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REVIEW

2008年10月01日

KAKUTA『STAR MAN』09/27-10/05青山円形劇場

 桑原裕子さんが作・演出・出演されるKAKUTA(カクタ)の新作です。桑原さんは岸田國士戯曲賞候補にもなった注目の若手劇作家でもあります。

 KAKUTAはシアタートラムや青山円形劇場といった300席クラスの劇場の、広い空間を上手に使える劇団です。今回も円形劇場の個性を生かしたドラマを見せてくださいました。

 平日夜公演だったのでKAKUTA特製「おまけCD」をいただきました♪上演時間は約2時間。

 ⇒CoRich舞台芸術!『STAR MAN

 ≪あらすじ≫
 2008年夏。若い夫婦(成清正紀&桑原裕子)が運営するキャンプ場に1人の男(若狭勝也)がやってきた。「1人客の宿泊はお断り」と一度は門前払いされるが、常連客の女(高山奈央子)が気を利かせてくれたおかげで、男は宿を得た。そこで女は、このキャンプ場が閑散としている理由を語る。
 ≪ここまで≫

 あるキャンプ場の数年間の夏を描きます。中央の円形ステージは切り株のテーブルがならんだ野外ロビーで、周りには事務所、バンガロー、通路があり、その間に客席があります。

 川遊び、バーベキュー、花火、きもだめしなど、明るく楽しげな夏のレジャーのムードに、ねたみ、恨みといった暗くてどろどろとしたものが、こっそりとまぎれています。軽快な空気の中にある明暗のコントラストが、桑原さんの劇世界の特徴のような気がします。

 なんてことのない小道具が人間らしい温かい生活を匂わせたかと思ったら、悪意や狂気をおびて存在感を増し、そのシーンを支配する主役に成り上がったりします。読んだばかりだからかもしれませんが、向田邦子さんの小説に似たものを感じました。

 全体としてはもっと上が目指せるんじゃないかと思いました。でも「KAKUTAを観に行ったらこんなお芝居が観られる」という期待を込めた予想には、いつも応えてくれていると思います。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 描かれるのは2004年から2008年までの5回の夏。2008年から過去を回想する形で進みます。
 2004年に自殺するために1人でキャンプ場に訪れた星次(横山真二)は、従業員で未亡人の洵子(原扶貴子)に慰められて思いとどまります。2005年には彼女を追ってそこで一緒に働くようになります。いわゆるストーカーですね。

 洵子の妹・教子(青木岳美)は、近所で有機野菜農園を経営するバツイチの男・津川(内田健介)と姉をくっつけようと張り切って、2人は夕飯を毎日一緒に食べるほどに接近します。星次はそれをせつなく見守るだけ。
 でも意外なことに、津川は常連客の恩田(高山奈央子)と結婚するのです。明るい音楽と華やかなムード全開のセリフなしの結婚式のシーンでは、洵子のどん底の悲しみがにじみ出ていていました。

 星次が引き出物のバームクーヘンをまるごとかじる情けない姿が、あまりに惨めで笑い泣きしてしまいました。その後、酔っ払った洵子が「星次さんは、大きな切り株の上にバームクーヘンを乗せるというギャグをかましてるんだ!」と叫んで、バームクーヘンが惨めさの象徴から、ギャグの小道具に変化したのがめちゃくちゃ面白かった。津川と恩田の子供の名前を「津川バームクーヘン!」とちゃかすのも、さらに笑えました。

 2次会から勝手に消えた2人のことを探して、新郎・津川がやってきます。この3人がそろったシーンの緊張感がとても良かったです。無神経にも幸せな姿を見せ付けて、「心配だったから」なんて残酷な言葉を吐く色男・津川。彼に背を向けてうなだれて「ごめんなさい」と力なく謝る年増の洵子。面白くないギャグを連発するキモいストーカー・星次。

 その後、さんざんに酔っ払った洵子と星次には、最悪の悲劇が訪れます(星次は洵子の首をしめ、洵子は鉄板で星次の頭を打つ)。こうなるしかなかったと思えなかったのが残念。怒りと悲しみが最高潮に盛り上がって、狂気に至るというところが感じ取れませんでした。意味では理解できたんですが。

 泉(若狭勝也)が実は恩田(高山奈央子)のことが好きで、突然にキャンプ場まで追いかけてきたのだという結末は、ちょっとお膳立てが過ぎる気がしないでもないのですが、「見返りを求めない愛」がいつか成就すると信じたくなる、とても幸せなエンディングにしてくださいました。これはKAKUTAならではだと思います。役者さんの素直な演劇の賜物でしょう。

 生活臭がぷんぷんする小道具(バーベキュー用の鉄板、プラスチックのカップなど)に、人間の気持ちがやどるように感じました。
 2組のおバカ・カップルの位置づけはわかりやすいし、笑えました。でもまだこなれてない気もしました。

 ※『STAR MAN』とは星男、つまり星次のこと。

青山演劇LABO#001 KAKUTAオトコまつり2008 in Japan
出演:成清正紀/若狭勝也/原扶貴子/高山奈央子/松田昌樹/大枝佳織/横山真二/馬場恒行/桑原裕子/青木岳美/内田健介/小堀友里絵
作・演出:桑原裕子 舞台監督:横尾友広 舞台美術:田中敏恵 照明:三嶋聖子(SEW) 照明操作:山口久隆 音響:島貫聡 選曲:真生 衣装:山崎留里子 宣伝美術:川本裕之 宣伝写真:相川博昭 演出助手:山崎総司 演出補佐:大見遥 制作助手:横内里穂 小野由香 制作:前川裕作 田村友佳 企画・製作:K.K.T. 提携:こどもの城 青山円形劇場
(平日オマケ付き公演=KAKUTAオリジナル「オマケCDダイジェスト版」をご来場者全員にプレゼント!!)■前売 3500円/当日 3800円(全席指定)■学生割引 3000円(劇団扱いのみ)
http://www.kakuta.tv/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年10月01日 23:39 | TrackBack (0)