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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年11月07日

庭劇団ペニノ『黒いOL』11/03-09西新宿6丁目15番地広場(グリーンタワー横)

 強烈なチラシ・ヴィジュアルだなぁと思って気になっていたのですが、野外にテントを建てていると聞いて、観に行くことにしました。
 演劇ではなくパフォーマンスに分類される作品だと思います。

 新宿西口方面の空き地に、かまぼこ兵舎のように長細い特設テント劇場が作られていました。それだけで圧倒されましたね。今は無き駒場小劇場を思い出しました(駒小はテントではなかったですが、手作り感が似ています)。桟敷にベタっと座って待っていると、黒いスーツ姿の怪しげな男が客席の真ん中の通路を通って舞台に登場します。2人目も出てきて何やらいかがわしげな相談事。正面の黒い幕の向こうに突然小さなホタルのような光が点在しはじめました。わぁ・・・きれいだなぁ~・・・と思っていたら黒い幕が左右に開き、ものすごい舞台が忽然と現れました。(ここからネタバレします)

 かなり深い奥行のある廃墟のような空間。長細く続く舞台の中央にはドロ水の水溜りが数個あり、小さな川のよう。火の点ったろうそくが、水溜りの周りや舞台前面に数十本立てられている。舞台の両脇に黒い服を着た女たちが整列して立っている。ロングのタイトスカートを履いている者もいるが、基本的には白いシャツに黒いスーツの衣裳で揃えられている。汚いシンク、ピアノ、大きな鹿の首。一番奥の一段上がったところに、事務イスが数個並べられているのが微かに見える。

 ドロの水溜りの中にジャブジャブと脚を突っ込んで歩き回る女の子を見るのが、まず気持ち悪かったです。でもそんなことでビビってても楽しめないなぁと思い、なるべくドロは気にしないようにしてリラックスして挑みました。

 舞台面の両脇にいる2人の男は、青いライトで虫(黒いOL)をおびき寄せて、まとめて穴(?)の中に閉じ込め、無駄な労役を強いて管理している。下手手前で男の1人がピアノの生演奏をしているのも、OLの仕事をリズミカルに進めさせるための伴奏のよう。
 舞台奥の一段上がった所から小さなトロッコが転がり落とされてきた。荷物の中身は山盛りのパンティ・ストッキング。それをドロ水で懸命に洗うOLたち。文句をぶつぶつ言いながら洗い終わったパンストを干していくが、途中で作業をやめて休憩室(給湯室?)と思われる窮屈な部屋に入っていく。大人数ですし詰めになりながらタバコを吸いつつ狂ったように談笑する・・・・。
 OL達がストッキングを洗い終わった後に、黄色いヘルメットを被った労働者風の男が天井から落ちて来た。これは意味がわからなかったです。
 作業服の男達(OR?)が出てきて暗転した後、スーツを脱いで裸に近い格好になった一人のOLが、上手手前の壁に空けられた丸い穴からヌっと現れた。彼女は客席に背を向け、舞台奥へと歩いて去っていく。シルエットがとても美しかったです。これがラストシーンでした。

 無事に最後まで観て「これは一体何だったのか」と考えてみたのですが、“不毛”と、そこからの“離脱”もしくは“開放”ではないでしょうか。チラシのコピーには「庭劇団ペニノのオフィス・ランドスケープ」とありますので「会社の風景」を表したんですよね。『黒いOL』というタイトルはそのまま「黒いスーツを着たオフィス・レディー」だとわかってホっとしました。チラシ・ヴィジュアルはどう見てもオフィス・レディーじゃないからね(笑)。「黒い」には色以外にも様々な意味があるのでしょう。
 
 私はOLをしていた時期があるので(今もそれに近い業務をしています)、なるほどなぁと共感したりクスッと笑えたりした部分もありましたが、全面的に同意できるわけではなかったです。でも、庭劇団ペニノとしての「オフィス風景」ですから別に同意なんてしなくてもいいんですよね。
 テント劇場に行くこと自体が面白いし、奥行きと地面があるからこそ出来る作品です。音楽、美術、照明、衣裳などについても細部に渡ってこだわりが感じられます。「これが作りたかった」「これが私のやりたいことだ」という気持ちが伝わってきました。好みははっきり分かれると思いますけど。
 終演後に舞台上を歩いて見て帰ることが出来て嬉しかったです。

作・演: タニノクロウ
出演: 島田桃依 瀬口妙子 墨井鯨子 野中美子 磯野友子 六分一サラ 河野辺舞 野崎浩司 吉野万里雄 海老原聡 野平久志
舞台美術:樋亮太 舞台補佐:鈴木仁美 舞台美術:玉置潤一郎 谷野九朗 照明:今西理恵 音響:小野美樹 宣伝美術:渡辺太郎 演出助手:小野美樹 Web:定岡由子 制作協力:三好佐智子 制作:小野塚央 野平久志 舞台総括:海老原聡 企画・製作:puzz works 協力:(有)quinada 写真モデル:O.J.Loco
庭劇団ペニノ:http://darkmaster.ld.infoseek.co.jp/

