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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2006年03月08日

ポツドール『夢の城』03/02-12THEATER/TOPS

 前作『愛の渦』で第50回岸田國士戯曲賞を受賞された、三浦大輔さんが作・演出されるポツドール。とうとう臆病者の私も観て参りました!この何年もの間、逃げて、逃げて、逃げてきましたけど、やっとポツドール初体験!なんだか一人で興奮気味ですが(笑)、観てよかったです~。最初はほんとキツかったですが、面白かった!ちょい泣いちゃったし!
 ※チラシには対象年齢などの表記はありませんが、未成年は観てはいけない気がします。

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 ポツドールというと(公式サイトより→)“演劇的なものを最大限に排除したドキュメンタリータッチの作品(=セミドキュメント)”で2000年ごろから有名になった劇団です。舞台上で本当にエッチしちゃうという噂を聞いて私は恐れおののき、のべ5~6年間も避けてきました。しかしながらその作風は2002年ごろから変化し始めたそうで、去年はフジテレビ『演技者。』でドラマ化されたり、岸田國士戯曲賞を受賞されたりと大活躍。とうとう私も年貢の納め時か、と・・・(苦笑)。
 チケットを予約した時点で「エログロの極致ですよ」という恐ろしい情報が耳に入っていましたが、勇気を出して観に行って良かったです。ポツドールを観られたことは私にとって大事件でした。そして、面白いと思えたことも。

 たしかに「エログロ」かもしれません。はじめのシーンから強烈でした。でも3シーン目ぐらいから私もすっかり慣れて(慣れって怖いですね)、いったい何を描いているのか、私には何が届くのかを慎重に感じ取ろうと、必死で舞台を見つめ続ける努力をしました。さすがにね、苦しくってうつむいちゃうこともあったんですよっ(涙)。でもうつむくと前が見えないので、面白いところや大切なところを見逃しちゃうんですよね(当然だよ!)。客席でクスクス笑いや小さなどよめきが起こってるのに、自分が気づかないなんて・・・悔しいので、がんばりました。

 動物のような人間が、そこに居ました。最初は気持ち悪かったです。いや、気持ち悪いというよりは不愉快、気分が悪いという感覚です。なんだか馬鹿にされているような気がしたから。でも、あの部屋の中に居る若い男女をずっと眺めていて、行われる行為に慣れてきて、静かに、無表情に流れ去っていく時間を共有していく内に、自分の中に疑問が生まれました。私が心から欲し、あこがれさえ抱きながら胸に思い描いている“愛”について、もしかすると自分は間違っているかもしれない、と。だって、あの部屋の中で群れる粗野な人間たちの姿にも、愛が見えてしまったから。

 ここからネタバレしますので、これからご覧になる方はお読みにならないでください。

 舞台はアパートの一室。時刻はAM2:00(幕が下りてきて文字映像が映写されます)。舞台面側に小さなベランダがあり、壁とガラス戸できっちりと仕切られた向こう側に、ごちゃごちゃしていてこ汚い部屋が見えます。部屋の中には布団が無造作に敷きつめられており、ガングロ&金髪の若い女の子が2人、いかにも素行が悪そうな男の子が4人(?)、それぞれ談笑したりごろごろ寝たり、テレビゲームをしたりしています。客席には車が高速で走り去る音だけが大きく鳴り響いており、人物の声はいっさい聞こえません。
 そんな中、舞台上手前で男女がセックスをし始めます。狭い部屋で5人以上がひしめき合う中、すぐ隣りでセックスしていても周りは全く知らん顔。テレビゲームをしている男たちはテレビゲームを、雑誌を読む者は雑誌を、じゃれあっていた男女はじゃれあい続けて、でも徐々にセックスをしはじめたりします。

 ・・・ここまでで私は、予想していた惨事を目の前にして頭痛がしてくるように感じ・・・でも、我慢しました。まだ壁の向こうで行われていたのでね、耐えられました。20分以上続いたと思われるそのシーンが終わって暗転すると、大音量の音楽とともに映像でオープニングのクレジットが始まりました。なんとも言えない居心地の悪さでした。
 音楽・映像と暗転が終わった次のシーンでは、壁が取り払われて、明るい照明が部屋を素っ裸にしています。BoAやジャニーズの男の子のポスター、日本国旗、ジャマイカ国旗などが壁中に張り巡らされた、ものすごく散らかった部屋で、女の子が一人起きてドライヤーで髪を乾かしています。他の若者は泥のように眠っており、男の子は全裸のままだったりも。舞台ではドライヤーとテレビの生の音がするだけで、スピーカーからの音楽や騒音は全くありません。流れているテレビ番組の時計表示を見るとAM9:30ごろです。「地獄のようなアパートにも太陽は昇るんだな~」と、ちょっと感慨深い思いをしたのもつかの間、また上手前でセックスしはじめる男女・・・。

 AM2:00からAM9:30、PM3:00と描かれていく内に、どうやら男5人&女3人の合計8人の若者が、ひとつのアパートで共同生活をしていることがわかってきます。朝からセックスしていた男女も、出勤(?)時刻になるとそれぞれが勝手に、何事もなかったかのような表情で部屋を出て行きます。PM3:00にはまたバラバラと部屋に戻ってきて、マンガを読んだり、テレビゲームを続けていたり。もちろんセックスもそこらでやってます。

