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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年04月19日

キョードー東京『トスカ』04/11-24草月ホール

 大地真央さんが400人キャパの劇場でストレートプレイに出演されます。脇を固めるのは美形&実力派男優5人。そして演出は栗山民也さん、となると必見だと思ったのですが空席が目立ちました。イープラスで当日受け取りもやってますし、売れてないんですね。
 確かに6人芝居で10,500円っていうのは高い気もします。でも高いから観ないというのはもったいない、密度の濃い作品でした。上演時間は休憩なしの2時間でしたが、体感時間は2時間半ぐらいありましたね。プロだなーと思いました。

 『トスカ』というとプッチーニのオペラが最も有名です。あらすじは下記(イープラスの特設ページより引用します)。

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 フランス革命直後のローマ。画家マリオ・カヴァラドッシ(綱島郷太郎)のもとに、脱獄した政治犯チェザレ・アンジェロッティ(小林十市)が現れる。父とチェザレが同志だったこともあって、マリオは恋人のフロリア・トスカ(大地真央)にも秘密で彼をかくまう。
 しかし、マリオを怪しんでいた警視総監スカルピア(篠井英介)は、まるでマリオに女がいるような芝居を打ち、嫉妬深いトスカの性格を利用して脱獄犯をあぶり出す計画に出るのだが……。
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 市民が勝利を収めたフランス革命の直後で、緊張状態が続いている王政ローマが舞台です。私はオペラで一度拝見したことがありますが、オペラよりもシリアスで、ずっしり重く考えさせられる作品でした。でも、大地真央さんファン(おそらく少々年配の女性が多いのではないか、と)が安心して観られる、わかりやすさも備えた娯楽作品でした。

 ここからネタバレします。

 画家のカヴァラドッシが政治犯のアンジェロッティをかくまって追っ手から逃げ失せるまでは、サスペンス調でちょっとわくわくするような逃亡劇の様相でしたが、情熱的で嫉妬深い歌姫トスカが登場したとたん、思わず声を出して笑っちゃうほどのラブ・コメディーになります。カヴァラドッシへの恋が溢れ、同時に嫉妬心も熱く燃え、トスカは盆と正月、結婚式とお葬式が同時に来たみたいな状態(笑)。これが意外でしたね~。「いいのかなぁこんなにトスカが面白キャラで??」とちょっと不思議に思いつつも、大地さんのコロコロと自在に変化する演技に見とれて、楽しく中盤へと進みました。

 しかしながら、スカルピアがトスカの嫉妬心を煽って彼女を利用し、カヴァラドッシの隠れ家を見つけ出してからは、ドスンとまっさかさまに暗いムードに転落。カヴァラドッシが拷問され、トスカはアンジェロッティの居場所を自白するよう強要されます。この拷問シーンが長い!つらい!!圧政下でよく生まれる人間の最悪の行為です。信心深いトスカが脅迫に屈する姿が悲しい。そして篠井英介さん演じるスカルピアの憎たらしいこと!顔も演技もすっごく怖い!

 トスカが自白してしまい、スカルピアの部下がアンジェロッティが隠れている井戸に駆けつけた時には、既に彼は自決していました。カヴァラドッシは政治犯を逃がそうとした罪で牢屋に入れられ、トスカも共犯者としてスカルピアの城に連行されます。そこで、スカルピアがトスカに持ちかけます。「私のものになれば、お前もカヴァラドッシも助けてやってもいい・・・。」

 なんと言っても大地真央さんと篠井英介さんの演技合戦が見ものです。緻密に作り上げられた言葉による戦闘シーンで、お二人ともものすごい迫力と緊張感でした。一つ一つのセリフと動きに、意味、意志、感情がしっかり乗っており、一寸たりとも目が離せません。

 スカルピアの誘いに乗った振りをして、トスカは渾身の一撃でスカルピアを刺殺します。ここまでの二人の駆け引きをものすごくじっくり見せるのです。トスカが信心深く、気高い女性だということがよく伝わってきました。だからこそ、彼女が堕ちて行く姿がものすごく悲しいのです。
 カヴァラドッシの死刑についてスカルピアは、「空砲で銃殺したように見せかけて彼を逃がしてやる」と約束したのですが、実はそれは嘘で、何発もの銃弾を浴びてカヴァラドッシは処刑されてします。カヴァラドッシは生きていると信じていたトスカが、動かない彼に気づくまでの時間がすごく残酷で切ないです。ここもかなり時間をとっていました。「助けてやる」と言っておきながら殺してしまう強者と、すっかり騙されて佇む弱者の構図が浮かび上がります。

