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しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年03月07日

日本演出者協会『若手演出家コンクール2005最終審査 橋口幸絵「古事記一幕・イザナキとイザナミ」』02/28-03/05「劇」小劇場

 橋口幸絵さんが脚本・演出される劇団千年王國は、東京国際芸術祭リージョナルシアターシリーズにも参加されている札幌の劇団です。
 一人の女優さんが「古事記」のイザナキとイザナミを堂々と演じ、楽器の生演奏および演奏者との有機的なコラボレーションが生まれていました。布や紙を使ったダイナミックな演出と、イザナミ(女)を主体とした脚本は個性豊かで、照明と衣裳のコンビネーションも圧巻。完成度の高い作品でした。何度か涙しました。
 レビュー⇒小劇場系(4作品全部ご覧になっています)。

 ★最優秀賞と観客賞をダブル受賞されました(劇団サイトより)。
 ★審査の様子が「千年番長下北沢へ行く」に載っています。

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 ≪あらすじ≫ Wikipedia「古事記 上巻(かみつまき)」より。(性別)を追加。
 天地開闢とともに様々な神が生まれたとあり、その最後にイザナギ(男)、イザナミ(女)が生まれた。ニ神は高天原(天)から葦原中津国(地上世界)に降り、日本列島(北海道や南西諸島は除く)を産み、ついで山の神、海の神などアニミズム的な神々を産んだ。こうした国産みの途中、イザナミは火の神を産んだため、火傷を負い死んでしまい、出雲と伯支(ははき=伯耆)の国境比婆山(現;島根県安来市)に埋葬された。イザナギはイザナミを恋しがり、黄泉の国(死者の世界)を訪れ連れ戻そうとするが、ニ神は喧嘩してしまったため、連れ戻すことに失敗し、国産みは未完成のまま終わってしまう。
 ≪ここまで≫ 

 太鼓(だと思う)のドーンという音とともに突然暗転し、真っ暗闇の中から男(演奏者)と女(役者)のひそひそ声や、歌うような声、はっきりと朗読するような声が交互に聞こえ出したとき、「きたー!」と思いました。これは気を引き締めて臨まなければ、と。

 舞台中央には豊かでワイルドな黒髪と白い衣裳をまとった女(榮田佳子)。そして上手には古代を思わせる木製の打楽器や弦楽器などが並べられ、紺色の作務衣(さむえ)を来た男(演奏者の福井岳郎)が控えます。基本的に一人芝居ですが、時おり演奏者も交えて二人芝居になったりもします。

 「イザナギとイザナミは、昔は二人で一つだった」という創作部分にすごく惹かれました。女がイザナギとイザナミの両方の会話を声色を変えて演じながら、腕をクロスさせて自分の手のひらを両頬に載せ、彼らが互いに相手の頬に触れ合っている様子を表します。私は「あぁ、世界が生まれた時、地球が出来た時、私達人間は、いや、動物も植物も空も地面もみな、ひとつだったんだな」と感じて、涙が溢れました。

 イザナギとイザナミが分裂して二つの存在になってから、二人の会話ややりとりが音楽や歌で表現されました。演奏者と役者が同じ楽器を一緒に演奏したり、同じ歌を歌ったり。幸せで官能的な時間です。

 イザナミが何度も妊娠して子供を生んで・・・を繰り返していく内に、男と女の差異が鮮明に現れます。それを女のイザナミの気持ちを言葉に出してつらねていくことで、現代の女性の気持ちをも代弁していました。火の神を生んだ時にイザナミは火傷をして死んでしまいますが、彼女が死ぬシーン、および火の神が歓喜の産声を上げて飛び回るシーンでは鳥肌が立ちました。

 女は腰に巻いた白い大きな布を使って色んな表現をします。演奏者に肩車をしてもらって、スカート状に広がった白い布を演奏者の頭から全身に被せて、スカートの下に赤ん坊(=演奏者の頭)を身ごもっているように見せたり、同じく白い布に扇風機で風を送り、ふわ~っと膨らませて、女の体(お腹)が膨らんでいく様子を表したりしていました。その扇風機で膨らんだ白い布の下から、真っ赤な衣裳をまとった火の神が生まれて来るシーンは圧巻でした。母親を焼き殺して生まれて来た火の神が「私、きれいでしょ!」と父親のイザナギにアピールするのは、親から子、母から娘へと時代が変わっていくことを示しています。なんて残酷で美しいのでしょう。

 先述の通り、衣裳は工夫やトリックもあるし、見た目にも美しいです。黄泉の国に行ってしまったイザナミの髪の毛がほどけていくのも、躍動感があってかっこ良かったです。白い布は照明にも生えます。床に広げた時に真四角だったのに驚きました。天井から吊り下がってきた、漢字が書かれた掛け軸も良かったですね。

 全体的に、敢えて泥臭いテイストに作られていると思うのですが、私の個人的な好みとしては、もっとクールに、洗練されたシーンが多い方がいいような気がしました。特にイザナギとイザナミが初めて交わるシーンは、演奏者と役者がなやましい声で歌を歌い、楽器を演奏することで表現されていたのですが、剥き出しのエロスであると同時に耽美な秘め事として完成していれば、もっと体にじ~んと沁みるような官能的なシーンになったのではないかと思います。歌の音程が少しくるったり、息声になったりすることがあったんですよね。生々しさの面ではすごく良かったのかもしれませんが、私は「あぁ、あともう一歩!」とつぶやきたくなりました。
 充分に面白く、完成度の高い作品だったと思います。でももっと上があるんじゃないかなと思うので書かせていただきますと、観客に話しかける演技は本当に話しかけるようにしてくださると、演劇作品としての厚みも深みもいっそう増すのではないかと思います。あぁ、細かいつっこみに過ぎませんね(苦笑)。

★2/27・3/6・3/7→トークイベントあり。詳細はこちら
出演=榮田佳子 楽器演奏=福井岳郎
脚本・演出=橋口幸絵 舞台監督=尾崎要(エス・アール) 照明=青木美由紀 衣裳=矢野あい 美術=松井啓悟 制作=アキヨ・徳村あらき 企画・製作=劇団千年王國 主催=日本演出者協会
最終審査 参加演出家=石橋和加子(神奈川県、コスモル)『桃湯~ももゆ~』/笠井友仁(大阪府、hmp)『traveler』/橋口幸絵(北海道、劇団千年王國)『古事記一幕・イザナキとイザナミ』/前川知大(東京都、イキウメ)『トロイメライ』
2000円ですべて観劇可能。
公式=http://www.k2.dion.ne.jp/~jda/wakate_top.html
劇団=http://www.sen-nen.net/

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Posted by shinobu at 2006年03月07日 12:54 | TrackBack (0)