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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2008年12月17日

【稽古場レポート】冨士山アネット『不憫(FUBIN!)』11/13都内某所

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長谷川寧さん

 長谷川寧さんが作・演出・振付される冨士山アネットの稽古場にお邪魔いたしました(⇒その日の長谷川さんのブログ)。

 冨士山アネット(過去の関連レビュー⇒)の作品は、全体がダンス的な動きで構成された“パフォーマンス”に見えますが、実はすべてが戯曲をもとに作られた“演劇”でもあるんですね。その創作過程を少しばかり覗かせていただきました。

 【公演情報】
 冨士山アネット『不憫(FUBIN!)
 期間:2008年12/26(金)~12/29(月)
 会場:ザ・スズナリ
 ⇒CoRich舞台芸術!『不憫

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本チラシ

 ※『不憫』本チラシ(ビニール袋状)には野田秀樹さん乗越たかおさん(12/29(月) 14:00の回のトークゲスト)からの推薦コメントあり。長谷川さんは来年1月開幕のNODA・MAP『パイパー』に出演されます。

 ★12/28(日)19:30の回のシークレット・トークゲストは、カンパニーデラシネラの小野寺修二さんです。12/18(木)より『ある女の家』がシアタートラムで開幕しますね。※12/21(日)まで上演。

 ≪『不憫』作品紹介≫ 公式サイトより
 冨士山アネットが送る新作本公演!
 病院という施設内、其処に居る数々の不憫な人間が、その肉体を必要に駆られて変えて行く様は、まるで人類の進化。
 冨士山アネットが送る新作は「進化する身体」がテーマ。
 人は、まだまだ進化する。
 ≪ここまで≫ 

 舞台の実寸が取れる稽古場で、役者さんはそれぞれにウォーム・アップを開始。誰も発声練習をしないので演劇の稽古とは少々印象が違います。
 まとまった人数が集まると、格闘技の経験者である山本伸一さん(BQMAP)がリーダーになって、イス取りゲームや2人組のエクササイズなど、冨士山アネットらしい(?)準備運動が始まりました。体操には違いないのですが、必ずと言っていいほど勝ち負けがあるのです。↓立っているのが山本さん。
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 例えば2人1組のゲーム「ひっくり返し」は、一方がうつぶせに床に寝て、一方がそれをひっくり返して仰向けにできたら終了というゲームです。山本さんは取っ組み合う2人を見守りつつ、試合に勝つためのテクニックを教えます。
 山本「相手がどこで踏ん張っているのかがわかれば、ひっくり返せるよ。」

 始まって15分で皆さんが息切れされていました。けっこうハードなんですね。この他にもいくつか(「フットタッチ」「エビ(←これが結構難しい)」等)のゲームが続き、稽古場が開いてから1時間以上はウォーム・アップに割かれていました。
 10分の休憩を挟んで、長谷川さん(左)が持参した舞台模型の披露と説明↓
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 出ハケや小道具の移動などについて、役者さんから意見が多数出ました。どうやら冨士山アネットにとって新しい試みにチャレンジされるようです。
 その後、新しく追加された台本(数ページ)の読み合わせが始まりました↓
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 配役はすでに決まっており、演劇のお稽古と同様に読み進めていきます。出演者は全員が演劇の役者なのではなく、ダンサーやパフォーマーなどさまざまですので、特にセリフ回しが上手というわけではありません。でも、言葉を間違えないことはあまり重要ではないようでした。
 長谷川「掃除婦役はスローにやるんじゃなくて、マイペースをイメージして。」
 長谷川「若者ことばでしゃべるより、他の人よりも(体感している)時間を早くして欲しい。他の人と時間をずらしてください。そうすれば時間軸が変わった体が出てきて、言葉にもそれが出てくるはずだから。」
 長谷川「“多分”というセリフは韻を踏むイメージで。(音楽で言うと)Aメロが続くみたいに、体を、心を乗せていくところに保ってて。」