 舞台美術は、ところどころ黒くひび割れた、大きな青い壁で囲まれている抽象的なものでした。照明が変化して場面転換します。特に良いとか悪いとかあまり思わなかったですね。

 最後にトスカが城壁から飛び降りるシーンが美術も照明も含めて大きな見所でした。舞台奥の壁が左右に開き、その奥から白い照明がトスカを照らします。トスカは両手を広げて身体を回転させながら、舞台中央から奥に向かってゆっくり進んでいきます。光に包まれたトスカのシルエットは、城壁から地面へと落ちていく様子を表していました。兵隊が城壁の上から銃を連射する音、ゴゴゴゴ・・・と何かが壊れていく音が鳴りひびきます。最後にトスカはカクっと手を曲げて静止し、その瞬間、暗転します。地面に身体が叩きつけられた音が聞こえたような気がして、私はギュっと身体をすくめました。悲しい、恐ろしいエンディングです。ただ、トスカが回転している(墜落している)時間はちょっと長すぎたんじゃないかなぁと思いました。

 ということで、中盤以降はものすごく暗くて深刻で悲しいお話になるんですね。だから前半はユーモアたっぷりで明るくつくり、後半と対比させたんだと思います。でないと2時間は緊張が続きすぎてつらくてもたなかったかも。

 大地真央さん。実は私、初めて拝見しました。ものっすごくきれいで、チャーミングな方。ユーモアのセンスもあるし、ダンスもできるし、声はきれいだし、スタイル抜群だし、演技も上手い。何をとってもプロフェッショナルです。大地さんを見るために劇場に通う人の気持ちがわかります。一人の女優さんとしての在り方が、大竹しのぶさんと似てるなぁと思いました。
 篠井英介さん。警視総監スカルピア役。ここまでくると気持ちよくなるほどの悪人役です。めちゃ怖かった・・・。大地さん同様、演技の切り替えが見事でどんなに長いセリフもじっと飽きずに聞き続けることが出来ました。相当長いセリフだったと思うんですよ、でも、それに気づかなかったです。ただ、トスカに対して嫉妬と憎しみを含んだ執着心といえる愛情を持っていたようには、あまり見えなかったです。怖いし、凄みがあるし、憎たらしかったけど、いやらしさがなかった。
 石田圭祐さんはスカルピアの直属の部下役でした。石田さんの出番があれだけっていうのはめちゃくちゃもったいなかったです。でも石田さんだからこそ出来た演技もあったとは思います。

 ※これからチケットを買われる方へ
  私はA列で観たのですが、A列は前から4列目ぐらいの席で、最前列と床の高さが同じなので(段差がない)、前の列の人の頭が気になって観づらかったです。B列から段差が始まりますので、ぜひB列以降を購入されることをお薦めします。バレエ・ダンサーの首藤康之さんがいらしてたのですが、首藤さんはたぶんC列かD列だったと思います。そのあたりが一番観やすい席なのでしょうね。

≪東京、大阪≫
原作:ヴィクトリアン・サルドウ 上演台本:笹部博司 演出:栗山民也
出演:大地真央、綱島郷太郎、小林十市、細貝弘二、石田圭祐、篠井英介
美術:島次郎 照明:勝柴次朗 音響:山本浩一 衣裳:前田文子 小瀬川雅敏(大地真央) ヘアメイク:嶋田ちあき 亀田まき子 カメラマン:富田眞光 演出助手:大江祥彦 舞台監督:中村信一 制作:前田三郎 高頭和貴 制作助手:本郷みつ子 主催:ニッポン放送・キョードー東京 製作:キョードー東京
前売り・当日共に10,500円(全席指定)
キョードー東京:http://www.kyodotokyo.com/
イープラス:http://eee.eplus.co.jp/s/tosca/
記者発表:http://www.theaterguide.co.jp/pressnews/2005/03/14.html
大地真央オフィシャルファンクラブ:http://home.att.ne.jp/wood/MAO/

Posted by shinobu at 2005年04月19日 00:53 | TrackBack (0)