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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年03月12日

チェルフィッチュ『三月の5日間』03/11-21六本木Super Deluxe

 第49回岸田國士戯曲賞受賞作品の待望の再演で(初演のレビューはこちら)、しかも作品の舞台になったライブハウスでの上演です。私個人としては今年の上半期最大のお薦め!

 若者の口語があふれつづける、しゃれた地下室で、ビールを飲みながら、観客の携帯着信音を楽しんだ時、私はあきらかに演劇ではないものを観て(体験して)いました。※ジャンルとしては明らかに演劇なのですが。

 お好みが分かれるので(これはチェルフィッチュ作品の枕詞です)メルマガ号外は控えますが、個人的には可能な限り多くの人に観ていただきたい(体験していただきたい)と思った作品でした。
 上演時間は100分(休憩20分を含む)です。ウェブ予約はこちら。当日券情報はこちら
 2006月12月に新作『エンジョイ』で新国立劇場進出が決定!(2006/03/13追記)

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 【これからご覧になる方へ】
 ステージを凹型に囲む客席でした。センター・ブロックがお薦めです。私は開演の55分前に会場に到着しましたが、センターの良い席は満席でした(びっくり!)。なので、良い席をゲットしたい方は開場時間には会場に到着されることをお薦めします。

 「ライブハウスで行われる何かを楽しみに来た」と思って、ぜひ開演前にビールやおつまみなど楽しんじゃってください。リラックスして、わいわい楽しんで、わいわい帰る。それがいいと思います。

 【コアなファンの方へのアドバイス】
 ミッフィーちゃん(松村翔子)を堪能したい方は、中央ブロック中央か、ちょい下手寄りがお薦め! 私は中央ブロック上手寄りだったため、佐藤さん(仮名)の陰になってミッフィーちゃんが見えませんでした(涙)。
 ※2度目は最前列桟敷席の中央で拝見しました。だけどやっぱり佐藤さん(仮名)の陰になっちゃってました(涙)! 全体を考えると中央ブロックがお薦めですが、ミッフィーちゃん目当てなら中央ブロックの一番下手ぐらいがいいのかも・・・。(2006/03/17追記)

 私は初演を観て大感動しており、戯曲本も読んだしDVDも観ています。だから真っ白な気持ちで観たわけではないんですよね。でも脚本はほぼそのまま変わっていませんし、配役もおそらく変更がないので、作品の概要については初演のレビューと同じと言っても問題ないと思います。
 初演と比べてどう変化したのかを感覚的に言うと、すごくおしゃれになって、洗練されていて、大人で、そして自由でした。

 ここからネタバレします。

 初演との違いは・・・まず会場ですよね。六本木のおしゃれ気な地下のライブハウスっていうだけでわくわくですし、開演前の熱気も休憩時間のざわざわ感も、とにかく新鮮でした。
 そして衣装!超かっこよくなってました。やっぱり六本木にいる(行く)ような人ってことで、特に山縣太一さんと瀧川英次さんは全く別キャラになってるほど。初演は全員メガネだったけど、今作ではそういう縛りがなかったです。

 米軍のイラク侵攻から3年、初演から2年経っていますので、時事的なことについて脚本は少々変更されていました。今にフィットした感覚がとても心地よかったです。ライブハウスのことを話すシーンでの「まあ場所はココなんすけどぉ(笑)」とか最高!

 初演は2004年でしたので、イラク戦争についてものすごく身近に感じていたのですが、もう3年経って、自衛隊も派遣されて、今、撤退するとかしないとかの状態になっていて・・・イラク戦争というよりは、今、地球上で起こっている戦争などの人為的な不幸全体を想像しました。

 初演に比べると照明がかなり大胆になっていました。色も派手です。かっこいいです。得にラストの短い暗転の後、ミノベ君(瀧川英次)が銀行のATMから戻ってきて、お金をユッキー(山崎ルキノ)に渡して、渋谷駅へ向かう時の、あの下手天井から横に差す白い照明。光る時も消える時もバシュっていう音が聞こえたような。

 休憩後、上演中に携帯電話の着信音が鳴りました。かなり大きい、しかもマヌケな音が、私の後方から。私は瞬間的にムカっとして後ろを振り替えました。するとちょうど舞台でセリフをしゃべっていた山縣太一さんも、その携帯を鳴らしちゃったお客さんの方を観ていたのです。そしてまた2度目の携帯着信音!この時も山縣さんは鳴った方向(上手客席)を、セリフをしゃべりながらチラリと観たのです。「あ、今そこで鳴ったね~」みたいな雰囲気で(笑)。思わず私もクスっと笑ってしまい、すっかり楽しくなってしまいました。
 その後、携帯は鳴りませんでしたが、ドリンクを飲むお客様が多くなっていたので、グラスの中の氷が揺れるカランという音が断続的に続きました。大きな音の時はステージ上の役者さんがちゃんと反応してくれて、私は他の観客の皆さんと、そして舞台上の役者さんと、まわりのスタッフさんたちと、つまりあの空間に居た人たち全員と、一緒に会話をしているように感じて、すごく幸せになりました。

