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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2005年06月21日

【ポストパフォーマンストーク】シャウビューネ劇場『ノラ~イプセン「人形の家」より』06/20世田谷パブリックシアター

 「いったいコレどういう考えで!?」
 衝撃的なラストシーンに疑問が爆発しました。
 でも、その疑問がすべて解けちゃったポストパフォーマンストークに大満足。溜飲が下がる思いとはこのこと(笑)!
 私が必死でメモって覚えている限りをアップします。大意を汲んでいる程度のところもありますので、表現が違ったりするのはご容赦を。完全にネタバレしていますのでご注意ください。

 出演者:トーマス・オスターマイアーさん(シャウビューネ劇場芸術監督・今作品の演出家)
 司会:松井憲太郎さん(世田谷パブリックシアター プログラム・ディレクター)
 通訳:萩原健さん(今作品の字幕翻訳もされています)

司会「まず、原作から大きく変更されているラストシーンについてお聞かせください。」
オスターマイアー「妻が夫を捨てるというのは、1890年代のドイツでは大きなスキャンダルでした。『人形の家』が初演されたコペンハーゲンでは、パーティーなどで人が集まる時に“ノラについて話すのは禁止”とドアに大きく貼られたぐらい。観客にこういう反応(衝撃を受け、それに対して反発するなど何らかの行動を起こすこと)を呼び起こしたいと思うのは、演出家として当然のこと。
 『人形の家』には2つの結末がありました。ある時ノラを演じるドイツの女優が「こんなラストは演じたくない」と言ったから、イプセンが他の結末も書いたのです。それは夫も殺さないし、ノラも出て行かないというものでした。その素材を手に取った時、たとえ家から出て行くのでも、家に残るのでも、物足りないと思った。挑発の効果がないのではないかと思った。現実として、ドイツでは今、結婚したカップルの三分の一が5年以内に離婚しています。
 120年前にその頃の“現代の女性”を描いた作品として今日まで上演されてきているこの『人形の家』ですが、実際のところ1990年代および21世紀になっても、女性のおかれた状況は変わっていないと思えます。私は決してこのような結末をお薦めするのではなく、当時と同じぐらいの衝撃を与えたかった。昔と今とで円環を閉じる感じで上演してみたかったのです。」

観客(女性)「殺すのを選んだのはなぜ?衝動的とはいえ、突然ノラの考えがそのように変わるには、時間が短すぎなかったか?」
オスターマイヤー「日本の観客がどう感じたかはわからないけれど、ノラとヘルマンとの最後の対話は現代のヨーロッパ人はとてもアンティークだと感じている。“女のために自分の名誉を落とすことなどしない”とヘルマンは言うけれど、そのような男は今はいない。
 最後のシーンでは、コミュニケーションが成立していないということを表したかった。ヘルマンが何も理解していなかったから、ノラは彼を殺した。会話の意味および彼女について、もし彼が理解していたなら、おそらくこのような結末ではなかった。絶望があまりに高まったあまりに、衝動的にヘルマンを殺してしまった。」

観客(男性)「お昼間に(←何かイベントがあったようです)“劇的緊張をつくるための装置としての演出”の話をされましたが、たとえばロックミュージックが大きな音で鳴ったり、ノラが突然踊りだしたり、あれは突発的すぎないか。あのヘンなノラを周りがどうして受け入れられるのか、自分には疑問。強引ではないか?自分にはちょっとわざとらしいような匂いが・・・。」
オスターマイヤー「単に芝居がかった効果ではなくて、社会的なひな型を破る瞬間を見せたかった。人の内にめぐる衝動を見せたかった。」
観客(男性)「それだと“日常を見せたい”とおっしゃっていたことに合わないのではないですか?」
オスターマイヤー「登場人物はそれぞれ、自分をある役柄に合わせようとしている。へルマンは頭取になろうとしているし、ノラは頭取の妻になろうとしている。彼等はみんな子供なのです。この芝居ではみんな大人を演じようとしている。子供に操られている大人が住む“人形の家”なのです。まさにベルリンの私達の世代の置かれている状況であり、世界の一片でもある。」

