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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年07月07日

時間堂『月輝きながら太陽の照る』07/07-17Gallery LE DECO(7/6プレビュー)

 渋谷駅東口から徒歩5分ぐらいの明治通り沿いにある、ギャラリー“LE DECO(ル・デコ)”で行われる演劇公演です。公演期間中は正午から夕方6時まで“時間堂カフェ”もオープンされます。

 青年団リンク・髙山植物園の髙山さなえさんの脚本を、時間堂の黒澤世莉さんが演出されるということで、高山さんの作品も時間堂も初見なので一石二鳥だな~と、お得な気分でプレビューにお邪魔してきました。

 会場はLE DECOの1階です。コンクリートのちょっと崩れた壁や天井は白く塗られて露出しています。夕方でしたから全面ガラスのギャラリー入り口から太陽の光が入っており、全体的に明るい空間でした。入り口からまっすぐ奥に進むと、中央には木綿のちょっと黄ばんだ白色の布が広く敷かれていて、その両サイドにイスが並べられていました。どうやら細長い舞台になるようです。

 天井からは、針金と糸、そして透明プラスチックの薄い板で作られた、手作りのナチュラルな印象のモビールが5個ほどぶら下がっています。あと、縦に電球が5~6個ならんだ照明も数本。観客誘導係のスタッフさんは白いシャツに黒いスカートなど、モノトーンで、おしゃれなカフェの店員がよく着ているようなデザインのお洋服を着ています。

 ダンス・パフォーマンスや朗読劇が似合いそうな空間でしたが、かわいらしい衣裳を着た役者さんがぞくぞくと登場して始まったのは、しっかりした起承転結のある、パンチの効いた鋭いセリフがいっぱいの、ちょっと怖いお芝居でした。

 ≪あらすじ≫
 結婚式場の新郎新婦の控え室。披露宴が終わって次は二次会というところだが、なぜか新婦が動こうとしない。ウェディングドレスを脱ごうとしないのだ。新郎をはじめ新郎新婦の兄や妹たちは新婦に早く着替えるよう促すのだが、いつまで経っても新婦は新郎に甘えたり、わがままを言ったり、謎の落ち着きを見せたまま。
 そんなこんなでだらだらとくっちゃべっている内に、この結婚の裏の意外な、恐ろしい事実が明かされていく。

 上演時間は1時間強でしたが、最初の45分はつらかったです。だって女の子がブサイクなんだもの!いえ、顔かたちのことじゃないんですよ、衣裳もかわいいし、ヘアメイクも凝ってるし、女優さんもかわいいんですよ。意図的に描かれている“女の子像”がすっごく醜いんです。男に思いっきり露骨に言い寄ったり、汚い言葉遣いで自虐的に男とケンカしたり。見るに堪えない!反対に男の子はクールに装いつつ弱者ぶるから、ちょっと憎たらしいなぁと思いながらも可愛らしくも見えたため、女をわざと汚く描いている脚本および演出に不快な気持ちになりました。
 そして45分経った頃に衝撃の事実が明かされます。目が点になりました。そこから15分強は、それまでに描かれていた世界がバタバタと裏に表にひっくり返り続ける、きりもみ状態に陥った飛行機のような展開。・・・恐ろしい脚本でした。

 男と女という全く違う生き物の係わり合い(歴史)、そしてこれからも延々と続く“生存”をめぐる戦いを描いていました。
 舞台からはけた俳優は全員、中2階のロフトスペースで待機するので、上演時間中ずっと出ずっぱりです。ロフトでおしゃべりをしたり、舞台を覗き込んだり、時には舞台上の人とアイコンタクトもしていました。また、衣裳が抽象的なものだったので、“男 VS 女”という構図がより鮮やかに伝わったと思います。

 衣裳がすっごくよく出来ています。色は白黒のモノトーンで、女はうずまき、男は直線をモチーフにしています。カッティングというのかな、お洋服としてもすごく緻密に作られているのがわかりました。ドレスのドレープや体のラインの出かたとか、ほれぼれしましたね。ヘアスタイルもおしゃれでした。

 これは本当によくあることなんですけど、役者さんの力が脚本と演出に負けています。演劇ファンだけではなく、ギャラリーの前をふらりと通った会社員など、一般の大人が安心して楽しめる作品を生み出すポテンシャルがあると思いました。だから役者さんにがんばってもらいたいし、時間堂の世界を作ることが出来る役者さんを新たに見つけた方がいい気もします。

 普通の劇場ではないところでの公演は、観に来る方も上演する側にとっても予想外のことが起こりがちです。例えば今回は、役者さんがはじめて登場するところでドアを開けたスタッフさん(もしかすると演出家さん)が、床に敷いてあったすだれ(?)で足を滑らせて転びかけたんです(笑)。そうやって起こってしまったトラブルを、ライブならではの空気感を生む要素として利用していけるぐらい、余裕があるといいなと思います。けっこう長期間の公演ですから徐々に豊かな空間になっていくのではないでしょうか。

