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2006年08月18日

【レポート】シンポジウム「演劇教育はなぜ必要か」8/16(水)18:00~@世田谷パブリックシアター/セミナールーム

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会場入り口

 日本演出者協会主催『演出家育成ワークショップ』で来日中の、セルゲイ D. チェルカスキイさんを迎えてのシンポジウムです。
 「演劇教育はなぜ必要か」というタイトルですが、演劇教育(小学校でワークショップをする等)ではなく俳優教育にテーマを絞ったお話でした。パネラーは永井愛さん、栗山民也さん、司会は演劇評論家の村井健さん。
 3時間15分休憩なしはきつかったですが、面白いお話が聞けました。
 ⇒チェルカスキイ・ワークショップのまとめページ

  8/23(水)18:00~特別公演「知られざるスタニスラフスキー~後期スタニスラフスキー・システムについて~」も開かれます。

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 私が重要だと感じたり、憶えておきたいと思った言葉をノートに記録しました。下記、備忘録のためのレポートです。発言者のお名前については敬称略。

 村井「1902年から日露の演劇交流は始まった。1912年には小山内薫がロシアに行った。日本では新劇=共産主義とみなされていた時代の不幸があり、スタニスラフスキー・システムはすなわちイデオロギーであるという誤解が続いた。」
 村井「1980年以降、スタニスラフスキーの認知度が上がる。リー・ストラスバーグがアクターズ・スタジオで教えたり、それがイギリスに入って・・・ぐるりとまわって再び日本にやってきた。」
 村井「チェルカスキイさんが教えるロシア国立サンクト・ペテルブルグ演劇大学は、生徒が100倍の倍率で入学してくる。演技、ムーブメント、ヴォイス(レイチ)の3つの柱。常設劇場は、毎日日替わりのレパートリーシステム。俳優は常に3~4本のレパートリー作品のセリフと新作の稽古を抱えている。藤山寛美が無数に必要な状態。クビになることもある。非常にハードな競争社会で日々勉強しなければならない。」
 
 チェルカスキイ「演劇の教育には、劇場の将来がかかっている。私は卒業してから15年間、講師をやっています。大学は1773年創立なのでフランス革命の10年前。約1000人の生徒がおり、5%が海外からの学生。4つの学部がある(この詳細については初日レポートをご覧ください)。200名の講師がいる。1人の生徒の席に100人の希望者がいます(100倍の競争率)。1週間48時間授業で4~5年制だが、5年制にしたいと考えている。」
 チェルカスキイ「サーカスの芸人やバレエのダンサーは、プロかどうかの差は見ればすぐわかる。しかしながら俳優はそれほど差がわからない。“提案された状況の中でどれだけ確信を持てるのか”。それが演劇教育を受けたかどうかの基準になる。」
 チェルカスキイ「プロの俳優と素人とをイスに座らせる。「洪水だ!」と声をかけると、教育を受けた俳優ははっきりと洪水を想像することが出来る。汗をかいたり、鳥肌が立ったり、体の状態自体が変わってくる。俳優教育は時間がかかる。」

 チェルカスキイ「スタニスラフスキー・システムが流行するひとつの理由がある。俳優存在が成立する課題を設定し、身体と心理の法則を見つける。これは科学的発見に近い。スタニスラフスキーはパブロフ(「パブロフの犬」で有名な)とも交流を持っていた。俳優教育で現代の心理学、身体科学を使います。(演劇教育を)科学に近づけるのではなく、それらは相関しているのです。俳優教育は先に行けば行くど難しい。」

 チェルカスキイ「私たちの敵はビデオです。俳優がビデオを観るので本を読まなくなる。想像力を損なう。本を読むということは、その登場人物のことを想像すること。」
 チェルカスキイ「学生は4、5年後に学士号を取る。そしてロシア全土に散っていく。モスクワとペテルブルグが2つの中心です。」

 チェルカスキイ「重要なポイントはアトリエ制。1年生の練習課題から4年生の卒業公演まで一人の先生が教える。講師は劇場で働いている人たち。本当(現場)の芝居に結びつくことがよくある。2年の中ごろか後半に作品を作る。それがレパートリーとして4年間上演される。作品を作るとそれが全てレパートリーになるので、卒業する頃には4つか5つのレパートリーがある状態になる。指導者好みの作風になることはある。」
 チェルカスキイ「海外から勉強しに来る講師が感心するのは、専門課程が緊密に結びついていること。俳優(演技)とムーブメントがバラバラではない。専門課程の講師が劇場で働いているから、教育の統合性がある。」

 チェルカスキイ「メイエルホリドは2年間、わが大学で講師をしていた。その時、演出学部に多大な影響をもたらした。スタニスラフスキー・システムと融合した面もある。だからスタニスラフスキー・システムは“20年前に死んだ人のシステム”ではない。色んなものが組み合わさっている。スタニスラフスキーとメイエルホリドは対立するものだとみなされがちだが、1930年代にメイエルホリドが亡くなってから、スタニスラフスキー・システムと結びついた。現在は切り離せないものになっている。日々進歩し、変わっていくものなのだ。」

