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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年08月11日

青年団リンク・東京デスロック『unlock#2:ソラリス』08/10-14こまばアゴラ劇場

 多田淳之介さんが作・演出(時には出演も)される東京デスロック。unlockシリーズの第2弾です(⇒第1弾レビュー)。脚本全文が掲載されたチラシが話題になっています。

 『ソラリス』はとても有名な作品です(⇒小説『ソラリスの陽のもとに』、⇒映画「惑星ソラリス」 ⇒映画「ソラリス」)。タルコフスキー版の映画をいつか観ようと思って結局観ていなかったので、チラシの脚本を読んでから伺いました。

 びっくりさせられましたね・・・いつものことながら(笑)。前知識はあった方が絶対に良いです。チラシをお持ちの方はぜひ読んでから劇場へ!

 ★2日目から、開演前にあらすじの説明をされているそうです!前知識なしでもOKかも?!(★は2007/08/12加筆)

 上演時間は約1時間40分。私は最前列に座ったんですが、たぶん3列目以降がお薦め。空調が控えめな状態なので、暑いのが苦手な人ほど前の方に座られると良いと思います(後方上部の席が暑かったみたい)。

 役者さんが皆さん素晴らしかったです。男性はかっこ良くて、女性は美しかった。

 ⇒CoRich舞台芸術!『unlock#2:ソラリス
 レビューをネタバレ感想以前までアップしました(2007/08/13)。
 最後までアップしました(2007/08/15)。★舞台写真追加!

 まず、舞台は黒い緞帳で隠された状態。上下にあるパネルに『ソラリス』のあらすじ解説する文字映像が流れます。

 そして幕が開くと・・・!

 役者さんが発する言葉は普通の日本語(現代口語)ですが、暴力的に投げやりだったり、脈絡なく何かを面白がったり、空虚な心でヘンに盛り上がったり、語られる言葉から予想される感情や状況からは導き出せないような演技をします。言葉に対して反応はちゃんとするので、会話は起こっているのですが、全員が常に何か別のことにとらわれたままでいるように見えて、“対話”という意味では成り立っていません。でも、そのまま会話は続きます。
 目の前に現れるのは、一部を除いて疲労困憊した人々。未来および今に絶望している様子です。少~しずつ『ソラリス』の中の誰が話をしているのかがわかってきます。

 ≪あらすじ≫ チラシより引用。story from:スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』
 ケルビンは研究のため惑星ソラリスへやって来ました。すると死んだはずの妻ハリーが現れました。驚いたケルビンはハリーをロケットに押し込み宇宙に放ちました。先にソラリスに来ていたスナウト、サルトリウスによると、ここでは頭の片隅にある現実にはなってほしくない事が、人間の形で何度も現れるとの事です。研究者達は、目の前の、海が作った「者」について悩み、その無意味さ、自分たちの無力さについて悩みます。ケルビンとハリーの不毛とも思える愛の生活が続き、研究者達は、その「者」を消すために研究を進めます。研究者達と、その「者」達の運命やいかに。
 ≪ここまで≫

 不思議な感覚でした。誰も何も話さない時間や、コミュニケーションが成り立っていない、意味不明の(に近い)会話が続くので、退屈してくるんじゃないかと少し探り気味に観ていたのですが、一向に退屈する気配なし(笑)。予想外のことが起こるというのがその原因であることは明らかですが、それ以外にも色んな要素がありました(ネタバレしますのでここでは控えます)。

 最初から平行線だとわかって話したり、すれ違ったままの状態で放置したり、通じ合えないコミュニケーションが延々と続きます。その中で一瞬だけ、どうしても対峙せざるを得なくなった2人が、言葉ではぎこちなくはぐれて行ってしまうのだけれど、互いの心の中では相手を求めていることがわかるシーンがあって、「あぁ、なんてロマンティックなんだろう・・・♪」と、じんわりと胸が温かくなりました。平たく、ずーーーーっと広がっていく容赦ない絶望の中で、生まれた瞬間に死ぬことが運命付けられている、愛を見つけることができました。