 ここからネタバレします。

 実は、新婦の兄と新郎がホモ・セクシュアルの恋人同士だった。さらに新婦の兄は新婦の妹(二女)と近親相姦の関係で、二女は兄の子を身ごもっている。兄には妻がいるのだが、妻が身ごもっているのは新郎の子である。兄は愛する新郎の子供が欲しいため、自分と近い遺伝子を持っている妹(新婦・長女)と結婚させ、新郎の子供を産ませようとしているのだ・・・。
 なんてこったい!!不道徳極まりないです。タブーがかわいい服着て行列してる(笑)。
 兄の目的は「種の保存」で「生めよ増やせよ」を合言葉に、子供を生む“道具”である女をどんどん身ごもらせます。しかしその恐るべき企みを、兄の妻も、そして新婦も知っていた!!・・・となって急展開です。

 男女ともがんばって戦ってましたが、真剣であればあるほど滑稽に見えました。生まれてくる子供を私物化している(できると思っている)のが浅はかだな~と思います。

出演=稲村裕子/川根有子/キムラマナコ/福島千陽/両角葉/久米靖馬(クロカミショウネン18/UNITレンカノ)/小林タクシー(ZOKKY)/根津茂尚
作=髙山さなえ(青年団リンク 髙山植物園) 演出=黒澤世莉 共催=Gallery LE DECO
前売り開始:不明 一般2,000円 高校生以下1,000円
休演日:7/11(月) 全13ステージ 各回40名様限定
劇団:http://www.seriseri.com/jikando/

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Posted by shinobu at 14:46 | TrackBack

ブロードウェイ・ミュージカル『プロデューサーズ』07/06-24東京厚生年金会館

 爆笑パロディー映画でも有名なメル・ブルックスさん作詞・作曲・脚本・プロデュースのミュージカルです。トニー賞史上最多12部門受賞。アメリカ、ロンドンで大ヒットしてこのたび初来日。
 チラシの雰囲気から『コーラス・ライン』などの普通のミュージカルかと思っていたんですが、大間違いでした!作品のカラーは・・・モンティ・パイソン(Monty Python)に似てます!爆笑というよりは苦笑に次ぐ苦笑(笑)!も~笑いすぎてミュージカルだってことも忘れてました。
 いや、音楽も歌も踊りもほんっとに素晴らしいです。でもね、これ、とにかく普通のミュージカルじゃないです。あぁ、こんな言い方だと語弊がありますが、とにかく騙されたと思って観に行ってください!
 舞台写真はこちら(シアターガイドより)。

 人種差別、女性蔑視、老人虐待、ナチス礼賛など、不謹慎極まりない題材だらけです。だけど笑わずにはいられない!!三谷幸喜さんが下記の賛辞を寄せている意味がよ~くわかりました。
 「映画『プロデューサーズ』はもともと大好きな作品。登場するキャラが全員変人、なのにとてつもなく愛しいんです。知る人ぞ知る傑作だったのが、今はこんなにメジャーになって、メル・ファンにとっては感涙の極み。こうなったら次は『ヤング・フランケンシュタイン』のミュージカル化をぜひ。お願いします、メル先生!」(プログラムより引用)

 海外から招聘された作品って、作者や演出家の名前は覚えますが出演者までは気にならないのがほとんどなんです。でもこの作品では、主要な役を演じた役者さんの顔と名前を覚えたい!っていう気持ちになりました。歌と踊りはもちろんですが、演技もすごく面白いんですよね。演出のスーザン・ストローマンさんが「うまく私たちを笑わせることができた者だけが、オーディションに合格した」(プログラムから引用)とおっしゃっています。だから笑いに関してプロの人が勢ぞろいしているってことですよね(笑)。

 ここから細かく書いていきます。これから観に行かれる方は読まれない方が良いと思います。

 ≪あらすじ1≫ ※プログラムから引用
 1959年、ニューヨーク・ブロードウェイ。マックス・ビアリストック(Bob Amaral)は、かつて“ブロードウェイの王様”とまで呼ばれていたスゴ腕のプロデューサーだが、最近は鳴かず飛ばずの不作続き。『ハムレット』を翻案した新作ミュージカル『ファニー・ボーイ』も散々に酷評され,即座にクローズになってしまう。それでも懲りない彼は、金づるの“金持ち・有閑・夫なし”の老婦人を時間差で連れ込んでは甘い言葉を囁き、小切手を切らせて新作の資金にしようとしていた。

 そこへやってきたのは気弱な会計士のレオ・ブルーム(Andy Taylor)。マックスの帳簿確認をしたいたレオは不思議な事実に気づく。当たらなかった作品は、制作費は投資家からの資金で賄われ、かつ配当を払わずに済むため結果黒字になるという事に。これにマックスは飛びついた。「投資家から必要より多く出資を募り、絶対当たらない作品を創れば・・・大儲けだ!」。プロデューサーにあこがれていたレオも巻き込まれ、二人の“史上最低のミュージカル製作”が始まる。
 ≪引用ここまで≫

