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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年10月02日

青年団リンク・東京デスロック『演劇LOVE~愛の三本立て~』09/30-10/09リトルモア地下

 多田淳之介さんが作・演出される青年団リンク・東京デスロックの旧新作3本ランダム上演です。原宿駅から徒歩5分の地下のきれいなギャラリーで、約1時間の短編が3本。私は初日に3本立てで拝見しました。面白かった~♪

 「社会」「3人いる!」「LOVE(新作)」の順番で観ると、劇団の変遷がよくわかります。たった2年の間にこれだけ作風が変わるって凄いですね。人間は変わる!演劇も変わる!

 3本の中だと私は「3人いる!」が一番面白かったです。初演も観ていますが、多田さんの役を岩井秀人さん(ハイバイ)がやってるだけで、全然違う作品になっていたように思います。

 ⇒CoRich舞台芸術!『演劇LOVE
 ⇒10/10(水)追加公演決定!全て作品解説付き。10/6(土)と10/7(日)も作品解説するそうです(2007/10/05加筆)。

 レビューをアップしました(2007/10/05)。

 1日に3本観られる企画。しかも3作品とも客席の場所が変わっていて、小さなギャラリーの3種類の表情を見せてくれます。

 初日の観客の感想をもとに翌日から改善を加えたそうです。演劇は動いている。人間は刻々と変化し続けている。こういうのが嬉しいと私は思います。常にプロセスなんですよね。
 空調についてものすごく気を使われていました。これも前回公演からの改善点です。素晴らしい。心遣いだけで満足でした。

 ここからネタバレします。

■「社会」
 いわゆる静かな現代口語演劇でした。企業のお昼休み。派遣とかバイトとか上司とか部下とか。裏で悪口三昧。あの人に話したことが、この人にバレるのはまずいとか。つまんないことで政治しまくってる平凡な雇われ人たち。
 んー、初日だったからでもあると思いますが、完成度は高くなかったように感じました。静かな演劇は質の高いものがいっぱいありますからね。

 夏目さんの社員証がポロリと床に落ちるアクシデントが効果的で、後から(トークで)アドリブの演技だと知って感心しました。

【作品解説】多田さんと夏目さんが桑田Tシャツを着て登場。
 多田「自分で3本演出するのは大変で、これは愛さなきゃやってられないと思った。だから今回のタイトルに。(恥ずかしくなるような直接的な言葉だけど)僕1人ぐらい、こういうことを言ってもいいんじゃないかと思った。また、『演劇LOVE』っていう記号を作ることも、そのチラシが撒かれることも演劇にとって良いことではないかと思った。」

 そしてリトルモア地下の素晴らしさを強調。
 多田「リトルモア地下のプロデューサーさんの『ここでやるものを面白いものにしよう』という愛情、気概を感じた。自分達のアトリエ(春風舎)も大切で、愛も持ってる。場所を愛している人のところでやりたい。」

 観客「とてもリアルな演技だけれど、携帯電話で話すシーンについては携帯の向こうの相手はしゃべっていなかったようだ。それについてはどうお考えですか?」
 多田「役者は演技をするので、ハンバーグのことを考えていてくれてもいい。ニセモノを使って本物を作る(と考えているので問題はない)。」

■「3人いる!」
 登場人物は6人なのに3人で演じます。しかもグルグルと演じる人間が変わります。演出の可能性としては「12人いる!」そうです。
 それにしても爆笑の連続だったな~(笑)。エンディングは初演とは違って舞台に声がひびきませんでした。舞台に人がいなくても「3人いる!」ってことはわかって、ニヤリとしたくなるラストシーンでした。

 もう1人の自分を面と向き合ってしまった瞬間の、岩井さんのリアクションが最高に可笑しかった。そうそう、どきどきするよね、心細いよね、で、開き直ろうとするよね・・・と、一瞬一瞬の演技(表情と震え)で、心の変化がつぶさに見て取れるのがスリリングで面白いです。

【作品解説】多田さんと岩井さんが桑田Tシャツを着て登場。
 岩井さんは本当に気が弱い、優しい方のようで、観客へのサービス精神がすごい。岩井さんのトークが大好きです。

■「LOVE」
 女の子たちが無言でコミュニケーション。あなたが好き・きらい・嬉しい・寂しいなどなど、動作としては立つか座るかだけで、集団の感情の流れがわかります。ワークショップでよく見るものだったので、私にとっては物足りなさもあり。でも、人間の営みってこういうことだけだよねってあらためて実感もできます。

 音楽が流れて踊るのが繰り返されるので『再生』をどうしても思い出してしまい、ちょっと不安にも(笑)。でも展開は違いました。仲良し女の子グループの間で徐々に殴り合いが始まってしまい、殺伐としたムードに。そこに男(夏目慎也)が現れて、空気が変わります。異物の出現で突然に今までとは全く違うものへと変身してしまった空間を目撃し、人間の柔軟性、世界の包容力を感じました。

 観客に背を向けて舞台面にひとり佇む男。彼に向かって女達が話しかけます。最初は「そうですね」「そうですね」とむやみに合意。次には「~~は好きですか?」などと暴力的ともいえるほど質問を繰り返すようになります。観客に対して語りかけているように感じました。
 まずは何でも共感することから始まって、次の段階では質問をするようになる。人間同士の手探りのコミュニケーションが段階を経ていくようでした。もう、意味も気持ちも曖昧になるほどの、ただの声と音だったけど、舞台上の「私」から客席の「私」へのベクトルを感じて、嬉しくなりました。ビートルズの「LOVE is asking to be loved~♪」という歌詞を聴いてうなづく私。

 男も女と一緒に座ったりできるまで心が通じ合ってきたところで、女が1人ずつベランダから梯子をのぼって外に出て行ってしまいます。一番最後に彼女達を追いかけて、男も外に出て行って、終幕。
 人間やっぱりバラバラ。通じ合ったと思っても次の瞬間には離れています。でも、「あなた」に向かって近づこうとする気持ちが一瞬でもあって、それが体から出ればそれが愛だろうと私は思っているので、男が歩いて女について行ったことは希望のように感じました。

【作品解説】多田さんが「ドエス」Tシャツを着て登場。横には佐山さん。
 多田「(人は)愛せるんだけど、愛せないものもある、ということです。」「どう受け取ってもらってもかまわない(どうとでも受け取れると思う)。」
 あらためてリトルモア地下の素晴らしさを強調。

「社会」「3人いる!」「LOVE(新作)」3本ランダム上演
出演=「社会」:夏目慎也 永井若葉(ハイバイ) 海津忠 佐山和泉 ギリコツカサ(野獣会JAPAN) 多田淳之介 /「3人いる!」:岩井秀人(ハイバイ) 夏目慎也 佐山和泉/「LOVE」:佐山和泉 坂本絢 白神ももこ(モモンガ・コンプレックス) 髙橋智子 石橋亜希子 宮嶋美子(風琴工房) 夏目慎也
演出・脚本=多田淳之介 宣伝美術=宇野モンド 制作=東京死錠 リトルモア地下 総合プロデューサー=平田オリザ 主催=青年団 (有)アゴラ企画・アゴラ劇場 リトルモア地下
[日時指定 整理番号付自由席]各演目 予約2000円 当日2500円 3演目共通券5000円(各演目1回づつ観れます・電話予約のみ)ワークショップ1500円★愛の演劇ワークショップ開催!【10月3日[水]15:00~定員20名】
http://www.specters.net/deathlock/

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Posted by shinobu at 2007年10月02日 18:29 | TrackBack (0)