 役者さんは皆さん素晴らしいと思います。「演技」という言葉自体が「嘘」であることを表していますから、役者さんがやってることは当然ながら全て嘘なんですよね。それを了解した上で、そこでありのままに生きているように見えます。でも同時に、周到な技術で嘘をついてくれているようにも見えるんですよね。両立しています。いったい、これは、何なんだろう。

 何が嘘で、何が本当なのか。私は、何を本当だと思うのだろうか。それは私にしかわからないことだし、自分で感じた時にしか気づくことができないんでしょうね。だから、自分ひとりで決めるしかない。それぐらい「本当(真実)」は不確かなものなんだと思います。
 
 ここからネタバレします。アップしました(2007/08/15)。写真は主催者よりいただきました。

 舞台には水が張られていました。中央には8角形の島が浮いています。登場人物は舞台上手に空いた穴から出入りします。穴から島までは、細い板が橋のように掛けられているのみ。水はソラリスの「海」を表しており、照明で青、赤、緑などに変化します。浮かんでいるのはウルトラマンの人形や地球儀、いるか(サメ?)の形のビーチボールなど。

soralis1.jpg
青年団リンク・東京デスロック『unlock#2:ソラリス』
   役者さんは自由に水の中に入ったり、水を掛け合ったりしますので、足はひたひた、服の裾はポタポタと、つねに身体は動く水とともにあります。当然のことながら水は演技をしませんから、予想不可能な動きがあるんですよね。役者さんが美しく、セクシーに映ったのはそのせいも大きいと思います。

 また、本番の舞台に近い状態(水を入れた状態)でお稽古をされてきたことが、この作品の成功の要因であることは間違いありません。1度だけアトリエ春風舎でのお稽古にお邪魔させて頂きました。ものっすごい湿気で不快指数100%以上じゃなかろうかと思うような地下室で(苦笑)、1つのシーンを何度も何度も、ずぶぬれになりながら繰り返されていました。生半可な気持ちでは舞台は作られないんだなと、芸術って凄いよねと、今更ながら思い知らされました。ほんと、役者辞めてよかったワ!(笑) 私の名前は「しのぶ」だけど、あんなに忍耐強くはないですぅ。

20070806_soralis_keikoba.JPG
プールで稽古@アトリエ春風舎

 自殺したはずの元恋人・ハリー(石橋亜希子)が何度も生き返ってきて、ケルビン(夏目慎也)は戸惑いますが、徐々にニセモノのハリーの愛に応えたい気持ちになってきます。でもハリーの方は、自分が人間ではないことに気づいてくるんですよね。2人は近づけば近づくほど、お互いが結ばれない運命にあることを知っていきます。これが切ない。
 イスと机をすべて「海」の中に放り込んで、何もなくなった島の上に大の字になって寝転び、ふざけるハリー。彼女が消えた後にケルビンも同じように大の字になったシーンで、「あぁ、ケルビンはあの(ニセモノの)ハリーを愛してしまったんだ」とわかりました。サルトリウスが自殺した後にハリーがまた戻ってくると、ケルビンはハリーを連れて一緒に退場します。2人は心中するんだろうなと思いました。

 スナウト(大竹直)だけが最後に残ります。彼は「海」の産物だったんですね。彼のところには「海」の作ったニセモノが1度しか現れなかったという発言がヒントになっています(他にも明らかな証拠になる出来事があるのですが、今作では演出で曖昧になっていました)。スナウト本人にそっくりのニセモノ(大竹直)が出てきて、ニセモノが本人を殺したか、本人が自殺してしまったのかしら・・・。

 サルトリウス(永井秀樹)の子供の頃の気持ちが、彼の父親(役名:レム)の形で現れます。でもそれを演じるのが女優さん(佐山和泉)なのが面白いですね。佐山さんが大胆に水に飛び込んで、むせながらセリフを言うのが面白かったな~。ハプニングなのか予定通りの行動なのかはわかりませんが、どちらにしろ「むせる」のは演技ではなく身体の反応そのものなので、ライブなのです。

 最も対峙したくないものが現れるからか、登場人物たちは自分の本当の気持ちをそのまま顔や動きには表しません。突然叫んだり、笑ったり、奇妙な語り口になったり、目を合わせなかったり、言葉の意味からかけはなれた行動をしたり・・・。でも、思いつきで(アドリブで)やってるわけではないことはわかります。どういうさじ加減なのかな~・・・。空気の密度が濃かったです。