 マックス役のボブ・アマラルさんとレオ役のアンディー・テイラーさん、そしてミュージカルを作るメンバーの演技がまさにモンティ・パイソンなんですよね~(笑)。「それ、わかる人にはわかるけど、わからない人のほうが多いんじゃない?ってゆーかそんなの見せられたら困るかも(笑)」と突っ込みたくなるような細かいギャグがいっぱい。私は楽しくてしょうがなかったです。
 マックスは淫乱なおばあ様とスケベなごっこ遊びをすることで小切手を手に入れるんですが、この表現がめちゃくちゃ誇張されていて可笑しいんです。同じ服を着たおばあ様たちがワンサカうごめいている“LITTLE OLD LADY LAND(小さな老婦人の国)”は卒倒モノ(笑)。ブランコに乗ってウフフフフっと微笑むおばあ様、歩行器につかまりながら全員でタップダンス、さらにバック転までしちゃう無数のおばあ様。そしてその全員からにこやかに小切手をむしりとるマックス。
 気の弱いレオは何かトラブルがある度に、赤ん坊の頃から肌身離さず持っている毛布の切れ端に、頬をすりすりします。これがめちゃ情けない!でもカワイイ!会計のルーチンワークの毎日の中で、レオがプロデューサーになる夢を見るシーンは最高にわくわくしました。

 ≪あらすじ2≫ 
 スウェーデン出身のゴージャスで奔放な美女ウーラがオーディション希望で事務所に現れた。取り敢えず秘書としてウーラを採用し、資金集め、オーディション、稽古と一歩一歩計画を進めていく二人。
 ≪引用ここまで≫

 このウーラ(Ida Leigh Curtis)がまさに女性蔑視コーナー担当(笑)。胸ボン!腰キュッ!お尻ボン!足は細くてめちゃ長い!!って感じで超スタイルいいんですよ。それで完全にお尻まで見えちゃうような振付で踊りまくるんです。「身についているものは見せびらかしなさいって教えられたの!」という内容の歌を歌いながら。もちろんマックスもレオもウーラに悩殺されます。またこのウーラのスウェーデン語なまりの英語が可笑しいんですよね~。

 絶対に失敗するミュージカルの脚本として選ばれたのが『Spring time for Hitler(ヒットラーの春)』。演出および振付などのスタッフワークを担当するのが全員ド派手なゲイ。後半でこの作品が劇中劇として披露されます。ヒットラーを崇拝し、第二次世界大戦にもドイツが勝っちゃうという内容なんです。強烈ですよ、ホント(笑)。ハーケンクロイツの腕章をつけたドイツ軍人が足を上げて踊りますし、ゲイのヒットラーが腰をくねくねさせながら「HEIL(万歳)!僕を!」と歌いあげます。異常に豪華な衣裳や装置がさらに苦笑を誘いましたね。つらかったな~、笑いをこらえるのが。だって内容が内容だから大声では笑いにくいんですよぉ。客席は大うけでしたけどね(笑)。

 そして二人が必死で作り上げた最悪のショーの幕は開いたのですが、その後どうなったか・・・ネタバレします。

 ≪あらすじ3≫ 
 そして初日の夜。突拍子もない物語の演出、俳優たちの怪演に始めは唖然としていた観客たちが、ニ幕からは爆笑に次ぐ爆笑、拍手喝さいのカーテンコールまで始める始末。翌朝、各新聞に出た劇評も絶賛の嵐で、劇場はチケットを求める人々に取り巻かれた。
 大番狂わせにおろおろする二人に、さらなる不運が追い討ちをかけて・・・。
 ≪引用ここまで≫

 成功してしまうだろうな~とは思っていましたが、まさか二重帳簿がばれて投獄される方向に堕ちるとは予想できなかったな~。投獄されたマックスがそれまでの流れを1曲にまとめて歌うのは圧巻でした。
 意外に早くに出所できた二人がブロードウェイに舞い戻り、どんどんと新作を作って大ヒットを飛ばしていったというハッピーエンドになるんですが、その新作っていうのがまたスゴイ。例えば『セールスマンの死 on Ice』とかね(笑)。

 それにしてもやんちゃな作品だったな~。「そんなことしていいの!?ダメだよね!?」って思うようなことの連発ですから。チケット代が高いのが難点ですが、まあ観て損はないと思います。8月にジャニーズのいのっちが出る『プロデューサーズ』もありますが、中身は全然違うでしょうしね。

"THE PRODUCERS" the new MEL BROOKS musical
出演=Bob Amaral(ボブ・アマラル)/Andy Taylor(アンディー・テイラー)/Rich Affannato(リッチ・アファナート)/Ida Leigh Curtis(アイダ・リー・カーティス)/Stuart Marland(ステュアート・マーランド)/Bill Nolte(ビル・ノルティ)/ほか
脚本・作詞・作曲・プロデューサー=メル・ブルックス 脚本=トーマス・ハーマン 演出・振付=スーザン・ストローマン
S席13000円 A席11000円 B席9000円
主催=TBS/ホリプロ/キョードー東京/朝日新聞社
公式:http://www.theproducers.jp/

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Posted by shinobu at 01:06 | TrackBack