 しかしながら第3話で、第1話で化け物に襲われた男の妻と弟が登場し、旅館の仲居さんが同一人物だったので「あぁ、つながっているお話なんだな」「なるほど、第1話と第2部は導入部分だったのか!」とわかります。けっこう快感なんですよねぇ、こういうの。

 その後は不安なく楽しむことが出来ました。幸運なことに(「残念ながら」と言う方がふさわしいのですが)私には怖くなるシーンはなく、登場人物のバックグラウンドや、役者さんの演技、ホラーならではの演出を味わいました。怖いの、すっごく苦手なんですよ、私。上川隆也さんと斎藤晴彦さん主演の『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』@パルコ劇場を観て以来、演劇のホラーはやっきになって避けています。ほんとに寝られないぐらい怖いんですもん。

 ふすまと障子が突然、誰の手も借りずに開いたり閉じたりするのは日本の怪談のお約束ですよね。それが実現されていて嬉しかった。ただ、美術はもうちょっと写実的に作るよう頑張ってもらいたいですね。
 JACROWバージョンでは、行方不明になった夫を探すために民宿を訪れた妻と義理の弟が、実はかねてからの不倫の仲で、事故を装ってお腹の子を堕胎するなど、ドロドロした人間関係が徐々にあらわにされていくのが面白かったです。音楽はイマイチかな。場面の説明をしているようなわかりやすいものでしたので、私の好みではありませんでした。
 なんといっても目玉はブラジル・バージョンの第2話(通しで言うと第4話)の、お姉さん(柳田由香)とその弟の彼女(近藤美月)の二人芝居でしょう!嫁と小姑のありふれた諍いかと思いきや、2人ともまともな解釈が不可能な発言の連発。互いが一体何を望んでいるのか、しゃべっている当人同士も観客も、全くわからない緊迫したやりとりの中から、2人をつなぐ共通の過去があぶり出されていきます。脚本も演技も良かったな~。ブラジルの次回公演(12月)に柳田さんも近藤さんも出演されます。すごく楽しみ!

 中村さんがJACROWのBBS(8月17日(火)投稿「どうぞお楽しみに」)に書かれています↓
 「JACROWとブラジル、いい感じで反発しあっております。それはまるで、うなぎと梅干のような・・・ ちなみに、うなぎと梅干の食い合わせが悪いというのに科学的根拠はないそうです。」
 ブラジリー・アン・山田さんがブラジルのBBS([552] 近況報告)に書かれているのは↓
 「ジャクロウとブラジルの合同作品、うまい具合に混ざり合い、反発し合う、もんじゃとお好み焼きを同じ鉄板で焼いたら、思ったより混ざってしまった感覚に近い(と思う)、逸品となる予感。」

 なるほど、そんな感じでした。どう考えてもフィットしようがない2団体のカラーが、混ぜてみたらきれいなグラデーションが出来ていて、誰が見てもけっこう楽しめたというような。観ている方は気楽にこんなこと言ってますが、作る方は大変だったんじゃないかしら。主宰のお2人はかなりの時間を掛けて話し合いを持ったそうです。
 あと、どちらかというとブラジルがもんじゃだったように思います(意味はない)。

 柳田由香さん。着物を着た姉さん幽霊(?)役。久しぶりに小劇場界で「女優」を見た気がしました。どんな人間にでも、人間じゃないものにも成れそうです。怖いぐらいに彼女の姿が焼きついています。
 川上冠仁さん。黒澤清役。すごく人懐っこく笑いかけるくせに、本当は血も涙もない冷徹ワンマンな役でした。かっこ良かったです。やはり意外性(ギャップ)に人は惹かれるんですね。東京オレンジ主宰の横山仁一さんが、大河ドラマ『新撰組!』の土方歳三役の山本耕史さんを例に挙げ、今回の川上さんも同じ種類の当たり役だとおっしゃっていました。
 近藤美月さん。黒澤清(川上冠仁)の彼女役。近藤さんが普通の女の子を演じるところを初めて見た気がします。すっごく普通で、可愛いかった。だから、中盤でお姉さん(柳田由香)とやりあうのが怖いんですよね。仮面の下の本性が現れるのです。

総合演出:ブラジリィー・アン・山田 総合製作:中村暢明 作・演出:ブラジリィー・アン・山田/中村暢明
出演:柳田幸香 佐藤亜紀 近藤美月(bird's-eye view) 土屋美穂子(Attic Theater) 太田恭輔(ブラボーカンパニー) 川上冠仁(Attic Theater) 佐藤春平 小島フェニックス 吉富光宏(双数姉妹) 肱川要亮 吉田友彰 辰巳智秋(ブラジル)
舞台美術:伊藤秀男 照明:シミズトモヒサ 音響:島貫聡 衣装:中西瑞美 小道具:村田真紀(グワィニャオン) 宣伝美術:川本裕之  舞台監督:杉江聡 舞台監督補:亀川朝子(ベターポーヅ) 企画・制作:恒川稔英 
制作協力:吉野礼×浅見絵梨子

JACROW(ジャクロウ):http://www.jacrow.com/
ブラジル:http://www.medianetjapan.com/10/drama_art/brazil/

Posted by shinobu at 2004年09月07日 17:37 | TrackBack (0)