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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年05月15日

文学座『ぬけがら』05/08-17紀伊國屋サザンシアター

 第50回岸田國士戯曲賞受賞作品の再演です。脚本はB級遊撃隊の佃典彦さん。演出の松本祐子さんが初演で第8回千田是也賞を受賞されています。私は初演を見逃し、横浜未来演劇人シアター版が『ぬけがら』初見でした。

 面白かった~・・・微笑みながら涙しました。伝統ある劇団だからこそ実現したキャスティングですよね。これからも財産演目として再演を重ねて行って欲しいです。自分が年取ってからまた観たい!上演時間は約2時間15分。

 ⇒CoRich舞台芸術!文学座『ぬけがら』
 レビューをアップしました(2007/05/15)。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 夏、県営住宅の一室。昨日母親の葬儀を済ませ、今日は妻(山本郁子)に離婚届を突きつけられ捺印を迫られている男、鈴木卓也(若松泰弘)。41歳の元郵便局員。彼は、学生時代の友人(奥山美代子)との浮気がばれ、車で人身事故を起こし、職場もクビになる始末。心臓の悪かった母親(添田園子)は、度重なる心労であえなく他界。そして、残されたのは、84歳になる認知症(痴呆症)の父親(飯沼慧)ただ一人。男は失禁した父親をトイレに連れて行ったが・・・その後気が付くといつの間にか深夜。父親を探してトイレで見たものは、なんと父親の〈ぬけがら〉。そして脱皮したらしい父親(鵜澤秀行)は20歳若返り、元気そのもの。その後も、まるでセミのように脱皮を毎日繰り返し、父親はドンドン若返ってゆく。男は、若返る父親に戸惑いを感じるしかなかったが、若返るとともに知れる父親の過去を現前にして、今まで置き去りにしてきた父親との絆を今あらためて感じるのであった。
 ≪ここまで≫

 わざとらしい口調が気になってオープニングは少々引き気味になったのですが、年配の男優さんの身体を見ている内にどんどん愛情が湧いてきて、中盤からは「もう、大好き!」って思いながら、このお芝居とともに昭和を旅しました。
 父親の人生をさかのぼっていくので、おのずと平成から昭和を辿っていくことになります。過ぎた時代を生きていた人々が現代を生きる私たちの目の前に現れ、それぞれの視点から言葉を発してくれるので、過去が等身大の事実として自分に近づいてくれるんですよね。もちろん父親に出会いながら息子は自分自身を知っていくことにもなります。なんて見事な脚本!

 横浜未来演劇人シアター版はじめじめとした質感に圧倒的なリアリティがあり、ぞくぞくしながらその空間を味わいました。文学座版では夫婦について、老いることについて、人生についてなど、大きなテーマを俯瞰した状態で考える貴重な時間になりました。例えば「光陰矢の如し」をたった1シーンで表現してくださったように思います。

 ストーリーをわかりやすくするヒントがいっぱいある演出で、さすが文学座だなと思いました。天井近くの梁(はり)に「5日目」などの文字を映写したり、カレンダーを使ったり。いろんな仕掛けがあったのも楽しかった~。
 それにしても会場は笑いがいっぱいだったな~♪色んな世代の観客が同じ空間でそれぞれに楽しんでいました。演劇と劇場の力を感じられたのが嬉しかったです。

 ここからネタバレします。

 終戦直後のクソ真面目なオヤジ(柳橋朋典)と遊び人になりはじめた頃のオヤジ(佐藤淳)、そしてすっかり遊び人になったオヤジ(高橋克明)という変遷は昭和の戦後から高度成長期を映しています。「人間は変わるよね」って、素直に思いました。

 一番好きだったのは黄色い照明のもと、みんなでハワイアン・ダンスを踊るところ。CoRichのクチコミにも書きましたが、ハワイアンソングの歌詞って素晴らしいですね。"The enchanting time with you makes me love you" だったかな(単語や文法を間違ってたらすみません)。
 ボケて死んだ父ちゃんも、心筋梗塞でポックリ死んだ母ちゃんも、浮気発覚で妻に離婚をつきつけられ、酒気帯び(チョコレート・ボンボン3粒だけど)運転で交通事故を起こして郵便局をクビになった男も、不妊症の女もシングルマザーも、みんなニコニコ笑いながら愛のダンスを踊ります。どんな不幸な人生も、死んでから眺めたらこんな風なのかもしれない。たった一瞬のきらめきなのかもしれない。

 若いお母さんと沢山のお父さんと、そして息子が一緒に冷麦を食べるシーンでは、思いっきり微笑みながら家族について考えさせられました。偶然たまたま出会って、なぜか何十年も一緒に生きてきてしまったなら、それを愛すればいい。

 妻(山本郁子)「墜落じゃない。着陸よ。」
 私もガンバロっ!

≪東京、尼崎、藤沢≫
第50回岸田國士戯曲賞受賞作品
出演=飯沼慧、鵜澤秀行、関輝雄、高橋克明、若松泰弘、佐藤淳、山本郁子、奥山美代子、添田園子
脚本=佃典彦 演出=松本祐子 装置:石井強司 照明:金英秀 音響効果:藤田赤目 衣裳:出川淳子 舞台監督:三上博 演出補:上村聡史 制作:伊藤正道 票券:松田みず穂
一般5,500円 ユース3,800円 中・高校生2,500円 ※ユース(25歳以下)、中・高校生は劇団扱いのみ
http://www.bungakuza.com/nukegara07/index.html

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Posted by shinobu at 2007年05月15日 01:00 | TrackBack (0)