 チェルカスキイ「スタニスラフスキー・システム=リアリズム演劇ではない。」
 チェルカスキイ「アメリカの“メソッド”とロシアの“スタニスラフスキー・システム”は別のものだ。リー・ストラスバーグが提唱した“メソッド”は、初期スタニスラフスキー・システムとフロイトの精神心理学を足したもの。映画で効果を発揮するが、演劇では映画ほどはうまく働かない。」

 チェルカスキイ「現代は、俳優への要求が高くなっている。演出もドラマトゥルギーも複雑になっている。だから俳優が演出家の人形でいるのはムリ。非常に難しい。共同作業に向いていなければならない。」
 チェルカスキイ「ロシアでは、総合芸術としての舞台演劇であることが大切。内面から教育されていて、スタッフ(照明、美術など)の中での話し方を知っていなければならない。俳優とは、ただ演じる人ではなく、創造者(クリエイティブ)でなければならない。それはとても難しいことで、新しい出口、逃げ口を探す作業です。昔、居た天才たちの作業を乗り越えていく作業。これについて2時間ではとても話せません。討論は真夜中まで続くでしょう。」

 栗山「(?)の社会的役割を痛感します。スウェーデンのストックホルムの王立劇場でイプセン作・ベルイマン演出の『ゆうれい』を観ました。アウグスト未亡人役の俳優が素晴らしかった。ベルイマンが監督する映画のアップのシーンのように観られた。言葉がこちらに触れてくるようだった。」
 栗山「スウェーデンに王立演劇学校は5校あり、5年制です。15人の生徒に対して15人の先生。マンツーマンです。税金が高い国だからですが、授業料がタダです。」
 栗山「王立演劇学校の講師に新国立劇場のパンフレットを見せたら、素晴らしい劇場だと言われました。でも演劇学校がないということを伝えると、『では、舞台には誰が立っていらっしゃるんですか?』と青ざめて聞かれてしまいました。」
 栗山「新国立劇場演劇研修所(NNTドラマスタジオ)は7年かかって作ることが出来ました。重層的な学校ではなく、フランスのコンセルヴァトール的な小さなスタジオです。これからの10年、15年で結果が出てくる、今はそのプロセスの途中です。」

 永井「桐朋学園でルコック・システムを学んだ。スタニスラフスキー・システムの授業もあったけれど、村井さんがおっしゃったように批判的な評判だったので、勉強しなかった。30代を過ぎてから改めてスタニスラフスキーの本を読んだら、驚くほどルコック・システムに類似する点があった。」

 村井「スウェーデンは(ロシアも)授業料が無料ですよね。生徒は劇場で芝居を観るのも無料です。日本ほど初日が多いことはないけれど、(レベルの高い芝居が常に上演されているから、頻繁に)良いものを見られる。観客としてはより良い舞台を観たい。だから日本の現代演劇の俳優も、早くグローバルスタンダードに上がってもらいたい。そのためには新国立劇場演劇研修所での基礎教育を1本に絞るべきなのでは?個人的には“(色んな国の、いろんな技術の)シャワーを浴びせすぎ”のように思える。まず10年間、ひとつにすべきではないか。」

 栗山「イギリスは3年制、フランスも3年制、ドイツは4年制かな(日本は3年)。フランスのコンセルヴァトールの教育方針は『美しいフランス語の伝承』と『演劇を国民の歴史的装置と置く』という2つですが、これが良い気がします。3年というのは基礎教育です(入り口に過ぎません)。」


 チェルカスキイ「なぜ俳優を教育しなければならないのか。ロシアはついていた(ラッキーだった)。ミッションが高く受け入れられた。プレス(新聞など)がよく取り上げた。ソビエト時代は教会でも演劇が上演された。劇場は文学よりも自由な場所で、みんな興味が集中する場所だった。だから俳優は興味の中心でした。社会的地位が高かった。給料は少なかったけれど。」
 チェルカスキイ「スタニスラフスキー・システムは演技のある領域です。舞台上の俳優存在が有機的である状態。私たちの道は自分を知ることです。」
 チェルカスキイ「コメディア・デラルテは能に似ています。コメディ・フラセーズはレイチ(ものいい)の権威です。」

 村井「ロシアでは2年の後半しかシーン・スタディをやらないんですよね?戯曲を使った授業をする前に、長い基礎訓練の時間があります。」

 チェルカスキイ「ヴェートーヴェンとチャイコフスキーの曲を弾きたいと思っても、素人にはムリです。訓練を経てからしか、芸術は表現できない。ピアニストが手を置く位置を毎日訓練するように、バレエダンサーが毎日バーレッスンをするように、俳優も訓練することが必要です。」
 チェルカスキイ「最初の半年はずっとエチュードです。観察することを教える。人生はどんなファンタジーよりも豊かであることを教える。人生についてより多くのことを知っているのが優秀な演出家です。」
 チェルカスキイ「身体感覚と記憶のトレーニングは 俳優が生理的なことを信じなければ、観客もそれを信じられない。」
 チェルカスキイ「その半年後(入学してから約2年後ぐらい?)にテキストに入ります。戯曲ではなく散文から。最初に言葉から入ると、言葉の観点からとらえてしまう。言葉と言葉の間に克明に人物の行動が書かれている。行動はテキストよりよほど重要です。」


