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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2006年11月17日

佐藤佐吉演劇祭2006・無機王『吉田鳥夫の未来』11/15-19王子小劇場

 佐藤佐吉演劇祭2006の7公演目は、渡辺純一郎さんが作・演出される無機王です。私は初見。
 一軒家の居間を舞台にした家族のお話。いわゆる“静かな演劇”の部類に入るものでしょう。上演時間はおよそ1時間50分。

 ※佐藤佐吉演劇祭2006レビューブログ公式レビュアー3人(私を含む)、公募モニター4人のレビューが上がっています。こまめにチェックして観劇の参考になさってください!

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 ≪あらすじ≫
 吉田鳥夫(西山竜一)は中学生の時の事故が原因で、記憶を持続できなくなった。今日のことを明日には全く忘れているのだ。鳥夫の姉の海老子(後藤里恵)は5年前に夫の小次郎(小寺悠介)と離れて、14歳の息子・洋(中島佳子)を連れて実家に戻り、ホステスをしている。もう一人の姉・虎美(山崎康代)は男勝りの大工で毎日はつらつと働いている。吉田家で暮らすのは鳥夫、海老子、虎美、中学生の洋、そして父親の喜一郎(猪股俊明)だ。喜一郎はちょっとした有名漫画家だが、しめ切りを全然守らない。今朝も新人編集者・岬(山田佑美)が出来あがりそうにない原稿の催促にやってきて・・・。
 ≪あらすじ≫

 ぽつり、ぽつりと交わされる静かな日常会話から、少しずつ人物の背景がわかってきて・・・というスタイル。音楽も最小限で(たしか転換の時にしか鳴らない)、照明の効果も時間の経過を表すだけに留めているので、役者さんの演技にすべてがかかっていると言える作風だと思います。
 脚本の世界を忠実に描こうとしているように見えました。演劇的な演出も少しはありましたが、全体的におとなしすぎて物足りなかったですね。

 14歳の中学生・洋(ひろし)を中島佳子さんが演じられます。一目で女優さんだとわかるのですが、性差がはっきりとしない中学生の男の子役として、抜群のナチュラルさ。可愛かったです。

 ここからネタバレします。

 畳やちゃぶ台、戸棚など、リアルなものが使われた美術なのですが、殺風景過ぎる部分(中庭、廊下、階段など)と混在しているのが気になりました。例えば階段の段の高さが普通よりもかなり高いですよね(階段を上り下りする役者さんの動きが危うくて心配。どうぞ怪我なさいませんように)。
 また、最初のシーンが朝だと思えませんでした(夜にビデオを観ているように見えました)。これは照明の色が原因というよりも、空間を作る要素全体の問題だと思います。役者さんの存在感や装置の質感、照明の色、音の具合など、すべての呼吸が合わさった時に“朝”が表現できるのではないでしょうか。

 脚本については、「それはヘンなんじゃないかな~」とひっかかるところが時々ありました。例えば訪問者が玄関ではなく縁側からやってくることには不自然さを感じました。他人の家の庭に勝手に入り、さらに縁側の引き戸を開ける(引き戸にひっつく)ところまでやっちゃう人って、そんなにいないと思います。また、階段の下から上を見上げて、2階に人がいるかどうかを確かめる動作を複数の登場人物がしていましたが、下から階段を眺めるだけではわからないはずですよね。せめて半分ぐらいのぼって耳をすますとかしないと。

 洋の同級生の女学生・翔子(瀬戸口のり子)は白魔術部(笑)で活動する変り種で、喜一郎のもとに弟子入りする安倍麻里男(加藤和彦)はパーマンのコスプレをするヲタクキャラでした。隣りに住むぽっちゃり体型のホステス・田宮愛(西松希)も、小次郎にホレられていると一方的に勘違いする困ったさんです。このように突飛な特徴を持つ人物が登場するのは楽しいことですが、「面白いことをしでかす人」であることが前面に出てしまっていて、吉田家の家族の世界に溶け込むところまではいってなかったように思います。

 鳥夫には、彼にしか見えない保(金森勝)という幻の友人(学生服を着ている)がいて、常に行動をともにしています。鳥夫は何かとつっかかってくる保と普通に会話をしますが、他の人には保の姿は見えていません。保の定位置である下手奥に青緑色っぽい照明が薄く入るのは、わかりやすいし効果的だと思いました
 終盤で、保は編集者の岬のひとこと(保がいる場所には“しみ”しか見えないと言った)のがきっかけで消えてしまい、同時に鳥夫の病気も治ります。得体の知れないものとの遭遇が、ある固まった世界を壊し、そこから新しい命が生まれたと受け取りました。

 保役の金森勝さんが手に包帯を巻かれていましたが、役作りではなく本当に怪我をされていたようです。どうぞお大事に。

出演=西山竜一・山田佑美・中島佳子・西松希・山崎康代・猪股俊明・金森勝・後藤里恵(beWIN)・小寺悠介・瀬戸口のり子・加藤和彦
脚本・演出=渡辺純一郎 照明=上川真由美 照明オペ=鹿野慎二郎 宣伝美術=河本裕之 制作=無機王
前売2300円 当日2500円
公式=http://www.mukioh.org/
佐藤佐吉演劇祭2006まとめ=http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2006/0830030836.html

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Posted by shinobu at 2006年11月17日 00:18 | TrackBack (0)