 読みあわせを3度くらいしたら、すぐに立ち稽古が始まりました。台本は持ったままです。役者さんはお互いに台本に沿ってセリフをしゃべり、体に触れ合い、積極的に関わっていきます。
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 セリフを言いながら動く役者さんに対して、言葉よりも動きに重点を置いた演出がついていきます。
 長谷川「この人物って、もっと“しゃべりたい人”じゃない?体が『しゃべろう!』としている体になってないよ」
 長谷川「軸がない体にして“うっとおしさ”を表現してください。ねっとり、のしかかるように。」
 長谷川「どういう体でいるのかを意識して。人と人との間に立ち上がってくるものを、位置関係であらわして欲しい。」

 大きくジャンプしたり逆立ちをしたり、相手を持ち上げたり放り投げたり、大掛かりな組み技も次々と繰り出されてきます。
 長谷川「このセリフは、峰不二子(Wikipedia)のモデルになったある映画のシーンをイメージしてるから(笑)、“刺さって”欲しいんだよね。刺さる体を見せて欲しい。シンボリックな体を。」
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 簡単な読み合わせから始まって、セリフについてはほぼ何の指示もないまま、動きや位置などの体の関係性に集中した稽古が繰り返されます。走る役者さんが起こす疾風や、アクロバティックな動作にハっと驚かされつつ、じわじわと目に見えてきたのは、演劇の一場面でした。それぞれにはっきりとした目的意識を持った人間たちが、ぶつかり、交差していきます。

 長谷川「まずはセリフにあるものを体に出すんです。セリフから、人物から、欲求を拾っていく。役者が自ら出してきたものを拾っていきます。振り抜いたり、分散させたり、突き抜けたりする動きを採用して、タガをはずしていきたい。生っぽさを見せたいんですよね。」
 長谷川「例えばパントマイムは、(敢えて体を)止める動きだと思います。僕がやりたいのはむしろ、振り切る動き。振り切って、つなげていく体です。そこにダンスのテクニックや演劇を混ぜて、舞台で見せる表現になるよう馴染ませる。」
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 『不憫』の舞台は病院。患者と医者、看護士、見舞いに来た患者の家族などが登場します。片足を引きずっていたり、常に腰を曲げている“不憫”な人物とともに、松葉杖やモップなどの小道具も大活躍します。
 長谷川「人間の体は、怪我している部分が動かなくても、他の部分は元気です。使わない部分が体の他の場所に影響する。そこが面白いと思います。」

 アップを除く約2時間の稽古で具体的な形が見えてきたシーンはおそらく1つ。それも分数にすると約2~3分にしか満たないようです。
 長谷川「気が遠くなりますね(苦笑)。」
 困ったような笑顔の裏側に、絶対に妥協はしないという固い気持ちが伺えました。演劇であり、ダンスであり、パフォーマンスであり、もしかすると格闘技でもある、凝縮された舞台が味わえそうです。

振付・出演: 山本伸一(BQMAP) 石川正義 大石丈太郎 石本華江(妄人文明/Co.山田うん) 石山優太(APE) 上ノ空はなび(toRmansion) 大西玲子 草光純太 玉置玲央(柿喰う客) 深井順子(FUKAI PRODUCE羽衣) 長谷川寧
作/演出/振付:長谷川寧 衣裳パフォーマ-:山下和美 音楽監督:吉田隆弘 音響:高橋秀雄(Sound Cube) 佐藤春平 照明:奥田賢太(colore) 映像:浦島啓(PUREDUST) 美術:原田愛 池田那緒美 宣伝美術:太田創(01 Ga Graphics) 制作:高市由香里 田中真実 岩間麻衣子+冨士山家
(日時・全席指定) 早割 2,500円 振込/11月20日迄 一般前売 2,800円 一般当日3,000円 学生前売 2,500円 学生当日2,500円 要学生証提示 団体前売 7,800円 3名様・要予約
http://fanette.fc2web.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年12月17日 15:05 | TrackBack (0)