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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年03月14日

新国立劇場演劇『昔の女』03/12-22新国立劇場 小劇場

 メルマガ3月号でもご紹介しました、新国立劇場「シリーズ・同時代【海外編】」の第1弾。ドイツの劇作家ローラント・シンメルプフェニヒさんの戯曲を倉持裕さん(ペンギンプルペイルパイルズ)が演出されます。

 すっごく面白かったっ!!豪華で上品で、遊び心もあって、一般の大人が満足できる観劇体験になるのではないでしょうか。いわゆるわかりやすい、親しみやすい物語ではないですが、とってもお勧めです。上演時間は約1時間40分。

 シンメルプフェニヒさんも出演されるシアタートーク特別編(終演後約1時間)も拝聴しました。帰りにロビーでシンメルプフェニヒさんの戯曲「前と後」(訳:大塚直)を購入し、ご本人にサインもしていただきました♪

前と後 (ドイツ現代戯曲選30)
ローラント シンメルプフェニヒ
論創社
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 ⇒CoRich舞台芸術!『昔の女

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 引越しの準備をしているある三人家族のもとに、突然24年前に別れた夫(松重豊)の恋人(西田尚美)が現れた。今は長年連れ添った妻(七瀬なつみ)も息子(日下部そう)もいるという夫に、その女は永遠の愛を誓う約束を果たしに来たと繰り返し迫り、彼を次第に恐怖へと陥れてゆく……。
 ≪ここまで≫

 出来事だけを追うと残酷なお話なのですが、時間を前後するシーン展開は軽やかで驚きがあり、笑いもたくさん散りばめられています。装置、照明、衣裳などのスタッフワークは豪華で見ごたえがあるし、倉持さんならではのトリッキーな仕掛けもポップで面白いし、とても充実した、幸せな観劇になりました。こういう作品を新国立劇場で観られるのが嬉しいです。

 美術(中根聡子)が素敵だった~・・・♪(恍惚のため息) 舞台は19年間3人家族が住んでいた家です。白い塗りの壁には適度に汚しが入っており、年輪を感じさせます。プロセニアム舞台ですが、前方数列の客席を囲むように上下(かみしも)に通路がありまして、床はいわばコの字型。天井部分には巨大な額(のようなもの)が、屋根のように斜めにかぶさっています。部屋の壁や床、ドアは具象でリアルに作られていますが、全体としては抽象的なだだっ広い空間でもあります。

 パンフレットの作家の言葉によると、この戯曲のテーマは「反古(ほご)にされた約束」なんですね。若い頃の恋人と、20年間一緒に暮らしてきた家族と。夫フランク(松重豊)はどちらを取るかという選択に迫られます。
 妻も息子も目の前にいるのに、“昔の女”は突然やってきてバカなことを言い出すな~と最初は思ったのですが、「歴史や年月ってそんなに大事なのかしら?」「その場、その瞬間の感情の方が、時には重要だったりするのでは?」などと、短い言葉が行き交う会話の最中に、色んな思いをめぐらせました。観客が色んな想像をする余白が、豊富に用意されているおかげだと思います。
 
 ここからネタバレします。

 フランクのかつての恋人ロミー(西田尚美)は、彼女が17才の時にフランク(当時19歳)が言った約束「君をずっと愛し続ける」を守ってもらおうと、フランクの居場所を突き止めて24年ぶりに2人は再会します。

 閉まらないドアの仕組みおよびドアの開閉の音響効果とか、白くて広い壁に動画を映写して暗転していくとか、ロミー(西田尚美)に窒息死させられた息子アンディー(日下部そう)の死体を人形で表現するとか、ロミーのプレゼント(爆弾?)に触れて妻クラウディア(七瀬なつみ)の体がメラメラ燃えたりとか。
 同じ会話が繰り返されるけれど、演技の仕方をすっかり違うものに変えるという演出は素晴らしいですね。

 最後は燃え盛る炎(の照明)の中、家が下に沈んでいきました。家の2階部分の額縁の中には、アンディーの恋人ティーナ(ちすん)がいます。目を見開いて客席をじっと見つめたまま。彼女もまた男に約束を反古にされた女になるんですよね。後から後から、色んな想像を膨らませて考えられる作品でした。

 役者さんの演技については、全体的にコミカルで軽快で楽しく見られたのですが、トークでシンメルプフェニヒさんがおっしゃっていた「ほんのわずかですが人工的に見えた」という感想は、私も持ちました。そこもまた楽しむポイントかもしれませんが。

 ≪シアター・トーク【特別編】≫ 
 特に心に残ったことを下記に。言葉は私がメモしたものです(完全に正確な記録ではありません)
 出演(壇上向かって左から):新野守広(司会) 鵜山仁 倉持裕 大塚直 ローラント・シンメルプフェニヒ 通訳さん(女性) 

 シンメルプフェニヒ「この作品は喜劇でもあり、メロドラマでもあり、悲劇でもあります。それがちゃんと表されていた。ドイツでは、演出家の1つの考えによって、戯曲がその中にねじ込まれることが多い。でも今作品では、この戯曲の色々な色彩がきれいに平行して描かれていて素晴らしい。」

 シンメルプフェニヒ「(私が戯曲を書くときは)短い時間にどれだけ沢山の感情を出せるか。物語を加速させて、感情が押し出されてくることを目指している。」

 倉持「(戯曲については)修飾語を極力そぎ落としていることや、こけおどしがないことなど、そういう姿勢が(自分と)共通すると思った。エンターテインメント性を持ちつつ、実験もしていることにも共感した。」

 倉持「日本の小劇場は、商業演劇的な方向(わかりやすい、親しみやすい)へ進んでしまっている気がする。でもドイツの作家は好きなことをして、実験をしていると思った。初心にかえった気持ちです。」
 シンメルプフェニヒ「芸術とは、傷口にあえて触れること。気持ちがいいことばかりではない。挑発こそ芸術だとも言える。」


 ドイツ人の劇作家が来日してトークにも出演してくださり、すごくありがたいことだと思いました。芸術監督のお考えを聞くことができたのも良かったんですが、できればもっと作品自体についての話が聞きたかったですね。登壇者を少なくした方がいいんじゃないかと思いました。

シリーズ・同時代【海外編】Vol.1
出演:松重豊、七瀬なつみ、日下部そう、ちすん、西田尚美
作:ローラント・シンメルプフェニヒ 翻訳:大塚直 演出:倉持裕 美術:中根聡子 照明:小笠原純 音響:上田好生 衣裳:太田雅公 ヘアメイク:川端富生 演出助手:山田美紀 舞台監督:北条孝 芸術監督:鵜山仁 協力:東京ドイツ文化センター
【発売日】2009/01/25 A席:4,200円 B席:3,150円 Z席:1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000064_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年03月14日 17:52 | TrackBack (0)