Posted by shinobu at 23:40 | TrackBack

新国立劇場演劇『ヒトノカケラ』10/22-11/03新国立劇場小劇場

 新国立劇場の小劇場をさらに小さく使うTHE LOFTという企画の第1弾(3弾まであります)。
 クローン人間をモチーフにした現代劇です。

 舞台は2005年の日本。KKSという遺伝性の死に至る病にかかっている母子と彼らをとりまく人々のお話。(KKSとは架空の病で、50%の確率で母子感染して40代で発症、症状は自律神経失調と重度の記憶障害で、発症から4~5年で廃人同然となり死亡する、という設定)
 聡子(キムラ緑子)は母親から遺伝したKKS患者で、既に自律神経失調が始まっている。彼女には息子・融(若林誠)がおり、彼こそが聡子が20年前にクローニング出産(母親の遺伝子を受け継がない子供を生むこと)で産んだクローン人間だった。聡子とその妹・真梨子(佐藤あかり)はその事実をひた隠しにして生きてきたが、KKS患者による日本“初”のクローニング出産が発覚したことで、彼らの平穏な生活に破綻が訪れる。

 自分の病気が子供に移ってほしくない一心でクローニング出産をした、というのがこのお芝居の中の事件の発端であり、これからクローン人間の是非を問う時代にはこういうことが一番の懸案事項になっていくと思われます。このお芝居では遺伝子病患者がいかにつらい思いをするか(しているか)という点に、必要以上に重点が置かれていたように感じました。遺伝性の難病は現実にも存在するので、そのリアリティを描くことは大変だし重要だと思うのですが、今作品のテーマであるクローン人間自体にもっと焦点を当てて、掘下げていってもらいたかったです。私は最先端のクローン技術についての知識を得たかったので、それを教えていただけたことは充分嬉しいのですが、ドラマとしては納得いかないことが多く、感情移入できなかったです。感傷的なメロドラマである面ばかりが印象に残りました。
 
 ストーリー展開で腑に落ちなかったことを書きます。
 聡子は息子のクローニング出産のデータが書かれたノートを焼こうとするが、体が思うとおりに動かない。中庭で倒れているところを家政婦に発見され、“ノートをその場に置き去りにしたまま”家に運び込まれる。そしてそのノートを、ES遺伝子バンクの芹沢(KONTA)から「ノートを探してほしい」と“言われたばかり”の“息子”が見つけて、読んでしまう。自分の出生の秘密を知ってしまった息子は、台所で自殺を図ろうとする。のどもとに包丁を突き刺そうとしているところに、“ちょうど”聡子が現れ、聡子と息子の命がけの大喧嘩が始まった。言い合いの末に聡子の夫の死について新たな謎が発覚し、その真相を解き明かすべく息子が聡子に詰め寄った“途端”、聡子に記憶障害が起こり、普通の人間ではなくなってしまう・・・。タイミングが良すぎます。そんな都合が良すぎる展開に、役者さんの迫真の演技も空しく私はちょっぴりシラけちゃったんです。また、細かいことですが、体が思うとおりに動かない聡子がなぜ必死でワープロ打ちをしたのでしょう。あれは妹がやれば良かったのでは?

 女性の体から卵子を取り出して、その卵子とES細胞と合わせて臓器を作るんですね。だから色んな卵子を“買って”集めてるっていうのは怖い。「卵子や細胞は言わばヒトノカケラだ。ヒトになるかもしれなかったものが、肝臓とかホネとかになっちゃうのはどうなの?」という疑問は最もだなぁ。科学を突き詰めると必ず倫理や哲学に行き着くという意味がよくわかります。「あなたはクローン人間を、そしてクローン社会を認めますか?! 」という風に公式ページに書かれていますが(あまりにストレートでちょっと苦笑しちゃう文章ですが)、きっと私達自身がこの選択をしなければいけない日が遠からずやってくるのでしょう。

 THE LOFT企画ということで、いつもの小劇場をさらに半分ぐらいの大きさにして、舞台と客席の距離を近く作られているのですが、臨場感が増したようには感じられませんでした。私は最前列でしたが、通常の新国立劇場小劇場の公演の最前列の時と変わらないんです。たぶん装置が原因なんじゃないかなぁ・・・およそ3階レベルまで作られている大きなものだったので、見上げることが多かったのです。見上げるよりも視線のすぐ前に舞台があって欲しいです。あと、ただのわがままなんですけど、ベンチシートっていうのがつらかった。どうせならもっと「小劇場」の雰囲気を味わいたいと思っちゃいますね。

 美術は金属を使ったシャープで近未来SF的なイメージが強いものだったのですが、戯曲の内容からしてあまり合ってない気がしました。クローン人間よりも家族のドラマがメインだったようですから。映像を使う公演は今すごく沢山あって、どんどんレベルが上がっています。だから大きなスクリーンを使えばいいってわけじゃないんですよね。

 キムラ緑子さんの演技は圧巻。だけど作り物っぽさが垣間見えてしまう演出のせいで、“自分の思うとおりに体が動かない演技”が踊りの振付のように見えることがあり、余計だなぁと感じることがありました。

作:篠原久美子 演出:宮崎真子(崎は違う字です) 美術:二村周作 照明:磯野 睦音響:小山田昭 衣裳:加納豊美 ヘアメイク:林裕子 演出助手:松川美子 舞台監督:茂木令子
出演:キムラ緑子 KONTA 若林誠 上田桃子 佐藤あかり 橘ユキコ
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s242/s242.html

Posted by shinobu at 16:50 | TrackBack