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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年05月07日

tpt『A Number』04/30-05/13ベニサン・ピット

 tptで男2人芝居。スタッフ(翻訳・演出・美術・照明・音響・衣裳・舞台監督)は全員女性です。
 二人芝居で6,300円はちょっと高いかも・・・と思っていたら、上演時間も50分という短さで驚きました。美術はすごく凝ってたしな~・・・と思いもしたのですが、終演後の帰り道はちょっと寂しかったです。
 クローン人間のお話でした。脚本はすごく面白いと思います。

 父親(小林勝也)が息子(手塚とおる)と話をしています。しかしその息子がどうやら複数人、居るのです。2人(?)がお互いの腹を探り合いながら会話する50分間。

 開演15分前から一人ずつ劇場内へと案内されました。細くて暗い廊下をくぐって行くと真正面にドアが見えます。ドアは少し開いていて中にはベッドのようなものが見えます。カバーの派手な模様から予想するに、おそらく子供部屋かしら・・・と思いつつ、廊下が自然に右に曲がるのでドアを通り越して右に曲がると、暗がりの向こうに係員の女性が立っており、「ご案内いたします」の声。チケットを見せると座席の位置を教えてくれました。
 舞台は真四角の小さなお部屋で、四方を客席に囲まれています。ボクシングのリングみたいだなぁと思いました。でもリングと明らかに違うのは、黒い網状の幕で、舞台の四方が囲まれていること。天井は空いていますが、四面ともに大きな幕のパネルがそびえています。俳優は2人とも板付き(開場した時から既に舞台上にいること)でした。

 父と息子が話をしている内に、息子はクローン人間で、しかも息子と同じ遺伝子のクローンが複数居ることがわかってくるのですが、息子は自分が生まれた(作られた)経緯を知りたがります。父親はおずおずと出生について話していくのですが、途中で場面が転換し、もう一人の息子と父親が話すシーンに変わります。その「息子」たちを全て手塚とおるさんが演じます。

 なぜか途中で眠くなってしまいました・・・。面白くなかったわけではないと思うんですが・・・たぶんセリフかな。The Japan Timesに掲載された演出家サーシャ・ウェアーズさんのインタビューを読んだのですが(ベニサン・ピットの入口に貼ってありました)、脚本を作る時にとても言葉にこだわったそうなんです。英語で「I thougut・・・」は、日本語だと「私は思った。」と断言する形になってしまいです。なので、「新しい日本語訳を作り出した」というようなことが書いてあったんですね。
 なるほど、当日パンフレット(1000円)に脚本が全部掲載されていたのでそれを読み返してみると、確かにすっごくわかりづらい日本語です。セリフのほとんどが接続詞で終わっている、というか、最後までしゃべらないまま相手のセリフになっています。実際に2人がしゃべっている様子は脚本のようにブツ切れにはなっていないし、ちゃんと会話として流れていました。でも、やっぱり意味はわかりづらかったです。もともとの戯曲もきっとわかりやすさを狙ってはいないでしょうけど。

 あと、黒い網が私にはつらかったです。だって顔が見えないんだもん!手塚とおるさんが同じ顔をした別人に変身しますので、わざとはっきりとは姿が見えないようにしたのかな。もやもやしたまま、本当の姿が一向に見えない人間像を表すというような意図もあったのかもしれません。でもね、最初から最後までずーっと幕の向こうの芝居を観続けるっていうのは、私には悲しかったです。

 場面転換では部分的な光をストロボのようにピカピカと当てて、完全暗転はしませんでした。幕に光の模様が映るので、動きがあって良かったとは思います。

 帰りの電車でパンフレットに掲載されている脚本を、キーワードにえんぴつで線を引きながら読んでいって、やっと登場人物の関係や、言葉の意味がわかりました。とても面白い脚本です。観てる時はわかんなかったんだけど(笑)。でも、観ていなかったら読んでも全然分からなかっただろうから、やっぱり高くても観に来て良かったです。

 バーナード(手塚とおる)は父親のソルター(小林勝也)に、もう一人の自分と出会ってしまったこと、そして自分のクローンが複数居ることを話し、ソルターにそのことについて説明するよう求めます。ソルターは、バーナードが生まれる前にもう一人息子がいたこと、そしてその息子は4歳の時に母親と一緒に交通事故で死んでしまったことを告白します。息子がもう一度欲しかった、だから息子の細胞を取ってクローンを作ったのだ、そしてそのクローンは1人だけという約束だったのに、医者が勝手に複数作っていたのだと。
 しかしながら話している内にさらに真相が明かされていきます。実の息子は死んでおらず、バーナードが出会ってしまった男こそ、4歳の時にソルターが施設に預けた(捨てた)息子であり、母親は息子が2歳の時に電車のホームから飛び降りて自殺していたのです。実の息子の名前はもちろんバーナード。

 手塚さんが演じ分ける2人のバーナードと、小林さん演じるソルターの対話シーンが交互に繰り返されます。やがてクローンのバーナードは実の息子に殺されてしまい、実の息子も自殺してしまったことが、手塚さん演じる3人目のクローン、マイケル・ブラックとソルターとの対話の中で明かされます。

 マイケル「僕らは誰でも99パーセント同じ遺伝子を持っているんです。チンパンジーとは90パーセント同じです。レタスとは30パーセント同じです。それで少しは元気が出ますか?レタスんとこは、大好きだな。自分が何かの一部なんだって気がするし。」
 ソルター「俺はあいつが恋しい。2人とも恋しい。」

 小林勝也さん。シリアスそうに見せかけてトボけた感じが良かったです。実はすごく悪い人間なんですよね、ソルターって。そこを見せないままでいたのが良かったです。
 手塚とおるさん。最後に出てきた3人目の明るいマイケル・ブラック役がすっごく魅力的で、それまでの根暗な2人のバーナードとは全く違う人間でした。やっぱりすごい俳優さんだなと思いました。

作:キャリル・チャーチル(Caryl Churchill) 演出:サーシャ・ウェアーズ
出演:小林勝也 手塚とおる
訳:常田景子 美術:礒沼陽子 照明:西川園代 音響:長野朋美  衣裳スーパーバイザー:阿部朱美 舞台監督:平石尚子
一般6,300円/学生3,150円
tpt:http://www.tpt.co.jp

Posted by shinobu at 2005年05月07日 23:38 | TrackBack (0)