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2005年01月10日

ネットワーク ユニット Duo【俳優指導者養成ゼミ2004】12/06-10, 13-17森下スタジオ②

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新しくてきれいな森下スタジオ

 【俳優指導者養成ゼミ2004】レポート②です。①はこちら。③は執筆中です。

■山中ゆうり先生
 ゆうり先生はムーブメント・ティーチャー。つまり“動きの先生”なのですが、実は“言葉の魔法使い”です。私が勝手に命名しました(笑)。
 朝10時に全員集合してゼミの一日が始まる時の、最初の呪文はコレ。

 「目の前に境界線があります。その先は、日常を超えた世界です。」

 生徒は気持ちの準備ができてから、おのおの自分のペースで足を踏み出して、一歩前進します。そしてゆうり先生が「ようこそ」とご挨拶。日常から意識的に自分を解放することで、自由な行動が出来るようになります。人間は意外に自分で自分を縛っているものですよね。
 そして・・・これって、劇場です!私は劇場に“日常を超えた世界”を求めて足を運んでいます。その劇場を作るのが、俳優。日常・非日常を自由自在に行き来することが俳優の仕事なんですね。

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体と心が、他者および世界と一緒に動きます。

 日常を超えた世界にみんなが集まったら、エクササイズ(体操)が始まります。

 「鼻からきれいな酸素を吸って、いらない考えや、邪魔なものを、吐く息と共に体から出してください。」
 「ぽっかりと存在しています。」
 「きれいな酸素が鼻から深くゆっくりと入ってくる。」 
 「体が洗われていく。」
 「上半身が楽に、大きくなってくる。」
 「まわりの空気が自分の体を動かしてくれる。」

 生徒は徐々に体と心をほぐしていきます。体を客観視することによって、心(脳)によって動かされる体を知り、その体の周りにある空気、つまり世界を知ります。その世界の中に存在する自分、世界がないと存在しない自分、世界と一体である自分、というように、生徒は「自分」というものをエクササイズによって体感していくのです。さらに、耳からはゆうり先生の魔法の言葉が溶け込んできて、頭脳からも「自分」を自覚していきます。

 そして、これまた私の心にビビっと響いた言葉、“腰の遊び時間”が始まりました。要するに腰のストレッチなのですが、「腰」を擬人化することで深く、優しく自分を見つめていく時間なのです。

 「腰の気が済むまで気持ちのいいところを探していってあげます。『ありがとー!』というところで止まってあげる。」
 「『気持ちいい!ここだー!』というところを丁寧に探していきます。」
 「狩りに出かけていくみたいに探し続けてあげます。」

 腰が済んだら全身に“狩り”に行きます。

 「全体がくまなく気持ちよくなるように、探しに行ってあげます。すみずみまで気持ちよくなれるように、全身くまなく隅々まで気持ちよくなっていって、幸せな体になっていく。」
 「よつんばいになって、首、背中、の運動。顔をグーチョキパーにして。体の気の済むまでやらせてあげます。」


★衝動を与えるエクササイズ
 すっかり体と心が気持ちよくなったら、次のエクササイズへと進んでいきます。
 “衝動を与えるエクササイズ”は、2人1組になって片方が片方に何らかの刺激を与え、その刺激を利用して「“何事も始まって終わる”ということを学ぶためのもの」です。

 例えば右手を正面からつついてみる。つつかれた方は、つつかれたままに素直に右手を後方に揺らします。そして反動で元の位置に戻ってくるのを待ちます。そのまま止まらないで、つつかれた力がだんだん大きくなるように、右手を降り続けます。徐々に大きく、大きく。この場合は振り子のような動きになりますね。右手だけでなく体も一緒になって、大きく前後に振り動かされていき、これ以上大きくは動かせない、もう充分だ、という限界まで達すると、今度は徐々に動きを小さくしてきます。そして、最後は静かに止まります。
 
 「楽しい!気持ちいい!がポイントです。体が『ああ、いいや』と思うまで。」
 「自分からあの動きをするのが大変ですよね。助けがあるからできる。」
 「外からの衝動をもらえれば、どれだけ楽しいか!!」
 「衝動に正直に答えられるからだがあれば、声は自然と出る。『は~』とか『ふ~』とか。」

★指会話
 そして、私が感動して泣いてしまった“指会話”のエクササイズ。2人1組になって向かい合って地べたに座り、手を前に出して、指だけで2人のコミュニケーンを図ります。まずはゆうり先生と女生徒のを見せていただいたのですが、本当に指しか使わないのに、明らかに“対話”がそこにありました。

 ゆっくりと語り始めるゆうり先生の手に、女生徒はさすがに戸惑います。「だって、“手”じゃん。“手”だけじゃん。どうやって“話”できる?う~・・・とりあえず動かしてみよう!」という感じ。しかし、「相手が手を動かし終わってから、自分が動かす」というルールに則って続けていくと、あら不思議、手がしっかり言葉を話しているように見えてくるのでうす。しかも本当に相手のことを想っている正直な感情が、2人の間を行ったりきたりしながらお互いを暖かく包んでいくのが、遠くから眺めている私のところまで届きました。

 「『始まりがあって、展開があって、終わる』これを感じるエクササイズです。相手を見て、対話する。」
 「しゃべる時に、ではなくて、しゃべる前に息を吸う時に、セリフ(表現)は始まっている。」

 たくさんあったエクササイズの中から“衝動を与えるエクササイズ”と“指会話”をご紹介しましたが、この2つからもわかるのは、“あなたがいるから、私がいる”というフィロソフィー(哲学)です。演劇の手法だけを学ぶのではなく、人間がこの世界に存在している意味が、エクササイズからわかるのです。


★「稽古はお客様のため」
 最後に、このゼミがあることの意味を端的に表しているゆうり先生のお言葉をご紹介します。

 「ワークショップや訓練場は役者のため。稽古が始まったらお客様のため。」

 舞台作品を作ることになると、だいたい1~2ヶ月間の稽古期間があります(私の経験上)。出演者や演出家が集まる稽古場では、当然のことながら俳優のための基礎訓練の時間はありません。プロフェッショナルの俳優は、稽古が始まったら作品を観に来てくれるお客様のために稽古をするのです。
 だから俳優は、自分自身の技術力アップおよび新しい知識を得るために、こういったゼミやワークショップを積極的に利用すればよいのです。

 今の日本に、このゼミが「存在する」ということがわかっただけでも私は一歩前進したと思います。これから少しずつでも、この演劇コミュニケーションを経験した俳優が増えていくことで、日本の演劇がより質の高い、より沢山の人を幸せにするものになることは間違いありません。

Posted by shinobu at 2005年01月10日 16:13 | TrackBack (1)