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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2007年09月02日

劇団ひろぽん企画公演『SWEET REVENGE and around the world』08/30-09/01早稲田大学学生会館B203

 劇団ひろぽんは吉田武寛さんが作・演出される早稲田大学の学生劇団です。CoRich舞台芸術!を活発に利用する宣伝活動には目を見張るものがあります。

 上演時間は約1時間強。前売300円・当日500円というのは、学生劇団ならではのチケット価格帯よりもかなり安い目のようです。今年の2月に学生会館で上演されたタカハ劇団『モロトフカクテル』は前売り1200円で、3年前ですがコマツ企画『戦いの今日』は前売り1,000円でした。

 ⇒CoRich舞台芸術!『SWEET REVENGE and around the world
 ⇒T★1演劇グランプリ・第一次審査通過団体です。
 レビューをアップしました。

 私は学生が学校内で上演するお芝居はなるべく観に行かないようにしています(よっぽど好評な場合を除く)。学生演劇はサークル活動の1つである場合も多く、その劇団・劇団員が卒業後も演劇に携わっていくかどうかは未知数ですし、また、創作・発表の環境にかなり恵まれており(例:劇場使用料が無料など)、一般の公演と比較しづらいからです。学内で評判だった団体は、社会に出て劇場を借りた自主公演の時に伺うようにしています。

 今作は学生劇団が学生会館で上演する前売300円の企画公演(本公演ではない)で、新入り劇団員のお披露目の回でもあったようです。だから劇団ひろぽんの実力が発揮できていないかもしれません。でも「T★1演劇グランプリ」に応募され、一次審査を通過されていますから、審査対象作品として拝見しました。レビューもその視点から書かせていただきます。

 ≪あらすじ≫
 大学生の孝一は、高校時代に友人が起こした殺人事件を止めたいと思い、2007年から2003年へとタイムスリップする。
 ≪ここまで≫

 残念ながら整合性ゼロのタイムマシンものでした。セリフはありきたりなフレーズと説明のためのわざとらしい言葉の連続。2007年現在を生きる現役大学生を主人公にした物語なのに、「こういう人、いるよね」と思える人物も、「こういうこと、あるよね」と思えるエピソードも皆無でした。
 歩くでもなく踊るでもない、歌謡曲の振付のようなダンスがあり、人物が登場するタイミングにも理由にも説得力がありません。ムービング照明の使い方もステレオタイプ。

 役者さんの演技は正視できるレベルではありませんでした。役者さんには「舞台ではこういう言葉をこういう風に話すものだ」という自分達の思い込みを疑って欲しいですね。自分が普段どんな話し方をしているのかを、冷静に見つめ直して欲しいです。

 殺人事件の真犯人が誰なのかがわからなくなってくる展開には面白みがありました。ただ、それもまたわざとらしい言葉で説明してしまうのがもったいなかったです。

 今の大学生にとっての携帯電話ってものの感覚が、私のと違うのはよくわかっていました。でもここまでとは・・・。まるで肌の一部ですね。危ないな~と思いました。

 ここからネタバレします。セリフは完全に正確ではありません。

 若い記者が孝一の携帯電話の番号を、知り合いの後輩(女)に勝手に教えてしまいます。「同じ悩みを持ってる奴だから話してみたら」という勝手極まりない、軽率な理由で。教えてもらった女はいきなりその番号にかけちゃって、電話に出た孝一は全く知らないその女に「今からタイムスリップします!」みたいに告白しちゃう・・・。あ、あ、ありえない・・・(汗)。

 タイムスリップしたら、いきなり高校生の自分になっていた孝一。目の前に夏休みの宿題をやっている友達が居ます。だったらその場に居た高校生の孝一は?未来の孝一に乗り移られて消滅したのでしょうか?タイムパラドックスを語る前の段階での不整合だと思います。

 孝一が「(殺人)事件が起こるまで後30分しかない!」とあせって叫んでるのに、電話の相手(未来で待っている女)はゆっくりと説教くさい話をし、それに孝一がほだされたりします。しかもその後、違う人物(記者)とも電話を代わってゆったり話までしちゃいます。言動と行動が完全に不一致。なのにそのせいでトラブルは起こりません。

 そもそも「不良にさらわれた妹を救おうとして、兄がその不良を殺してしまった」という事件をなかったことにしたいなら、兄に妹を見張るように助言するのは間違いです。「しっかり見守れよ!」とか無責任なこと言ってないで、孝一自身がべったりと妹のそばにいたら済む話ですよね。

 事件は起こらず、真犯人(妹がエスパーだった)もわかり、なぜかタイミングよく未来へと帰ることができる孝一。未来で待っている女の「過去を変えたら未来も変わっちゃうわよ!それでもいいの?」という言葉に対して、「自分の未来が変わっても、今(戻った過去)を生きられればいい!」と、かっこ良さげに酔いしれながら言い放った孝一でしたが、未来に帰ってからのエピソードがありませんでした・・・。「未来に帰るよ~」で終幕・・・。大風呂敷ひろげておいて、そのまま放置しています。

 タイムマシンもの、バックステージものは、落とし穴が多いのでリスクが高いです。慎重に創作してもらいたいですね。

出演:大竹絵梨、矢花勇治、スズキヨウヘイ、茶木嵩文、鈴木大歩、藤野将文、松井聡弥、鳥枝明弘、堀口法尚、三輪友実
脚本・演出:吉田武寛  照明:石井紀之(Hikari Honpo) / 照明操作:高橋かおり(Hikari Honpo) / 音響:田中亮大(H2Sound) 美術:原真理子 G(ボイヤーチーム) / 舞台監督:G(ボイヤーチーム) / 小道具 高橋美紀 原真理子 / 衣装:Kashico(劇団TipTap) ダンス振付:茶木嵩文 / 宣伝美術:(仮)原真理子 (本)横内翼がみなぎる / 看板製作:原真理子 高橋美紀 Web:吉田武寛 / 当日制作:伊藤静(こども機関) 遠藤友香理/ 制作 大竹絵梨 / 制作助手 鈴木大歩 製作:劇団ひろぽん
【発売日】2007/08/01 前売300円、当日500円
http://hiropone.fc2web.com/

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Posted by shinobu at 2007年09月02日 03:14 | TrackBack (0)