観客(女性)「日本でもそういう状況にあると思う。年取ってから離婚する人も増えている。ノラが夫を撃ち殺して座り込んだシーンでは、空しさが表れていたように思う。昔も今も空しさは変わらない。これからの女性はどうしたらいいのか、トーマス・オスターマイアーさんはどう思いますか?」
司会「ノラの続編になる作品を作られているんですよね?」
オスターマイアー「無言劇ですが。一人の女が一人で家にいる。1時間20分ありますが、ずっと無言で何も話さずに終わります。ご質問についてですが、私のような若い男が答えられることではないと思いますので(笑)、どうぞご自分で考えてください。」

観客(男性)「ドイツと日本の観客の反応についてどんな違いがありますか?」
オスターマイアー「日本については今の段階ではあまりわかっていません。ドイツでは沢山のフィードバックがありました。(←これから皆さんのご意見が伺いたい、という様子)」

観客(女性)「演出家が最初からこの結末にしていたのですか?それとも役者さんと話し合ったのですか?」
オスターマイアー「いい質問だと思います。私はアイデアを提案しました。それで役者が色んなバリエーションを演じてみて、これに決めました。主演女優はヘルマンだけでなく子供たちも殺してしまいたかったと言っていたのですが(笑)、そうなるとその家族を完膚なきまでにつぶして、壊してしまうので、これは控えました。なぜなら“挑発”にしては温容だと思ったからです。
 (シャウビューネ劇場では)プレビュー公演が何度もあるのだけれど、最初はヘルマンも生きたまま、ノラが出て行くという結末でやってみました。だけれど何かが足りないと思ったので、何日間か色んな結末をやってみて、これに行き着きました。」
観客(女性)「50年生きてきたけれど、抑圧されたものから憎しみがつのり、爆発して吹き出したというのは納得できる。」

観客(男性)「最後に夫を殺すのは、現代では成立しているかもしれない。けれどもやはり最後にへたり込んで悲しむのはノラ。問題提起は大切だけれど、ノラが罪を犯さず、子供をおいて出て行くということもないような、今作や原作以外の結末は考えられなかったのか?一年前に原作を読んで納得できなかったんだけど・・・」
オスターマイアー「あなたにそのアイデアがありますか?もしあるなら教えてください。もっといい終わり方があれば、明日1ステージありますから、それをやりますよ!(←会場にも笑いが起きる)」

観客(女性)「50年役者をやってきて『人形の家』は何十回見たかわからないぐらい。古いかもしれないけれどイプセンはやっぱりすごいと思った。先日観たマールイ劇場でもチェーホフはやっぱりすごいと思った。
 今になって昔の『人形の家』を上演する勇気は素晴らしいと思う。しかしながら女性は昔に比べると一人で生きていけるようにはなっているし、昔とはやはり違う。
 イプセンは、父親に愛されて育ってきたノラが人間の本質を目の前にした時の、真実を見せ付けられた時の衝撃を描いていたのだと思う。しかしながら今作品ではその衝撃は感じられなかった。だからやっぱりイプセンは凄い。もっと人間の本質が暴かれた瞬間を描いて欲しかった。終わり方がどうだとか、殺す殺さないというのはあまり重要なことではないと思う。」
オスターマイアー「2つ指摘したいと思います。まず1つ目。ドイツは現在、経済的に非常に困窮しています。大学を出た若いカップルに職がない。だからノラの時代とそれほど変わっていません。もう一度イプセンの時代に回帰している傾向があります。何の思考もせず物に恵まれればいいと考える女性たちが増えています。
 2つ目。この演出は、ノラが自ら不自由な状況を選び、進んで、ある役柄に自分を合わせていく様子を描いています。彼女は自分が嘘の中で生きているのを百も承知でやっている。その意味で、真実はこの演出にはないのです。この登場人物の中には真実はありません。
 彼等はちょっとすぎた演技をして、ステレオタイプに合わせようとしている。彼等には自分というものがない。自分をある像(イメージ)にあわせようとしている。核がかけている。これだけが真実ではないかと考えます。
 お昼にも意見がありましたが、この人物達には魂がない。○○○というような様子には(←すみません、忘れました)、アメリカのポップカルチャーの影響がある。」

司会「最初の方のシーンで子供たちがリビングで遊んでいましたが、そこでも娘にノラのような人形の役割をさせていることに気づきました。あぁこんなところにも表されていたんだな、と感心しました。作品と同様、唐突にこのトークも終了させていただきたいと思います(笑)。ありがとうございました。」

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Posted by shinobu at 2005年06月21日 01:26 | TrackBack (1)