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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年04月19日

三鷹市芸術文化センター+bird's-eye view『-Second Line Ver.3-girl girl boy girl boy』04/17-25三鷹市芸術文化センター 星のホール

 bird's-eye view(バーズ・アイ・ビュウ)は内藤達也さんが構成・演出をするプロデュース形式のパフォーマンス集団です。
 本公演とSecond Line(セカンドライン)という2種類の公演を打っていて、Second Lineは簡単に言ってしまうと短編コント集形式なのですが、今回は壮大なスケールのパフォーマンスであり、強いメッセージも伝わってきました。
 ヌード写真のチラシにはびっくりしましたが、内容には関係なかったように思います。

 私がバーズ・アイ・ビュウを初めて観たのは第10回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルの『シンク/SYNCHRO』@スフィアメックスでした。何もない空間の中央にかなり高さのある四角い箱状の舞台を設営し、その箱の中から役者が登場するようになっていました。そういえば彼らが普通の額縁舞台(プロセニアム・アーチ形式)で公演するのは企画公演やイベント以外では見たことがありません。今回もまた然り。(これ以降はネタバレします。)

 狭い通路を通って通されたのはいつもの星のホールの面影ゼロの劇場でした。中央に正方形の舞台があり、舞台両袖からの通路(花道)と、舞台面に開いた2つの四角い穴から役者さんが登場します。
 劇場全体の壁や幕は真っ黒で、舞台面は白。役者さんの衣裳もモノトーンでした。ポップでリズミカルな音楽に乗せて幕が開くと、いきなりベタなコント。きれいに着飾った若者がコンセプチュアルな設定で笑わせてくれます。(私が好きだったのは“外国語から日本語になる男女のケンカ”と“話し方がスローな、妻の浮気現場発見”)

 中盤を越えた頃にとうとう本領発揮でした。舞台奥の壁は、実は黒と半透明の千鳥格子の緞帳(どんちょう)だったのです。黒い布がゆっくり上に上がると、だだっ広い真っ白の空間が現れます(普段は客席になっているところですね)。その空間の壁面は巨大なスクリーンになっていて、昨年の『campus;full』@青山円形劇場のように動画映像が映し出されました。交差点、駅のホーム、電車の中、道端の草など、私たちの日常の風景がめまぐるしく映し出される中、役者さんが歩いたり走ったり踊ったり立ち止まったり、日常的もしくは幾何学的な動きで空間を埋めていきます。

 遠くで人が動いている、言葉を発している、誰かと何かをしている、それぐらいしかわからないほど役者さんが遠くにいます。広い運動場で練習する野球小僧(外野手)、サバンナの果てをゆっくり歩くキリンの影、遠い海の水平線の向こうにかすかに映る船など、そんなイメージが私の頭の中に溢れてきました(実際はそんな演技はされていません)。中でも非常に象徴的な演出だったのは、白い裸のマネキンが数体、ぽつりぽつりと置かれていったことです。外国人が片言の日本語をしゃべるアナウンスが流れる中、そこにはマネキン以外、誰もいなくなりました。私は身を乗り出してじっくり耳を傾け、目を凝らしました。と言ってもアナウンスを聞いたのではありません。そこから溢れてくるメッセージを感じたのです。

 自分と他人。こことどこか。それらは存在する。それらは遠いようで近い。実は確かな関係があるのだ。
 私とあなたは、今ここに居て、互いを感じている。そしてそれは真実である。
 断片的ですが、そんなことを実感しました。

 杉浦理史(ピエール)さんの私的なネタ(実家が名古屋の味噌・醤油工場で、自分は東京に出てきて役者をしているが、26歳になってそろそろ実家を継げと言われ始めた、等)から幕開けし、家族、友人、恋人などの身近なトピックで笑いを取っていく前半。そして緞帳が上がると、突然遠くまで広がった空間に役者が飛び出していき、何者でもない誰か(マネキン)とともに観客から遠ざかります。そして遠くと近くとが連携するコントで全体をつなげてから、終盤になると広い空間から客席の目の前の四角い舞台へと役者が駆け込んできて、他人(舞台・役者)と自分(観客)が再び接近します。非常に巧妙な構成・演出だと思います。

 なんだか難しいことを書き連ねましたが、とにかくきれいだし、かっこいいし、楽しいし、笑ったし、じーんとしました。同じく三鷹芸術文化センターで上演された『パッケージ』ではラストシーンで涙がツーっと流れたんです。今回はそれとは違った意味で一つの感動を覚えました。この劇場とbird's-eye view、とっても相性が良いのではないでしょうか。

 墨の黒を思わせる和風のコスチュームには、ところどころに丸くかたどる刺繍が施してあり、ちぎった和紙を貼り付けてあったりしました。生地はちりめんだそうです。道理でなめらかな動きが出ていました。緞帳とも和のテイストで合っていますよね。

 もう何度も拝見しているのでbird's-eye viewの皆さんのことは一人ずつが独立したパフォーマーさんとして認識し始めています。彼らがコツコツと稽古場で創ってきたものがbird's-eye viewならではの空間で結実する、そのリアルを体験するのは嬉しいことだと思います。

 青山千洋さん(演劇集団キャラメルボックス)。うっとり見とれてしまうほどの和風美人。艶やかに色っぽい。静止するのが面白いしきれい。実は天然ボケですよね(笑)。

構成+演出:内藤達也
出演:杉浦理史 小野ゆたか 諌山幸治 宮本拓也 日栄洋祐 松下好 近藤美月 山中郁 中村早千水 石橋志保 小林至(双数姉妹) 櫻井智也(MCR) 桑原裕子(KAKUTA) 青山千洋(演劇集団キャラメルボックス)
舞台美術/秋山光洋 照明/榊美香(I's) 音響/島貫聡 映像/ナツキ(DEMODEX) 舞台監督/藤林美樹 コスチューム/佐野智恵子 ヘア・メイク/大内真智 モデル/小春 宣伝美術/草野リカ(alon) 写真/おさないようじ 演出助手/明石修平 制作協力/ゼクシード 制作/保田佳緒 熱海静恵 眞覚香那子 主催/(財)三鷹市芸術文化振興財団
バーズ・アイ・ビュウ:http://www.b-ev.net/

Posted by shinobu at 00:34