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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年11月09日

阿佐ヶ谷スパイダース『イヌの日』11/09-26本多劇場

 長塚圭史さんが作・演出される阿佐ヶ谷スパイダース。豪華キャストで全国8ヵ所を旅する大規模ツアーですね。
 2000年に駅前劇場で初演された作品の再演は、休憩なしの2時間40分。時間を忘れて最後までじっくりと拝見できました。

 東京公演の前売りは完売ですが、追加席販売、当日補助席予約などがあるようです。公式サイトをチェックしてください。
 ⇒『イヌの日』公式ブログ
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 レビューをアップしました(2006/11/15)。

 地上と地下とにまっぷたつに分かれた装置でした。地上は中津(伊達暁)とその母・和子(美保純)が暮らす家で、上手に麻雀卓の置かれたリビング、下手に和子の寝室があります。その下は真っ暗闇。

 太陽がさんさんと照り、自然の恩恵がまだ私達を守ってくれている地上では、目を伏せたくなるような暴力が横行し、偏向した愛がすれ違い続けます。かたや地底の闇の中では、粗野で純粋無垢な、健康的ともいえる愛が通い合って、人と人とが触れ合う喜びに満ちています。そんな皮肉な設定だからこそ、愛に飢えた現代人の愚かな姿がはっきりと浮かびあがるのだなと感じました。長塚圭史さんの独特の作風なのだと思います。私はあまり得意ではありませんが(暴力など)、初演よりはずっと深く、面白くなっているように思いました。

 ここからネタバレします。

 若くして母になった和子(美保純)は、息子(伊達暁)との親子関係の結び方が不器用で、息子の友人ら(大堀こういち・長塚圭史)と次々と肉体関係を持ってしまっています。息子はそんな母親を憎み、それは女そのものに対する怒りや不信にまで募っていました。

 中津は小学校5年生の時に好きだった同級生の女の子・菊沢(剱持たまき)を、家の裏の防空壕に監禁しました。彼女が寂しがったので洋介(玉置孝匡)、孝之(中山祐一朗)、柴(松浦和香子)の3人も連れ込んで、17年もの間ずっと閉じ込めてきました。地上は大気汚染などで地獄のようになっており、地下の方が幸せなのだと言い聞かせられ、幼い菊沢らはそれを真に受けて地下で生き延びてきたのです。

 ある時、中津が1ヶ月ほど留守にするため、彼らの食事の世話を友人の広瀬(内田滋)に頼んだことから、外界との接点ができてしまいます。地下が少しずつ地上に侵食されていくのが恐ろしくもあり、わくわくもしました。

 外は地獄ではないと知ってしまった菊沢たちは、地上に出て中津らにさらしものにされるより、そのまま地下に残ることを選びます。生き埋めになったはずの少年少女らですが、彼の死体だけはなぜか見つかりませんでした。これは初演も同じだったようです。※地下になじんでしまった地上の人間・宮本(八嶋智人)は発狂した状態で発見されます。

 菊沢らが地下で生き埋めになってしまった後、中津らが彼らの写真を防空壕に展示して、物好きな金持ちから観覧料を受け取る商売を始めるというのが、初演のラストでした。でも再演では商売は始めておらず、中津と広瀬がナンパしてきた女の子2人を連れ込むことになっていました。いないはずの菊沢らの声が中津と広瀬の耳に響いてきて、男2人が悲痛の叫び声をあげます。全然違う種類の嗚咽でしたね。広瀬は恋情や悔恨といったもので、中津は恐怖だったように思います。女を犯せるようになっても、中津の心は全く癒えていないということかなと思いました。

 中津の母などの新しい登場人物のおかげで中津の人物像や地上の世界に厚みが出て、初演よりもさらにじっとり、ねっとりとした、業の深いお話になっていました。ただ、私の好みかと言うとあんまり・・・。敢えて際どく残酷な設定にしているように感じて、観ている最中にちょっと冷めてしまうことがありました。

 菊沢の存在によって表される罪悪感のない性行為は神々しいものだと思いました。てゆーか無敵ですよね(笑)。菊沢は汚い欲望の餌食になったとも見えるし、性愛を無邪気に施す女神のようにも見えます。中津と和子の親子愛についても極端な二面性がありますよね。その他の登場人物のエピソードにも、人間存在の複雑さや、そこから生まれる終わることのない葛藤が散りばめられ、考えても考えても尽きないほど多くのテーマが含まれた戯曲だと思います。

 私が好きだった会話↓(セリフは正確ではありません)
 中津「これ(監禁)あんたがやったってことにしてくれよ。」
 和子「好きって言ってよ。嘘でいいから(言ってくれたら言うとおりにする)。」
 中津「・・・好きだよ。」
 和子「私もよ。」

 鬱になってきて死にたくなった孝之に、柴が植物(覚醒作用がある?)を食べさせる。
 柴「大丈夫?本当じゃなくなった?」
 孝之「うん、大丈夫。本当じゃなくなった。」

 美保純さんがすっごくセクシーでかっこ良かったです。ハスキーな声も素敵。
 内田滋さん。広瀬役。見目麗しい美少年役(時には美女も)もお馴染みですが、今回は短髪でワイルドな不良役がばっちりでした。これまでとは違った、男らしい色っぽさと真っ当なかっこ良さを堪能させていただきました。

≪東京、大阪、仙台、福井、名古屋、新潟、福岡、広島≫
出演=内田滋/剱持たまき/八嶋智人/大堀こういち/村岡希美/玉置孝匡/松浦和香子/水野顕子/大久保綾乃/中山祐一朗/伊達暁/長塚圭史/美保純
作・演出=長塚圭史 美術=島次郎 照明=佐藤啓 音響=加藤温/藤森直樹 衣裳=前田文子 演出助手=城野健 舞台監督=福澤諭志+至福団 宇野圭一(至福団) 製作 =ゴーチ・ブラザーズ 主催=阿佐ヶ谷スパイダース/TOKYO FM
一般前売発売日9月16日(土) 前売り5,500円 当日6,000円 (全席指定・税込)
公式=http://asagayaspiders.net/

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Posted by shinobu at 2006年11月09日 22:59 | TrackBack (0)