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しのぶの演劇レビュー
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2006年11月26日

佐藤佐吉演劇祭2006・elePHANTMoon『シュナイダー』11/22-26王子小劇場

 佐藤佐吉演劇祭2006の8公演目は、マキタカズオミさんが作・演出されるelePHANTMoon(エレファントムーン)です。私は初見。象と月の間にファントムが入ってる劇団名は素敵ですね。
 ある喫茶店を舞台にしたお話。今回もまた日常を坦々と描くタイプのお芝居でした。タイトルに特に意味はないそうです。上演時間は約1時間30分。

 ※佐藤佐吉演劇祭2006レビューブログ公式レビュアー3人(私を含む)、公募モニター4人のレビューが上がっています。こまめにチェックして観劇の参考になさってください!

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 ≪あらすじ≫
 へんぴでちょっと不気味な地区にある、見るからにイケてない喫茶店。事故で足が不自由になった里奈(坂倉奈津子)は、失踪中の夫・ヨウイチの知り合いだという岩波(石橋征太郎)と、二人で店をきりもりすることになる。
 店には里奈の幼なじみの警官・慶太(永山智啓)ら、気のいい常連もいるが、毎日里奈に命令されて通う男・日高(竹岡真悟)もいる。訪れる客はみな何かわけがありそうだ。
 ある日、ヨウイチを訪ねて驚くほど高圧的な女(渡辺美弥子)がやってきた。
 ≪ここまで≫

 細かい部分まで丁寧に作りこまれた立派な喫茶店でした。数種類の個性的な壁紙が、少し昔風の喫茶店の味わいをうまく演出しており、舞台のほぼ中央にある段差のおかげで、空間の厚みが感じられました。こういう美術に出会えたのは嬉しかったですが、残念ながらお芝居はそれに追いついていないようでした。

 音楽は場面転換の暗転の時だけでしたし、照明の変化もほぼありません。このように日常を描く作品をよく拝見するのですが、若い劇団の若い役者さんの演技に頼るのはリスクが高いと思います。また、舞台上で日常世界を再現されるだけでは面白みに欠けます。舞台だからこそできる演出の工夫が観たいです。

 加害者と被害者という人間関係を描いていたようですが、ラストシーンのその先が私は観たかったですね。

 ここからネタバレします。

 こういうお芝居では、舞台に居る人々の互いの存在の仕方によって、リアルな喫茶店の空気を作り上げることが大前提です。残念ながらそこがおぼつかなかったです。
 照明や音響その他の特殊な演出によって、舞台上の世界が現実社会とは乖離したものだ信じられれば、細かい部分には進んで目をつぶりたくなるものです。でもそういう演出がなかったので、何かにつけ腑に落ちない気持ちになってしまいました。たとえば金髪の警察官というのはムリがあります。喫茶店を出入りする客も、店員の接客態度も不自然なことが多かったです。

 左足がうまく動かない里奈は、事故の加害者の日高に毎日謝罪をしに来させ、麻痺した左足を叩かせたり舐めさせたります(舐めているように見えました)。
 岩波の犯罪はひどかったですね~(男児に性的いたずらをした。暴れるからかなづちで頭を殴った。ぐったりしたので死んだと思った。思い出のために右手を切り取って、焼却炉に閉じ込めた。すると中から叫び声が聞こえた。切った右手で自慰をした)。刑期を終えて出てきたら、被害者の男児の父親・福光(鱒田エンキチ)と喫茶店で出会ってしまいます。

 岩波が男児にやったことを、福光が里奈に対してやることになりました。里奈はかなづちで殴られ、ガソリンを体にかけられて生きながらにして焼かれます。ここまでむごい展開になると、怖いというよりは可笑しくなっちゃいました。そして最後には体中焼けただれながらも生き残ってしまった里奈の無残な姿が・・・。被り物まで作る必要はなかったんじゃないでしょうか。ただれた顔の里奈が出て来なかった方が怖さが増したと思います。

 こういうことが描きたかったのかな~と考えるヒントになったセリフがありました(セリフは正確ではありません)。
 里奈「謝って、謝られて、私達、楽(らく)してるね」
 岩波「“死んだら許してあげる”と言われて、ヨウイチさんは喜んでました(そして樹海に入って自殺した?)。」

 謝って許されるなら楽。死ぬことで許されるなら、それも楽。謝ることも出来ず、死ぬことも出来ず、償うことも許されないまま生き続けなければならない人間が居る。また、自分を傷つけた人間(加害者)にずっと執着して留まったまま、前進できない人間も居る。不幸が不幸を呼びその連鎖がさらなる悲劇を生んで・・・という感じでしょうか。この先にあるのが赦しだと私は思います。そのあたりまで描いてもらいたいですね。

 ヨウイチのお通夜での、ヨウイチの愛人・一瀬(渡辺美弥子)と里奈に想いを寄せる慶太(永山智啓)とのけんか腰のやりとりは楽しめました。一瀬のしゃべる言葉が面白かったです。

出演=永山智啓/酒巻誉洋/坂倉奈津子/竹岡真悟/尾本貴史/玉江仁一/墨井鯨子/石橋征太郎/鱒田エンキチ/渡辺美弥子(電動夏子安置システム)
脚本・演出=マキタカズオミ 舞台美術=福田暢秀(F.A.T STUDIO) 舞台監督=伊藤智史 照明=若林恒美 音響=上野雅(Sound Cube) 衣装=仲ひとみ 三井さやか 制作=佐藤陽子 製作=エレファントムーン
前売開始=10月8日(日) 料金=前売:2300円 当日:2500円
公式=http://www.elephant-moon.com/
佐藤佐吉演劇祭2006まとめ=http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2006/0830030836.html

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Posted by shinobu at 2006年11月26日 00:03 | TrackBack (0)