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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2008年02月09日

新国立劇場演劇研修所1期生修了公演『リハーサルルーム』02/08-10新国立劇場 小劇場

 新国立劇場演劇研修所(NNTドラマスタジオ)の第1期生修了公演です(⇒公演詳細)。1期生は日本初の国立の演劇学校(2005年開講)のはじめての卒業生になります。
 ⇒写真レポート ⇒試演会
 ⇒「リハーサルルーム」演出・栗山民也氏×古河耕史氏インタビュー(2008年2月12日公開)

 あまりの素晴らしさに、中盤から涙がぽろぽろ。なんてことない場面で涙があふれて止まらない・・・。私は、こんな俳優が、こんな舞台が観たかったのかもしれません。

 東京公演は完売ですが、福岡公演神奈川(川崎市)公演があります。1期生全員が揃った公演はたぶん最初で最後でしょう。どうぞお見逃しなく!上演時間は2時間弱(すみません、うろ覚えです)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『リハーサルルーム

 国立の俳優学校の噂を聞いたのは2004年3月末。2005年2月に募集告知を掲載してからは、研修生の姿を観られる機会があれば、何よりも優先して駆けつけてきました。まるで追っかけファンのように(笑)。
 だから1期生の修了公演がとうとう開幕したことを、勝手に感慨深く思っています。しかもこんな、奇跡の集合体のような作品を観せてくれるなんて・・・(嬉涙!)。

 少し前から徐々に感づいていたことですが、自分が心から観たいと思うお芝居の基準が変わる気がします。いや、既に変わっていたのですが、この作品でそれが決定的になったかもしれません。舞台で役を生きている俳優たちが、豊かに影響を与え受け止め合うことで、おのずと立ち上がってくる世界を観たいです。一瞬たりともとどまる事なく進む時間。でも一瞬一瞬がそのままで完成している時間。それは私達が生きている世界そのものです。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。
 東京近郊のベッドタウンに集まる若者たち。急きょ、市民たちで芝居を立ち上げることになったのだ。芝居の稽古が進むにつれて、一見平和に過ごす若者たちのもう一つの姿が浮かび上がってくる。やがてそれは芝居づくりにも波及し、思わぬ事態が持ち上がってくる。しかし、そのぶつかり合いや葛藤から、彼らはある手応えを見つけ出して行く・・・。
 ≪ここまで≫

 描かれるのは市民演劇ワークショップの稽古場(リハーサルルーム)の、10月から3月までの約5ヶ月間。研修生に宛て書きされた脚本は、15人の登場人物それぞれに見せ場があり、特定の誰かに偏ることなくうまくまとまっている群像劇でした。

 極力シンプル、だけど、上品な空間です。舞台は灰色の壁に囲まれた公民館ですが、真横に細く一直線に光る白い蛍光灯の明かりが効いています。静かに流れるジャズ・ピアノ(かな?)がクール。ダイナミックな演出にも魅せられます。

 演劇を知らない人たちが演劇に関わることで、自分達の実生活の中の演劇に気づいていきます。食卓で家族と顔を見合わせた時、私達は無自覚にその場の空気に合わせて言葉を選び、演技をしているのではないか。「リハーサルルーム」の出来事が、その事実を浮かび上がらせていきます。 

 ここからネタバレします(2008/02/10追加)。セリフは完全に正確なわけではありません。

 発表会の演目選びの会議を経て、市民の実生活や生い立ちのエピソードをもとに脚本を立ち上げることになります。横一列に並んだイスに市民が座り、一人ずつ自分の家族について虚実をまじえて話していく場面で、衝撃を受けました。役者さん1人1人が演じる役そのものとして存在しているので、登場人物の世界(人生)が一列に並んでいるように見えたのです。互いに独立しながら、ふんわり触れ合ったり、重なったり離れたり。一言のセリフが生まれる度に舞台がプリズムの輝きを放射します。人間の多様性と存在そのものの豊かさが、俳優が舞台に居ることだけで遜色なく表されていたと思います。それって奇跡と言えるのではないでしょうか?

 郵便配達夫を演じることになった大(ダイ・古川龍太)の「郵便です」というセリフに、毎回、か細いながらも強い光を感じました。
 「家族で、ハッピーエンドで、ミュージカルなのは、ファンタジーだと思う。」 
 「ちゃんと聞いてしゃべる。会話がしたい。会話が。」

 小野寺(二木咲子)「私、『三人姉妹』には積極的に反対します。」
 織絵(高島令子)「家族って、居心地のいい収容所みたい。」「家だと、演技していて疲れるの。ここ(稽古場)だと、演技していて楽しいの。」
 久留栖(三原秀俊)「道楽ですから、妥協しないですよ」

 最後は市民の実生活をもとに翻案された『わが町』が上演されます。
 「それでも・・・」というセリフが素晴らしかった。

≪東京、福岡、神奈川≫
出演:内田亜希子、野口俊丞、岡野真那美、河合杏奈、小泉真希、高島令子(髙島玲)、二木咲子、眞中幸子、北川響、窪田壮史、古河耕史、古川龍太、前田一世、三原秀俊、山本悠一(山本悠生)
作:篠原久美子 演出:栗山民也 美術:長田佳代子 照明:田中弘子 音響:河原田健児 衣裳:宇野善子 音楽:後藤浩明 演出助手:田中麻衣子 舞台監督:三上司 研修所長:栗山民也
【発売日】2007/12/12 A席3,000円 B席2,000円 Z席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000051.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年02月09日 01:51 | TrackBack (0)