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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年01月21日

現代演劇協会 劇団昴 現代舞台芸術セレクション『ゴンザーゴ殺し』01/21-26東京芸術劇場小ホール1

 2003年度の第三回朝日舞台芸術賞を受賞した劇団昴の作品が早くも再演。私は初見です。「ハムレット」を題材にしたバックステージものということで、期待して伺いました。
 休憩を挟んで約3時間。前半終了したところで帰ろうかしら・・・と思ったのですが、思いとどまって良かった!盛り上がるのは最後の1時間です。急展開に大どんでん返しの連続。ブルガリアの傑作戯曲を味わいましょう。

 『ハムレット』の中に登場する旅芸人の一座にスポットを当てたお話です。芸人達はハムレット王子に頼まれて「ゴンザーゴ殺し」という作品をクローディアス王の前で上演することになります。そこには現クローディアス王がハムレットの父王を暗殺したことの確証を得るための、ハムレット自身が書いたセリフ数行も付け加えられていました。この設定は原作と同じです。ハムレットのあらすじはこちら

 (ここからネタバレします)

 中盤までは、原作と同じ時間の流れの中での旅芸人たちを、だらだらと描いている状態で、役者さんのわざとらしい演技でもしらけてしまい、非常に退屈でした。でも、宰相ポローニアスとハムレットの親友ホレーシオの行動および性質が原作と全く違っていたので、「なんで???」と思っている内にどんどん引き込まれていきました。

 旅芸人たちに、『ゴンザーゴ殺し』を上演するよう依頼し、追加のセリフを渡したのがホレーシオになっているのです(上演依頼の発端はハムレットですし、追加脚本の筆跡もハムレットのものですが、旅芸人に直接会って依頼したのはホレーシオ)。宰相ポローニアスも、『ゴンザーゴ殺し』を上演することを確認し、毒薬による王の暗殺シーンの稽古をしっかりと見ているのに、そのまま素通りします。実は彼らは2人とも、クローディアス政権へのクーデターを企む反体制勢力なのです。これには驚いた。
 王の傘をきて宰相でいながら実は王の失脚を企んでいるポローニアスと、ハムレット王子の親友でいながらハムレットを利用して捨て駒にして、自分がのし上がろうとしているホレーシオ。この2人のやりとりはすごくスリリングです。

 王の前で『ゴンザーゴ殺し』が上演されるのは原作どおりですが、上演後、旅芸人たちは国家反逆罪の罪に問われ投獄されます。そこに原作には登場しない残忍非道な刑吏(金子由之)が現れてから、目を離せなくなります。

 拷問を受け、刑吏に脅されて、役者達が偽証をさせられるシーンは胸がつんざかれるような心地でした(セリフは正確ではありません)。
 刑吏「名前は?」役者「くそぶた」
 刑吏「職業は?」役者「こえだめあさり」
 刑吏「なぜここにいる?」
 役者「フォーティンブラスに頼まれてクローディアス王暗殺のために来た・・・(等)」
 座長のチャールズに全ての罪を押し付ける発言を強要されるのもつらすぎます。人間が一番醜く、悲しい存在となる瞬間だと思います。

 反逆罪への刑罰は全員がおよそ死刑という冷徹なものでした。しかしここで大どんでん返しが起こります。ホレーシオが現れ、ハムレット、クローディアス王、王妃、レアティーズの4人が死に、フォーティンブラスが新王になった、つまりクーデターが起こったと告げるのです。役者達は無罪放免どころか新政権樹立への最大の功労者として讃えられることになり、さらに役者達は王立劇場の所属俳優になり、座長は王立劇場支配人に任命されます。この展開はすごく爽快でしたが、政治によって翻弄される罪なき人民という構図がはっきりと見て取られ、複雑な気持ちでした。

 最後に座長チャールズがホレーシオにたずねます。「我々がもらうはずのお金はどうなるんですか?そして、その先は?」それに対するホレーシオの返答がすごい。「その先は、沈黙だ」。そう、新たな政権の下でもやはり発言の自由はないのです。もらうはずの約束のお金もその一言でわかるように、もららえるはずもありません。約束は守られない。

 社会主義時代のブルガリアの姿が色濃く投影された作品であることは言うまでもありません。フォーティンブラス王の時代となっても刑吏は刑吏のままで残ることもはっきり言明されました。そういえばポローニアスもホレーシオも、官僚たちは政権が変わっても同じ場所に居続けるのですね。日本も然り。

 戯曲はものすごく面白いのですが、演出と演技はあんまりでしたね。ぜひ新演出・新キャストで、どこかでやってくれないかな~。

 素晴らしいレビュー(観劇日記)がありました。
 Alice in Tokyo
 劇団昴公演『ゴンザーゴ殺し』
 ~陰謀と策謀が渦巻くスパイ小説もどきのスリリングなドラマ~

作:ネジャルコ・ヨルダノフ 訳:中本信幸 演出:菊池准
ポローニアス:内田稔 チャールズ:石波義人 ホレイショー:水野龍司 刑吏:金子由之 ヘンリー:石田博英 プロンプター:坂本岳大 エリザベス:小沢寿美恵 アマリア:米倉紀之子 オフィーリア:吉田直子 ベンボーリオ:西本裕行
声の出演:小山武宏 久保田民絵 鉄野正豊
美術:島次郎 照明:森脇清治 音楽:上田亨 衣装:吉井千和 音響:山北史朗 振付:川原あけ未 演出助手:宮越洋子 舞台監督:岡田志乃 協力:黒木辰男 宣伝美術:北村武士 絵:スタシス・エイドゥリゲヴィチウス 制作:荒川秀樹
主催:(財)東京都歴史文化財団 東京芸術劇場 (財)現代演劇協会 劇団昴公演
*第三回朝日舞台芸術賞受賞
劇団昴:http://www.bekkoame.ne.jp/~darts/

Posted by shinobu at 22:43 | TrackBack