 私が初演の時に「2004年のベストラストシーンだ」と思った、あの、「山手線の音楽が鳴る長い暗転」が、ありませんでした!これは個人的に大衝撃でした(苦笑)。でも・・・今回の環境を考えると、つっぱなすように終わってくれて良かったです。劇場で上演される演劇だったらアリですが、ライブハウスで行われる演劇っぽいイベントでは、助長だし説明的になってかっこ悪かったことでしょう。あと、今回は音楽を使わない演出だったそうですので、その意味でもなくして正解だったと思います。

 ちょっと寂しかったのはミノベ君(山縣太一)が言う「そういうことほんとみんな分かってたら、戦争とかも起こんないだろうねって思うんだよ」というセリフに感動できなかったこと。初演の時は無表情に近い顔で他人行儀に話されていたと思うのですが、今回はにこやかに、安堵したような嬉しそうな表情で明るく話されていました。なんか、サラっと通り過ぎてしまったんですよね・・・。後ほど役者さんの演技について書きますが、そのことと関係しているのかもしれません。

 ポストパフォーマンストークで岡田さんがおっしゃっていましたが、音楽でいうジャズのように俳優の自由度をかなり上げたお稽古をされているそうで、それが如実に舞台に現れている気がしました。
 やっぱりミッフィーちゃん(松村翔子)はすごいです。きらきらしてらっしゃいます。勉強部屋の窓の向こうに宇宙の景色が見えるように感じました。
 そして、どうしても目が奪われたのが瀧川英次さん。衣装もお似合いで、すごくセクシーなんですよね。縦線状の赤い照明を浴びて下手の壁によりかかって座っているだけなのに、気になって仕方がなかったです(良い意味で)。

 ただ、果たしてそんな風に俳優が目立つということが演出意図に叶っているのかどうかという点では、疑問が残りました。役者さんの存在感がかなりデコボコとしていたことは、私個人としては楽しいし歓迎なのですが、作品全体としてはどうだったんだろうな、と。
 チェルフィッチュの作品ではだいたい山縣太一さんのことが一番印象に残っていたのですが、今回は存在感が少なくて、ステージの上手奥のすみっこでずーっと座っていた時などは、居らっしゃることをずっと忘れていました。いわば「壁」になっていらっしゃいました。だから、敢えて「目立たないように存在する」という演出がほどこされていたのかなぁ、と思ったりもして・・・つまり「完成度」という点で初日のステージは質が高かったのか低かったのかが、私には曖昧に終わりました。「完成度」という尺度が初演の時とは違うものに変わったのかもしれません。
 でも、このことは特に考えなくてもいいのでしょう。役者さんの技術はある一定ラインをはるかに超えてらっしゃいますし、私が最高に楽しい3時間ぐらい(開場時間を含む)を体験したことには変わりありません。

第49回岸田國士戯曲賞受賞作品 Postmainstream Performing Arts Festival (PPAF) 2006
出演=山崎ルキノ/山縣太一/下西啓正/松村翔子/瀧川英次/東宮南北/村上聡一
作・演出=岡田利規 企画=小沢康夫 舞台監督=鈴木康郎 照明=大平智己 宣伝美術=good design company ウェブ=谷上周史 制作=中村茜 制作協力=プリコグ 主催=チェルフィッチュ 共催=Postmainstream 助成=財団法人東京都歴史文化財団
前売り開始 2/1(水)~ 全席自由/整理番号つき 前売:3200円 当日:3500円(お立見の可能性あり) 学生:2800円(要学生証/ウェブ予約のみ) セット券=サンガツ・ライブ(3/17)と「三月の5日間」(公演日よりお選び下さい)のセット券前売のみ4500円(ウェブ予約のみ)
公式=http://chelfitsch.net/sangatsu.html
★3/17だけ『サンガツ・ライブ』です。全席自由 前売:2200円(ウェブ予約のみ) 当日:2500円 企画協力: HEADZ
サンガツ=梶道人 (dr)、山脇豊土 (dr)、小泉篤宏 (g)、小島創太郎 (g)、磯木淳寛 (b) DJ Peaky (electronics)
トークショー=小泉篤宏(ミュージシャン/サンガツ)×岡田利規(チェルフィッチュ)
チェルフィッチュ=ショートパフォーマンス「ティッシュ」作=岡田利規 出演=松村翔子/端田新菜
サンガツ=http://sangatsu.com/

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Posted by shinobu at 2006年03月12日 04:00 | TrackBack (1)