REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2004年12月29日

reset-N『ROSE』11/30-12/05こまばアゴラ劇場

 reset-N(リセット・エヌ)は夏井孝裕さんが作・演出される劇団で、私は賛助会員Support-N(※1参照)に入っています。
 ※ネタバレします。セリフは脚本から引用しています。

 最初に若い女性が1人出てきて、静かに語りながら舞台設定を説明するのですが、それだけでじーんと来てしまいました。
 「何からやっていいか。」
 「何からやっていいかわからなかった。東京だった街の片隅の、植物園だった場所で、何からやっていいかわからなかった。ガラスの破片の下に、ここにいたみんなの血が溜まって固まっている。」
 こまばアゴラ劇場の小さな舞台が、戦場になりました。

 “何らか”の大義名分を得て、アメリカをはじめとする多国籍軍が日本に対して武力攻撃を開始し、空爆などで何万人もの日本人、および日本にいた人間が殺害された。時の日本政府がさっさと逃げ出してしまったため、日本は実質的な無政府状態に陥っている。多国籍軍以外にも人民軍、反乱軍、指揮官のいない自衛隊などの様々な軍隊が街を占拠して、窃盗、暴動、無差別殺人が横行している・・・。
 「イラク戦争が、日本で起こっていたら?」という仮定でこのお話が書かれているのは明らかです。

 舞台上には黒い土(ゴムだそうです)が敷き詰められており、ところどころ銀色に光っているのは一円玉でした。崩壊した国の通貨ですからゴミ同然になっているんですね。「円もらったってですね・・・」というセリフともつながります。(ちなみにイラクの通貨はイラク・ディナールというそうです)

 “何らか”というのは、日本人が“アメリカの資本で”黄色人種以外を攻撃する遺伝子兵器を開発し、それを国内に隠して持っていたということ。劇中に出てくる、品種改良で青い薔薇(バラ)が作られたのも今年の話、アラブ人だけを攻撃する遺伝子兵器がイスラエルで作り出されたというのも最近の話で、すべて本当のことだそうです。

 外人兵士ナガサキが語る日本の歴史についての彼の考えには、私は同意ではありません(※2参照)。でも、一人の英国人が自分の母親の祖国(日本)のことを勉強して、個人的にそう感じたというストーリーですので、すんなり受け入れられました。むしろその後にナガサキが語る言葉から、作者・夏井さんの日本人、および人類全体に対する愛がグサリと私の胸に届き、涙がぼろぼろこぼれました。

 「矛盾の中で俺たちは生きてる。」 
 「・・・君たちに頼みがある。」「日本語を、使い続けるんだ。」「新しい政府がどうなっても、日本語をしゃべっていてくれ。」

 「俺は、モルモットじゃない。わけのわかんない細菌の感染者第一号になるために生まれてきたわけじゃない。俺は実験動物にはならない。」
 「俺は獣にはならない。悪魔にもならない。俺は・・・、俺は英雄じゃない。救世主じゃない。でも犠牲者にはならない。被害者にもならない。伝説にも、標本にも、なりはしない。俺は・・・、俺は・・・!」

 若者らしい軽い感覚のちょっとかっこいい笑いがたくさんあるし、音楽も体がノっちゃうぐらい心地よくてクールなので、設定は非常にシビアなのですが楽な気持ちで最後まで観られました。場面転換するごとに人物や状況について少しずつ明らかにされていくのも、単にわくわくするし、面白いです。

 演劇に全然詳しくない友人がこの公演を観て「めちゃくちゃ面白かった」と言っていました。また、「小さな劇場でやっているが、違う方法で表現する方がいいのではないか」とも言っており、具体的にそれは何なのかはわからなかったのですが、私も似た感覚を持ちました。演劇じゃなくても、というか、演劇はもちろんのこと、他の分野にも広がっていけるんじゃないかと思うのです。映像でもいいし、何だろう、朗読とか・・・Webのストリーミング映像とか?あぁ、うまく言えないんだけど、とにかくアゴラ劇場から何らかの大きなうねりが生じたのは間違いないです。

 Wonderland内で、松本和也さんがこの作品について鋭い分析をされています。

 ※1 賛助会員Support-Nは年間1万円からの会費でその年の全公演を招待してくださり、会報誌も年2回発行、そして公演のたびに上演台本をプレゼントしてくれます。これはオトクです!

 ※2 ナガサキは、第二次世界大戦の終結時に日本が「無条件降伏した」と言いますが、日本は当時の政府が「ポツダム宣言を受理する」という形で条件付きで降伏しています。ヒットラーが自殺していたドイツの場合は「無条件降伏」となりましたが、日本はそれと同じではありません。ナガサキが語る「大政奉還」についても私とは解釈が違いました。(参考文献:清瀬一郎著「秘録 東京裁判」)

作・演出:夏井孝裕
出演:久保田芳之 鶴牧万里 原田紀行 平原哲 生田和余 長谷川有希子
グランドデザイン:massigla lab.(夏井孝裕・荒木まや・福井希)演出助手:山本将也 小道具:M'z garden 宣伝写真:山本尚明 宣伝美術:quiet design production 制作:秋本独人・森下富美子・河合千佳 reset-N other members:町田カナ・篠原麻美・文珠康明・綾田將一 協力:ステージオフィス・NPO法人アートネットワーク・ジャパン 企画制作:reset-N/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
reset-N:http://www.reset-n.org/

Posted by shinobu at 2004年12月29日 18:03 | TrackBack (1)