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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年07月29日

劇団山の手事情社EXTRA企画『作、アレクサンドル・プーシキン』07/28-08/01こまばアゴラ劇場

 ロシアの作家プーシキンの小説『スペードの女王』を元にした作品でした。山の手事情社の役者さんが4人出演されていて、演出は小鳥クロックワークの西悟志さんです。こまばアゴラ劇場の夏のサミット2004参加作品。
 最初は実験的で少々難解な感触だったのですが、中盤のラブシーンで感動!

 こまばアゴラ劇場の壁がそのまま露出した素舞台でした。普段は真っ黒な壁3面(右、左、正面)のうち2面(左と正面)全体を白く塗っていて、そこに赤と黒の衣装の役者が登場します。白、黒、赤でトランプのイメージですね。受付で渡される整理券もトランプを使ったものでした。粋ですね。

 オープニングの音楽はなんとBeatlesの“Back in the USSR”。すかさず役者が舞台に駆け込んで来て、すぐに暗転したのがものすごくカッコいい!長い暗転のままセリフをぽつりぽつりと発していきます。前半は「プーシキン、大好きだ!!」という演出の西さんの叫びが聞こえてきそうでした(笑)。登場人物はみんな文庫本片手に話しますし、時々「プーシキン!」とささやいたりします。その後も長い暗転やシーンの繰り返しなど、奇抜な展開が続きましたので着いて行くのが大変でした。でも役者さんが達者なのでぐいぐいと引っ張られ、自然とその世界に入り込んで行けました。

 『スペードの女王』はちゃんと盛り上がりもあり顛末もあるお話なのですが、あんまり覚えてないんですよね。どうやら私はお話よりも雰囲気や演出を楽しんでそれで満足しちゃったみたい。観終わった後の作品全体の印象は「閃光」かな。欲望と愛のかけがえのない刹那を味わえました。

 選曲のセンスが最高に私の好みでした。演出の西さんの当日パンフレットの文章から抜粋しますが「19世紀ロシアと現代日本人。違うけど一緒。同じだけど違ってる。」という意味がまさに表されていました。特に椎名林檎の音楽でぐるぐると走り回る恋人“未満”の男女には、胸きゅんを通り過ぎて鳥肌でした。ゲルマン(山本芳郎)とリーザ(倉品淳子)は、プラトニックな恋だからこその究極のときめきを、規則的な動きと内に秘めた情熱的な演技とで伝えてくださいました。素敵すぎる!

 蛍光灯をメインに使った照明(木藤歩)もテクニックが光りました。暗闇でゲルマンのその後を語る“女”(内藤千恵子)にじわじわと光が当てられて、徐々に年老いた伯爵夫人へと変化していくシーンは圧巻です。

 ただ、ものすごく残念なのは役者さんが早口すぎて何を言っているのかわからない所が非常に多かったことです。特にクライマックスの勝負のシーンでは4人全員で同時に話しますので、どうしても息が合わない瞬間が出てきます。あれは別々に(普通に)やってもらいたかった。だってゲルマンが勝負に勝ったのか負けたのかもわからなかったんですよ。悲しすぎます。

 倉品淳子さん。若い女役。可愛い!美しい!うらわかき清純な乙女でした。倉品さんも泣いてたけど、私も泣いてました。
 内藤千恵子さん。老婆役。山の手事情社『DOUJOUJI』のラストシーンも素晴らしかったですが、舞台に一人立っての独白は神々しいほど見事です。

原作=アレクサンドル・プーシキン 演出=西悟志(小鳥クロックワーク) 翻訳=上田洋子
キャスト=山本芳郎・倉品淳子・内藤千恵子・村上哲也
照明=木藤歩 音響=江村桂吾 衣装=渡邉昌子 美術協力=横田七生 宣伝写真=大石創介 宣伝美術=上野明則 制作=福冨はつみ 企画監修=安田雅弘
主催=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 企画制作=UPTOWN Production Ltd.・(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
山の手事情社:http://www.yamanote-j.org/
小鳥クロックワーク:http://kotori_clockwork.at.infoseek.co.jp/
こまばアゴラ劇場:http://www.letre.co.jp/agora/

Posted by shinobu at 16:31 | TrackBack