 栗山「スタニスラフスキー・システムは思想ではない。道具である。うまく使えば必ず役に立つ。そのことがよくわかりました。それはスタニスラフスキーがチェーホフと同時代に生きていたことが大きいと思う。ものごとは多義的に見ないと、解決しない。小泉純一郎がマイケル・ムーア監督の『華氏911』という映画について、「あんな偏見に満ちた映画は見ない」とインタビューに答えていましたが、見てもいないのになぜ偏見に満ちていると思うのか。非常に一義的な考え方です。」

 栗山「今の日本人に欠けていることは、見ること、そして聞くことだと思います。YesとNoの間には、無数の回答が隠されている。稽古という実践の場でそれを探すのです。」
 栗山「イギリスの俳優学校で、手に平を握る(YES)、開く(NO)というエクササイズの話を聞きました。その2つだけの動作については日本人はとても上手なのですが、3分間かけてその動作をするということは難しい。3分間の手の形の数だけ、答えがあるのです。“テンションとカンカク(?)”という言葉をよく演出で使う人がいますが、おおざっぱに言えば、それだけで演出なんてできてしまうんですよね(笑)。(でもそれは真実ではない)」

 村井「日本でも俳優教育者の育成が必要です。」

 ≪質疑応答≫ 参加者の質問に対する答えの一部です。

 質問「総合芸術としての演劇とおっしゃいましたが、ロシア人の演出家○○(人名を失念)は役者に命令をする作り方をしていたそうですが。」
 チェルカスキイ「役者と演出家の関係について。○○(人名)は有能な演出家でわが大学でも講師をしていました。彼は芸術的構想に俳優が興味を持つように持って行き、俳優を夢中にさせようにしていた。演劇は共同作業の芸術です。演出家の仕事は独裁ではない。(演出家の仕事は)才能のない役者のやることを隠すことです。創造的な役者と創造的な演出家、スタッフがそろって作り上げる時、私たちの夢見る劇場が現れます。」

 チェルカスキイ「演出家教育の3つの基本は、
 1.演出家に役者と同じ俳優教育を受けさせること。俳優の生理を知る必要があるから。
 2.スタニスラフスキーが発明してその弟子たちが発展させた、行動分析。
 3.芸術的な総合性。演劇は総合芸術です。たとえば演劇のスタッフを話し合うこと。」

 チェルカスキイ「演出家の胸の中には一人の俳優がいなければならない。」
 チェルカスキイ「演出家は⇒アイデアを持ってドラマを舞台芸術に翻訳する。専門家(照明、美術など)によるばらばらの仕事を自分のテーマに沿って統合させる。その中から主要なテーマを見出す。客席が興味を持つことを出し続ける。それらを芸術的な形に昇華させ、人生に対する真剣な問いも投げかける。」

 栗山「僕の卒業論文のテーマは世阿弥の「風姿花伝」だった。」
 栗山「稽古場は、俳優が戯曲で読んだことをプレゼンする場である。自立した俳優が演出家と同じ地平に立てることが必要。そういう俳優を育てたい。『ものいう術』という本がありますが、「ものを聞く」能力の欠落が著しい(日本では)。相手をどう動かすか、ばかり考えている。」

 質問「俳優教育者にとって最も大切なものは何ですか?」
 チェルカスキイ「生徒に対する愛情です。そして忍耐。講師は、才能はあるけれどあまり何も出来ない生徒と、ずっと触れ合っていかなければなりません。忍耐力が必要です。講師は影の中に立つ仕事です。俳優は光の中で、講師は舞台袖で心配するばかり。また、講師は現代的な人間でなければならない。常に新しいことを求め、勉強しなければならない。」

 チェルカスキイ「ある時、夏休みの課題をワイルダーの『わが町』にしました。アメリカの小さな街で死んだ一人の人間が、14歳の誕生日に戻るお話。生徒にはどの戯曲なのかは教えずに、小さな街の人物を観察すること、そして若者の愛、20年連れ添った夫婦の愛、40年連れ添った夫婦の愛について考えてくることを宿題にしました。新学期には、愛を物語る準備ができました。」

 流山児祥「アジアの身体性というのもあるのではないか。日本の役者はスタッフ(照明、美術など)が出来る。これは世界中を見ても日本だけ。」

 村井「推古天皇の時代、バリ、ジャワ、インド、中国などから舞楽、伎楽などのさまざまな芸術が日本に集まりました。古代に異文化交流が盛んに行われていたのです。日本の文化が花開くのは(文化・芸術の発展が臨めるのは)、歴史的に見ても明らかに異文化の接触からです。」


パネラー=セルゲイ D. チェルカスキイ/永井愛/栗山民也 司会=村井健 通訳=久保遥/上世博及
参加費=500円
日本演出者協会=http://www.k2.dion.ne.jp/~jda/index.html

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Posted by shinobu at 2006年08月18日 11:36 | TrackBack (0)