 PM6:00になると女の子の一人が夕食の準備をはじめ、もう一人は皿洗いをしはじめます。一人の男の子がボクシングのグローブを鍋つかみ代わりにして、出来上がったであろう鍋を部屋の中央に持って行きます。すると他の男の子が部屋中に敷かれた布団をちょこっと横にずらして鍋のスペースを作り、鍋を床に置く寸前にサっとカセットコンロを出してきました。そして鍋に向かってぞろぞろと集まってくる若者達。おわん片手に箸を鍋につっこんで、皆でもしゃもしゃと食べます。皿洗いをしていた女の子はたまじゃくしから直接食べていました。
 調理から食事にいたる一連の動線はあまりに自然で、抜群のチームワークでした。このシーンから一気に私は、この『夢の城』の世界に引き込まれました。だんだんと彼らが野生のライオンの群れのように見えてきたのです。どこだったか忘れましたが、男同士でキスしてたかと思ったら、取っ組み合いのケンカのようになったシーンがありましたよね。あれもまさにライオンや猫がじゃれ合っているようでした。

 テレビはずーっとつけっぱなしで、チャンネルは誰もが勝手に変えて、テレビゲームになったりニュース番組になったりしています。テレビ番組のなんと見苦しいこと。朝のワイドショーでのお薦め温泉情報、昼のワイドショーでの祖母と孫の怪死事件報道、子供のための保険のCMなど、どんどんと汚く見えてきました。

 食事中に女の子の一人が下手奥の床に置かれたキーボードで、バッハの“主よ人の望みの喜びよ”(←音が鳴ります)を弾き始めました。曲が繰り返されるのをじーっと聞いている内に、私は空しさと嬉しさが混じったような何とも言えない気持ちになり、そして涙が流れました。
 同じ鍋で食事を分け合い、トイレもお風呂(ユニットバス)も布団も一緒。セックスしたければして、出かけたければ出て行く。でも、必ずこの部屋に帰ってくる。何もかも受け入れ、決して文句も言わず拒否もせず、そこにいつも8人が居るということが継続しているのです。本当の意味でのありのままを受け入れ、許し、それが続いている・・・これって愛じゃないのかな・・・って思ったのです。

 そしてAM3:00。部屋にはずっとテレビゲーム(野球)をやりつづける男が一人だけ。そこにおそらくクスリでラリっている男が2人、戻ってきます。相当ご機嫌な2人は、全裸で前転したりするんですよ(あぁこれ以上は書けないよ、もう)。あられもない姿というのはこういうことだと思います。 
 AM3:20ごろ、誰も何の合図も出していないのですが、自然に掛け布団(のようなもの)を所定の位置に並べ始めます。どうやらそれぞれの寝る場所が決まっているようです。誰かが勝手に蛍光灯を消して、就寝時間になりました。でもテレビはまだつけっぱなし。おそらくNHKでクラシック音楽(ショパンの幻想即興曲など)に合わせたイメージ映像が流れています。白鳥が湖でたわむれる映像に、踊るバレリーナの影が重なります。

 突然、テレビを見ていた女の子がつっぷして泣き始めました。それを見た男の子がむくっと起き上がって、蛍光灯を点けます。まぶしくて起きた男の子がもう一人。2人は全裸になってスピードスケートのリレーの真似をします。・・・ギャグみたいに見えて、笑えました。これはたぶん泣いている女の子の目をひきつけて、泣き止ませようとしたのではないでしょうか。めちゃ可愛いし、優しい行為です。まぶしくて起きた男の子も、電気を点けた男の子のポーズを見た瞬間に「あ、スピードスケートねっ♪」とわかったようで、これはあ・うんの呼吸ですよね。でも女の子は2人に全く気づかず、泣き続けるままでした。

 最後の暗転があり、大音量の音楽の中「作・演出:三浦大介」という文字映像が映し出されました。
 その後もう一度明転したら、壁が復活していました。ガラス戸の向こうに、つけっぱなしのテレビと光ファイバーのちゃちい照明器具が光っており、若者たちは眠っています。そしてカーテンコールなしで終幕。

 終わってみて冷静に考えてみたら、あえぎ声や叫び声、かけ声等以外にセリフが全くありませんでした。誰も言葉を発していなかったのです。行動はすべて自分勝手で唐突。言葉は全く発しない。でもその部屋の中には完璧な調和がありました。これは演出はもちろん、役者さんが上手いのもあると思います。

 最後に壁が出てきて『夢の城』が閉じられました。私達は家族同士、クラスメイト同士、同じ趣味の仲間同士等で集合体をつくり、閉じていますよね。また、自分の周りに強固な壁を作って、他人をシャットアウトしているとも言えます。閉じられた中身はこの『夢の城』のようにみだらで自分勝手な欲望で満杯になっています。自分で作った壁に遮られて、閉じ込められたまま生きる私達を表しているのかな、とも思いました。

出演=安藤玉恵/米村亮太朗/仁志園泰博/古澤裕介/鷲尾英彰/名執健太郎(smartball)/佐山和泉(東京デスロック)/小倉ちひろ(smartball) ※桜子は体調不良のため降板。
作・演出=三浦大輔 照明=伊藤孝(ART CORE design) 音響=中村嘉宏(atSound) 舞台監督=清沢伸也 舞台美術=田中敏恵 映像・宣伝美術=冨田中理(Selfimege Produkts) 小道具=大橋路代(パワープラトン)  衣装=金子千尋 演出助手=富田恭史(jorro) 尾倉ケント 写真撮影=曳野若菜 ビデオ撮影=溝口真希子 制作=木下京子 運営=山田恵理子(Y.e.P) 制作補佐=吉永鉱朗 青木理恵 大森敦史(hotair) 広報=石井裕太 協力=(有)マッシュ 企画・製作=ポツドール
16ステージ 【前売り】全席指定 3300円 【当日】3500円
公式=http://www.potudo-ru.com/
第50回岸田國士戯曲賞受賞=http://www.hakusuisha.co.jp/current/kishida_senkou.html

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Posted by shinobu at 2006年03月08日 22:03 | TrackBack (0)