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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年12月12日

M&O playsプロデュース『音楽劇「死ぬまでの短い時間」』12/04-30ベニサン・ピット

 岩松了さんが作・演出される音楽劇です。ミュージカルではない、音楽劇でした。上演時間は約2時間休憩なし。

 かっこよかった~!出演者が5人だけっていうのも好き。チラシのクレジットにはありませんが、振付は井手茂太さんが手がけられています(パンフレットより)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『音楽劇「死ぬまでの短い時間」

 ≪あらすじ≫
 自殺名所になっている断崖絶壁がある海沿いの小さな町。「崖っぷちまで」とタクシーを止める客はたいていが自殺志願者だ。運転手シミズ(北村一輝)はそれをわかっていながら崖へと車を走らせる。ある日、赤いドレスの女・フタバ(秋山菜津子)がシミズの車をとめた。「崖っぷちまで行ってちょうだい」と。
 ≪ここまで≫

 凸型のステージを凹型に客席がかこみます。ステージ面はタイルや煉瓦、石畳などの色んな地面の素材のコラージュ。けこみが銭湯の壁のようなタイルになっていたり。下手にはベッドルーム。上手には崖っぷち。ハッとさせられる大胆な場面転換にうっとりします。照明は全体的に暗い目で、古びた倉庫のようなベニサン・ピットの空間にぴったり。
 
 岩松さんの作品は驚かされて、笑わせられて、考えさせられて、観ている最中は頭がフル回転で大忙しになります。瞬間瞬間が貴重な宝石のよう。でも私ったらいつも、終わった時にはすっかり内容を忘れてしまっているんです(汗)。それでも、かっこ良かった瞬間の残像はパラパラと頭の中に蓄積されていて、その余韻にひたる幸せがあるから、いつも通ってしまいます。

 予想を裏切る対話に、今回もずっと引き込まれ続けました。ある1つのことについて話し始めたはずなのに、どんどんと話題の中心がずれていきます。瑣末なことばかりをことさらに取り上げて、お互いにあげ足を取り続けて、対話はずんずん予定外の方向へ。ころころ、ずるずると想像していなかった世界に連れて行かれて、もともとどこに居たのかもわからなくなります。そうやって劇の世界(なのかどうかもわからないような、どこか)に連れされられる感覚が、どうしようもなく好きなんだな~。歌詞もすべて岩松さんが書かれています。

 ここからネタバレします。

 舞台奥には生演奏をするバンドが控えています。引き戸が開いたら下手にバンド、上手には古い思い出がつまってそうなガラクタたち(カルーセルの馬など)が積み上げられていました。

 シミズ(北村一輝)とフタバ(秋山菜津子)以外にコースケ(田中圭)、ミヤマ(内田慈)、ドイ(古澤裕介)という3人が登場しますが、完全に別人格ではないようなんですよね。人間なのか幽霊なのか、人形なのかバラの花なのか。それもわからないままに溶けて重なり合って、すれ違っていくようでした。

 人間というものは、その輪郭というか、存在自体の境界線が曖昧なものだなと最近よく感じます。でも興味や愛情の対象となったもの(コト・ひと)はある瞬間に、その存在をむきになってアピールするかのごとく、鋭く尖った光のようなものになる気がします。そしてすぐにまた消えちゃうんですよね。
 岩松さんのお芝居は、その光の瞬間の集まりなんじゃないかしら。だからすり抜けていくし、つかみとれない。でもそれ自体が人間そのものであるように、確かに脳裏に記憶されるのではないかと思います。

≪東京、大阪≫
出演:北村一輝/秋山菜津子/田中圭/古澤裕介/内田慈 声の出演=清水萌
作・演出:岩松了 舞台監督=青木義博 美術=磯沼陽子 照明=沢田祐二 音楽=淡谷三治・森安信夫 演奏:トリティック・テヘダス(長屋美希恵・淡谷三治・森安信夫・小野かほり) 振付=井手茂太 音響=藤田赤目 衣裳=戸田京子 衣裳スーパーバイザー=阿部朱美 宣伝美術=坂本志保 宣伝写真=三浦憲治 宣伝ヘアメイク=大和田一美(APREA) 池上タミ子(APREA) 宣伝スタイリスト=兼田サカエ(juice) 制作=松本恵美子 制作助手=安田裕美 千田沙耶 プロデューサー=大矢亜由美 東京公演主催・製作=(株)森崎事務所 M&O plays 大阪公演製作=梅田芸術劇場 
【発売日】2007/10/07 7,500円全席指定
http://www.morisk.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。
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Posted by shinobu at 2007年12月12日 22:23 | TrackBack (0)