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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2005年11月10日

新国立劇場演劇『屋上庭園/動員挿話』10/31-11/16新国立劇場 小劇場

 戯曲賞にも名を残す岸田國士(きしだ・くにお)の短編の2作品上演です。パンフレットにも書かれていますが「岸田國士はいつも新しい」。まさにその通りです。ハンカチを握り締め、何度も涙をぬぐいながら拝見いたしました。
 遅くなりましたがメルマガ号外を発行します。今晩中に。
 チケット代4200円は安いと思います。平日は残席あり。お求め方法はこちら。年齢層が非常に高い客席でしたが、若い方にもとってもお薦めです。

《ご覧になった方のレビュー(順不同)》
 演劇◎定点カメラ
 Club Silencio
 Somethig So Right
 OLD FASHION
 因幡屋ぶろぐ
 藤田一樹の観劇レポート
 私の芸術鑑賞記

 ここからネタバレします。セリフは完全に正確ではありません。

 『屋上庭園』演出=宮田慶子

 《あらすじ》
 偶然デパートの屋上で出会った2組の夫婦。夫同士が若い頃からの友人なのだ。文人を目指していたが挫折した並木(山路和弘)と、経済人として着々と前に進んで金銭的に恵まれている三輪(小林隆)。過ぎ去った年月は2人の人生を大きく変えていた・・・。
 《ここまで》

 現代の日本のどこの誰にでも当てはまるお話です。私も身につまされます。

 すごく自然な成り行きで並木が三輪に金を無心し、三輪は快く「20円なら」と大金を渡します。その直後の、無言でいっさい動きのない“間”の長いこと!心の通い合った語らいが、お金に変換された瞬間でした。
 宮田慶子さんの演出は凄いです。さらりと過ぎれば「普通」と取られてしまうであろう夫婦の対話が、こんなに残酷で、こんなに優しくなるなんて。いや、もしかすると既に戯曲に書かれているのかもしれませんね。それを宮田さんと役者さんたちが丁寧に見つけ出し、表に現していった結果がこの空間なのでしょう。

 衣装も良かったですね~。男は背広、女は着物を着ているのですが、布の材質、柄、色、そして生活が滲み出す皺のより方など、とてもデリケートに人物像を描き出しています。

 勢いよく昔の友人に見栄を張り、しかし背中を向けながらこっそりと無様な涙を流す、並木役の山路さんの演技が素晴らしい。 
 夫・並木(山路和弘)の強がりの嘘をすっかり真に受けながら、実は全てを知っている並木の妻役は神野三鈴さん。「あなた、お友達がなくなるじゃない?」というラストのセリフでの、けなげな眼差しと嗚咽に涙しました。


 『動員挿話』演出=深津篤史

 《あらすじ》
 日露戦争が勃発した。陸軍少佐の宇治(山路和弘)も出兵することになり、馬蹄の友吉(小林隆)を一緒に連れて行こうとする。しかし友吉の妻の数代(七瀬なつみ)が断固として許そうとしない。友吉は果たして戦場に行くのか、行かないのか・・・。
 《ここまで》

 『屋上庭園』の舞台はビルの屋上一箇所だけでしたが、『動員挿話』では数箇所に変化します。舞台のほぼ中央に吊り下げられた黒板状の壁には、白い雲と見下ろされるビル群が描かれており、『動員挿話』のオープニングでは兵士(太田宏)がそのビル群を消して、日の丸の絵をたくさん書き出します。
 
 「国家のために」という大義名分をもって男同士で盛り上がり、「しかたがない」とか「みんなやってる」などという理由にならない理由をまことしやかに押し付けて、家族を捨て、命を捨て、そして人殺しをしに行く男。国がどうなろうと、他人がどうなろうとかまわない、自分にはあなたが必要なんだ、一緒にいられるだけで幸せなんだと、愛する男を引きとめようとする女。
 大切なのは「しかたがない」なんてことは無いということ。そんな政治的な、言い訳がましい、心にもない言葉を真に受けてはいけないのです。

 深津篤史さんの演出は宮田さんのそれよりも野心的というか、冒険をされていました。たとえば宇治(山路和弘)を送り出した後、黒板に描かれた日の丸の中央の赤丸を、宇治の妻(神野三鈴)が素手で消していくとか。
 兵士(太田宏)が日の丸の絵を黒板に書いている時の少々きちがいじみた笑顔と、最後に友吉(小林隆)を呼びに来た時のしてやったりな顔、および声色は・・・おそらく当時の日本国家もしくは軍隊を彼を通じてあらわしたのかもしれませんが、ちょっと嫌味が過ぎるのではないかと思います。
 最後の赤い照明は・・・ダサイいんじゃないかな?と思いました。小林さんが全身全霊で悔恨し、荒れ狂う演技だけで十分でした。

 つまり、深津さんの演出はちょっと過剰な気がするんですよね、個人的に。でも数代が友吉を説得しようと友吉に抱きついて、涙をぼろぼろ流しながら取っ組み合って、からみあって・・・というシーンは迫力があって面白いし、ガツンと胸に響きました。

 主要の4人の役者さんは皆さん素晴らしかったです。プロの役者というのは舞台の上で自分が演じる役柄になりきる、というよりは自分の中からそれを生み出すというか、「自分であり、その役でもある」という状態なのではないかと思います。
 兵隊役の太田宏さん(青年団)。reset-N『キリエ』での怖いお兄さん役が強烈でしたが、今作でも静かでひょうひょうとしたかましい佇まいから、冷たい殺気を感じさせました。怖いけどかっこいいです。

 劇場ロビーで岸田國士展が開催されており、ゆかりの品の数々が展示されていました。中でも私は岸田さんが毛筆で書かれた掛け軸に目を奪われました。書かれていたのは↓
 「一人では何も出来ない 然し 誰かが始めなければならない」
 (意味だけ覚えて帰ってきたので文が正確かどうかは不明。ごめんなさい。)

《今公演のプロンプターをされた多根周作さんのブログ》
 棚から牡丹餅 
 ※岸田國士に挑む稽古場の厳しい、しかし充実した空気が読み取れます。山路さんの素敵な私物とか、小林さんのアップメニューとかも。役者さんは必読です。

《私が観た回の最後の暗転について》
 岸田作品をご存知のお客様が多かったのでしょう、最後に暗転した瞬間に拍手を始めた方がいらっしゃいました。とっても、とっても残念。あの長い暗転で余韻を味わいたかった。演出の面でも小林さんの着替え時間の面でも、あの暗転は意図的なものです。観客は「拍手、してもいいかな・・・・」と様子見をすべきだと思います。舞台と一緒に呼吸すればわかるのではないでしょうか。

THE LOFT 小空間からの提案
出演=七瀬なつみ/神野三鈴/小林隆/山路和弘/遠藤好/太田宏
作=岸田國士 演出=宮田慶子〈屋上庭園〉/深津篤史〈動員挿話〉 美術=池田ともゆき 照明=磯野睦 音響=上田好生 衣裳=半田悦子 演出助手=川畑秀樹 舞台監督=米倉幸雄 芸術監督=栗山民也 主催=新国立劇場
公式=http://www.nntt.jac.go.jp/season/s274/s274.html

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Posted by shinobu at 2005年11月10日 15:53 | TrackBack (0)