 ステージを取り囲む「海」に誰もが入るので、全員が「ニセモノ」かもしれないんですよね。そう思わせる演出が面白いです。自分が本物かどうかなんて、誰にもわからないのかも。

 ≪8/10金 ポスト・パフォーマンス・トーク≫ 記憶に残った言葉を書いておきます。2007/08/16加筆。
 出演:多田淳之介・堤広志

 堤「演劇はここから5年が勝負かなと思う。過去5年で色んなジャンルが増えてきたし、制度も改善されてきた。公共ホールが増えたり、レパートリー・システムやレジデンシャル・アーティストが生まれたり。でも、内野儀さんがおっしゃっているように“演劇はなるようにしかならない”のかもしれない。誰も全体を見渡していないから。現場に携わる人が、モチベーションの高い人が、それぞれがベストと思うことをがんばってやるしかない。」

 堤「公共事業が増えることは諸刃の刃。まともに批評が出来ない。事業を酷評すると、次の年から“そんなにダメならやめよう”となってしまうかもしれないから。」

 堤「“静かな演劇”以降、リアリズム劇とも言えるような新しいジャンルが生まれた。例えばポツドールやサンプルのような、暗部をさらけだすような演劇。カタルシスがないし、ハッピーエンドでもない。でも、ある一定の共感を呼んでいる。」

 堤「(多田くんがやっているのは)原作のエッセンスを違うところから引き出していく手法。演劇を手立てとして人間を考える、というような。ルネ・ポレシュ(ドイツ人演出家。⇒過去レビュー)に似ていると思う。まっとうなモラルが働いていたらやらないことだから(笑)、それを(多田くんが)やっちゃうことに期待しています。そうすればつまらない演劇も面白くなる。」

 多田「演劇は、俳優がいて、役を演じるもの。」
 多田「疲れた感じを出したかった。(たとえば)腕立て伏せをいっぱいして、疲れれば、そこにストーリーが生まれる。」
 多田「ネガティブなもの(今作では疲れた身体)を描くことで、そこからポジティブなものが生まれる」

 多田「動物電気は観客に情報を与える演劇。青年団の(今、自分がやっている)ようなものは、観客が情報を獲得する演劇。」


 ≪8/12日ポスト・パフォーマンス・トーク≫ 記憶に残った言葉を書いておきます。
 出演:多田淳之介・生田萬

 多田「身体の状態がどうあるかに興味がある。どういう身体で(言葉を)発するか。今回は俳優に『絶望的な身体でいてほしい』『できるだけ疲れた身体で居て』と伝えました。」

 生田「キラリ☆ふじみを、演出家が好きなように実験できる場にしたい。」
 生田「“人間はこんな風に変わるんだぜ”と見せるのが演劇。あるシチュエーションで、人間の可変性と出会う事件。それが演劇だと思う。」

 生田「小劇場が増えて貸し小屋経営を始め、60年代の小劇場運動から「運動」の文字がなくなっていた。こまばアゴラ劇場を拠点に活動することで「小劇場」に「運動」の文字を復活させたのが、平田オリザさんだと思う。運動のルネッサンス。」
 多田「アゴラは日本の中のフランスみたいな場所。」

 多田「現代口語演劇をやることで、俳優のコミュニケーション能力がものすごく上がっている。」

夏のサミット2007参加作品
出演:夏目慎也、佐山和泉、石橋亜希子、大竹直、永井秀樹(増田理は体調不良のため降板。代役に永井秀樹)
作・演出:多田淳之介 舞台美術:鈴木健介 照明:岩城保
8/10金 19:30の回終演後ゲスト 堤広志氏 (編集者、演劇・舞踊ジャーナリスト)
8/12日 19:00の回終演後ゲスト 生田萬氏 (キラリ☆ふじみ芸術監督)
【発売日】2007/07/01 予約2000円 当日2500円(日時指定・整理番号付自由席)
http://www.specters.net/deathlock

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Posted by shinobu at 2007年08月11日 09:44 | TrackBack (0)