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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年06月24日

青年座『悔しい女』06/16-24紀伊國屋ホール

 2001年に高畑淳子さん主演で上演された、土田英生さん脚本、宮田慶子さん演出作品の再演です。主役の那須佐代子さんほか、キャストは一新されています。

 千秋楽に滑り込みました。初演も面白かったですが、今回の方が「悔しい」意味がよくわかって面白かったです。上演時間は約2時間20分(10分の休憩を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『悔しい女

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 日本のどこか…のどかな田舎
 あるのは動物園を持つエネルギー研究所(通称エネ研)と
 「おやじゼミ」が棲息するという森 そんな地方の町の喫茶店
 近所に住む絵本作家高田悟はその店に足繁く通う一人
 そんな彼のもとへ、美人で明るい笠原優子が嫁いでくる
 「お互いこれで最後にしよう」
 高田二度目、優子四度目の結婚生活が始まる
 誰にもある普通の生活
 夫と妻、店に集う顔見知りの人たちとの他愛の無いおしゃべり、昔ばなしに噂ばなし
 しかしそこに見え隠れする虚実のないまぜの会話に、反応し、突き詰めていく優子
 不倫の匂い、エネ研、「おやじゼミ」……
 ちょっとした言葉の食い違いに、高田と優子の間に小波がたつ
 やがてそれは喫茶店に集う人たちをも巻き込んで波紋を拡げていく
 ≪ここまで≫ 

 笑いがいっぱい生まれて、ほがらかなムードの客席でした。
 土田さんのブログにもありますが、まさに「アンサンブルを大事に」された演出だったと思います。特に高田(小林正寛)と優子(那須佐代子)は、役柄の人物として舞台の上でコミュニケーションを取ろうとしていました。だから「ヘンな」セリフを「ヘンだ」とわかって言うような、ネタを披露しあうような演技をするのではなく、その人物が心からそう思って言葉を発している状態を作っていました。これが素晴らしかったと思います。

 場面転換の時に流れる音楽が合ってないような気がしました。スピーカーや座席の位置で聞こえ方も違ったのかも知れませが、上から降って来る雰囲気良さげな曲は、舞台でちゃんと心を通じ合わせて自然な演技をしている人たちとは、全く別の世界で鳴っている音のように聞こえました。

 ここからネタバレします。

 「優子(那須佐代子)は、まさに私自身だよっ」と何度か感じました。だから胸が痛かった・・・(汗)。どうして浮気の心配をするのか、なぜそれを夫本人に確かめようとするのか・・・それはまず、自信の無さが発端になっているのだと思います。自信がない人間は誰かに認められたい、好かれたいという気持ちが強く、何かにつけ滅私奉公してしまうことが多いんですよね。この“滅私”というのが、悪循環の最初のマイナスの一歩のような気がします。
 「こんなに尽くしてるんだから、好かれて当然だ」と思っていたのに、実はそれほど役に立っていなかったとわかると、必要以上にがっかりしてしまいます。そのがっかりが失望、絶望、そして嫉妬、うらみなどに進化してしまうからやっかいなのです。次には八つ当たりが始まります。

 高田が書いた『寂しいライオン』という絵本にも出てきましたが(あらすじ:森でレストランを開店したライオンは、他の動物達に怖がられないようにキバを抜いたり、爪をはがしたりした。そして自分が何者なのかわからなくなった。)、優子も自分に自信がないから他人に好かれたいという思いが強すぎるんですね。だから誰かのために身を粉にして尽くします(例:町が有名になるように幻のセミを発見しようとする)。それが認められなかったり感謝されなかったりすると、ショックを受けるんですよね。そして自暴自棄な行動に出てしまいます。本人はあくまでも「あなたのために」「みんなのために」と思っているから、ずっとすれ違ってしまいます。

 優子が2回ほど「悔しい、悔しいぃ~」と本気で悔しがるシーンがありました。その気持ちがよくわかりました。いつも誰かに求められたいと思っているから、ほんのささいな社交辞令も真に受けて、それを実行し続けてしまうんです(例:毎日パンダのぬいぐるみを幼稚園の先生に見せに行った)。本人にとっては「あなたが言ったとおりに、私は行動しただけなのに、なぜ嫌われるの?悔しい!」と、なります。初演ではなぜ「悔しい女」なのかがわからなかったんですよね。今回はすっきりしました。

 幻のセミは発見されるし、互いにモーションかけあってた男女は不倫に走るし、高田は東京の出版社で本を出せるようになるし、実はすべてが優子の言ったとおりになるという、皮肉な結末が用意されていました。さすがは土田さんだな~と思いました。

青年座第189回公演
出演=那須佐代子/小林正寛/五十嵐明/若林久弥/遠藤好/片岡富枝/森脇由紀/田中耕二/川上英四郎
作=土田英生 演出=宮田慶子 装置=島次郎 照明=中川隆一 音響=高橋巖 衣裳=加納豊美 舞台監督=安藤太一 製作=森正敏
【発売日】2007/04/24[全席指定] 一般5,000円 ゴールデンシート(65歳以上)4,000円 ユニバシート(大学・各種学校生)3,500円 チェリーシート(高校生以下)2,500円  ※一般以外は劇団扱いのみ
http://www.seinenza.com/performance/public/189.html

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Posted by shinobu at 2007年06月24日 21:44 | TrackBack (0)