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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年02月16日

パルコ『フールフォアラブ fool for love』02/07-25 PARCO劇場

 映画監督の行定勲さんが初めて舞台を演出されます。出演は香川照之さん、寺島しのぶさん、甲本雅裕さん、大谷亮介さんという豪華な4人芝居。
 私はサム・シェパード&キム・ベイシンガー主演/ロバート・アルトマン監督の映画(1985年)がけっこう好きで、役者さんも好きな人ばかりなので楽しみにしていました。

 席が前から3列目だったこともあってか、臨場感のある会話劇を味わうことができました。上演時間が約1時間25分と短めなのも嬉しい。ただ、7,500円っていうのはちょっと高いよな~と思いました。パルコ劇場で豪華キャストだから仕方ないのでしょうけど。
 
 ⇒CoRich舞台芸術!『フールフォアラブ

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。ネタバレしていますので、お気をつけ下さい。
 舞台はニューメキシコのモハベ砂漠にポツリと建つ、さびれたモーテル。
 部屋の中には、この部屋の住人のメイ(寺島しのぶ)、
 彼女にはるばる会いに来たエディ(香川照之)、そして老人(大谷亮介)。
 かつて深く愛し合っていたエディとメイ。しかし、それは過去のもの。
 再びメイを求めようとするエディ。しかしそれを激しく拒むメイ。
 二人がもみ合っているところへ、メイが誰かに襲われていると勘違いした
 ボーイフレンドのマーティン(甲本雅裕)が飛び込んできて、エディを羽交い絞めにする。
 メイが襲われていたわけではないと分かったマーティンはエディを放し、一緒に酒を飲み始めるが、
 エディはマーティンに、「本当は俺たちは母親違いの兄妹だ」という話を始める。
 自分たちは恋に落ちたあとに、その事実を知ったが、二人とも求め合ってしまうのだと・・・。
 エディは二人の生い立ちと自分たちの母親たち、そして父親について語り始める・・・。

 二人のやりとりを始終傍観者のごとく聞いている一人の老人。この老人の存在は・・・。
 ≪ここまで≫

 どす黒く汚れた壁に囲まれた、ありきたりのモーテルの一室。舞台中央にスプリングが露出したベッドと、上手にちゃちいテーブルとイスが数脚あります。ふたつの窓には黒いブラインド・カーテンがかかっていていて、窓自体が赤と青に塗られているのがかっこ良いです。

 「出て行って!」と言ってエディを追い出したかと思ったら、すぐに「待って!」と叫んで追いかけるメイ。何度出て行ってもまた戻ってきて、メイを優しく愛撫するかと思ったら今度は激しくののしるエディ。矛盾した二人の対話はスリリングです。彼らがなぜそんな関係を続けているのかは、終盤になって明らかになります。

 アメリカの“ニューメキシコのモハベ砂漠にポツリと建つ、さびれたモーテル”が舞台なんですが、その空気が薄い気がしました。私は10年ぐらい前にシアトルからカリフォルニアを車で旅行したことがあるんですが、途中でモーテルに泊まりながらハイウェイを走り続けるのって、アメリカ大陸独特の感覚があると思うんです。
 舞台になった部屋は、プールバー(ビリヤード台)があるさびれたレストランと、小さくて古いガソリンスタンド(Chevron)が併設されているような、砂漠地帯のモーテルでしょう。乾燥した砂交じりの空気とか、家がなくモーテルを転々としている先の見えない生活への絶望感とか、現代社会の地の果ての世界をもっとリアルに肌で感じたかったです。

 寺島しのぶさんは本当にきれい。香山昭之さんは細かく計算した演技を確実に積み上げていらっしゃるように見えました。お二人とも見ていて退屈しませんでした。
 老人役の大谷亮介さんは貫禄がすごかった。でももっと怖くてもいいのになと思いました。
 メイのボーイフレンド・マーティン役の甲本雅裕さんの作り上げたキュートなキャラクターが魅力的でした。ずっと注目しちゃいました。

 ここからネタバレします。

 三人の様子を酒を飲みながらじっと見ている老人は、メイとエディの父親でした。腹違いの兄妹だとは知らずに熱い恋に落ちてしまった二人は、自分達の血が繋がっていることを知って苦しみながらも、離れることが出来ないのです。

 エディは突然ふらりと出て行ってしまう父親の血を引いているし、メイは恋人をしつこく追いかける母親の性格を引き継いでいます。人間は血からは決して逃れられないってことばかりが前面に出ていたように感じて、ちょっと物足りなかったですね。深い絶望や嫉妬に苦しむ気持ちがもっと重く、ぐさりと刺さるぐらいに伝わってきて欲しいと思いました。これもまた舞台の空気の厚みに拠ると思いますが。

 子供二人には父親の姿が見えますが、マーティンには見えません。父親の幻がその場にいるという設定なんですね。演劇ならではの演出の面白みがありました。
 でもドアが閉まる時にありえないほどの大音量で「バタン!」と鳴る以外には、照明や音響などの演出は大人しい目でしたね。2~3人だけの会話劇なので、もうちょっと大胆なアイデア等があってもいいんじゃないかと思いました。
 “伯爵夫人”がぶっぱなした鉄砲でドアに穴が開くのは大迫力!あれ、どんな仕掛けなのかしら!?

≪東京、大阪≫
出演=香川照之/寺島しのぶ/甲本雅裕/大谷亮介
作:サム・シェパード 演出:行定勲 訳:伊藤美代子 美術:二村周作 衣裳:前田文子 照明:佐藤啓 音響:長野朋美 演出助手:長町多寿子 舞台監督:小林清隆 宣伝:TSP プロデューサー:毛利美咲 製作:山崎浩一 企画・製作:(株)パルコ
一般発売日 2006年12月3日(日) 7,500円 学生券(当日指定席引換)=4000円※プレビュー公演2月4日(日) &2月5日(月) 5,000円 未就学児の入場不可
公式=http://www.parco-play.com/web/page/information/fool/

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Posted by shinobu at 2007年02月16日 17:58 | TrackBack (0)