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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2009年04月06日

Bunkamura/TBS『音楽劇 三文オペラ』04/05-29シアターコクーン

 演出家・宮本亜門さんがシアターコクーンに初登場。『三文オペラ』は大好きな作品で何度か拝見していますが、今までで一番刺激的で面白かった!
 カーテンコールは拍手が鳴り止まず、手拍子にもなって、計5回。最後は私もスタンディング・オベーションしちゃいました。チケット代はS席12,000円、A席9,000円、コクーンシート席6,000円と高い目ですが、ご興味ある方にはとってもお薦めです!!※刺激が強い演出でしたのでメルマガ号外は控えます。

 『三文オペラ』といえば、歌が聴けるだけでも嬉しいと思うほど好きな作品です。でも今作では、歌を楽しむなんて余裕はありませんでした。それが『三文オペラ』本来の世界なのかもしれないとも思えました。

 異種格闘技戦を思わせるキャスティングですが、デーモン小暮閣下も溶け込んでらっしゃいました(笑)。その理由はぜひご覧になって確かめてくださいね♪ 米良美一さんも素敵でした。上演時間は約3時間(途中休憩15分、10分の2回を含む)。あっという間でした。

 ⇒CoRich舞台芸術!『音楽劇 三文オペラ
 レビューをアップしました(2009/04/14)。
 ⇒舞台写真(ぴあ・2009/04/08加筆)

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 窃盗団の親分メッキ(三上博史)と、”乞食の友”社のピーチャム(デーモン小暮閣下)の一人娘ポリー(安倍なつみ)が、親に内緒で結婚式を挙げる。メッキとは戦友で警視総監のブラウン(田口トモロヲ)も二人を祝福するが、それを知ったピーチャムと妻(松田美由紀)は大慌て。ポリーに別れるよう説得するが耳を貸さない。そこでピーチャムは警察を使いメッキを捕らえる計画を立てる。危険を察知して身を隠したメッキだが、かつての恋人で娼婦のジェニー(秋山菜津子)に裏切られ捕まってしまう。牢獄のメッキの元へ、恋人の一人ルーシー(明星真由美)がやってくる。そこにポリーが現れて大喧嘩。隙をついてメッキは牢獄を逃亡するが…。
 ≪ここまで≫

 乱痴気騒ぎのスプラッター・ホラー風『三文オペラ』。“猥雑”というよりは“剥き出し”でした。怖いくらいのがさつな騒ぎっぷりに、第1幕は付いていくのが少し難しく、身体をこわばらることもありました。でも2幕以降、特に秋山奈津子さん演じるジェニーが登場してからは、粗野で野蛮な人々からパンクの精神が伝わってきて、“ゆったりとは楽しめない音楽劇”の刺激に快感を覚えました。

 劇場機構をそのままに見せる舞台美術で、ステージの高さが客席より下に作られていました。そのせいか、前方中央ブロックの座席もいくらか下に沈んでおり、両隣のブロックとは段差が出来ています。客席通路にはベニヤが貼られており、舞台と平行に通る客席中央の通路にも演技スペースがしつらえられています。工事現場もしくは危険区域のような舞台と、劇場全体が地続きになっているような印象。私は前方の沈んだブロックに座っていたので、役者さんが通路を歩く(走る)度にイスがぐらぐら揺れました。

 『三文オペラ』に登場するの悪党、物乞い、娼婦、そして彼らを取り締まろうとする警察たちです。不安定で先の見えない、ひっ迫した状況に置かれた彼らの苛立ちや怒り、つかの間の快楽をむさぼって不満を発散させる様が、そのまま吐き出すようにぶつけられた気がしました。今の日本人の生活や精神状態にも重ね合わせ、その現実が突き刺さるような衝撃を受けて、歌を楽しんでいる場合じゃない、歌詞に感動してる場合じゃないという気持ちで挑むように拝見しました。
 もちろん美しい歌に聴きほれることも大好きなんですけど(笑)、そういう状態にはなれなかったですね。ブレヒトの異化効果が私にはぴったりはまったのかもしれません。

 三上さん(メッキ)が、『時計仕掛けのオレンジ』(Wikipedia)のアレックス・デラージ、『ダークナイト』のジョーカーに見えました。
 米良美一さんが幕タイトルを読み上げる不気味な案内人役で、観客と舞台をつないでくれました。彼も『バットマン』のジョーカー(ジャック・ニコルソン)みたいでした。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 登場人物は全員が白塗りメイクで戯画的な演技をします。誰もが人形であり、道化のよう。登場人物たちは役名の人物ではなく、悪党、娼婦といった役割を象徴する存在に見えてきました。
 例えばほぼ冒頭のシーンで、乞食のフィルチ(加藤啓)が「路上でTHE BIG ISSUEを売るはめになった」と、実物のTHE BIG ISSUEをかざしながら言いました。それは他人事ではない、現代日本の貧困と直結します。そうやって加藤さんはフィルチではなく、今の貧困の真っ只中に居る若者の象徴になりました。

 歌としてじっくり聴き入ることが出来たのはメッキ(三上博史)とジェニー(秋山菜津子)の「メロドラマ」。秋山さんと三上さんは、生きるために地獄をくぐり抜けてきた化け物のようでした。
 彼ら2人以外の人物についても感じたのですが、舞台に居る人たちは誰とも心を通い合わせる気がないんですよね。誰もがわがままで一方的で、自分の欲をむき出しにして他者に欲求ばかりしています。そんな彼らが叫ぶ「じゃあ何を糧に生きていけばいいのか!?」という切実な問いが、私にはとてもリアルに感じられました。

 小悪魔ギャルのポリー(ピーチャム乞食商会の社長の娘)と、ガチガチいかず後家風ルーシー(警視総監の娘)の対決は新鮮。
 シーンは前後しますが、ポリーが歌うところで、月の顔が描かれた大きな風船が出てきてしぼむのが面白かった。

 ピーチャム(デーモン小暮閣下)が「顔面にバラが咲いたようなあざがある者たち、手足のない者たちなど、皆が目に入れたくないと思っている醜い者たちを、女王様の凱旋パレードに押しかけさせる」と、ブラウン警視総監(田口トモロヲ)を脅します。これまでに観た『三文オペラ』では、このシーンはいつも他人事のように通り過ぎていたのですが、自分が見たくないものは見ないで、その存在さえ無視しているのは私自身であり、ピーチャムに脅されているのも私であるように感じました。
 
 女王陛下(米良美一)が現れて死刑囚のメッキに恩赦が与えられ、彼は貴族の称号と100万円(だったかな)の年金を死ぬまで得ることになります(そんなことあるわきゃないと、またひっくり返されるのですが)。なんとそこでサンリオピューロランドのミュージカルが始まりました。どぎついパステルカラーのキティちゃんの夢の世界は、おぞましいほど偽善に満ちています。その中央で、メッキは白塗りメイクを取った素顔になり、客席をにらみつけていました。彼は私であり、私を責める誰かであり、つまり世界中のすべての人間であるように感じました。
 それにしても、亜門さんがご自身のお仕事をパロディーにしちゃうのって・・・凄い(笑)。

≪東京、大阪≫ Bunkamura20周年記念企画
出演:三上博史、秋山菜津子、安倍なつみ、松田美由紀、明星真由美、米良美一、田口トモロヲ、デーモン小暮閣下 大鷹明良 つまみ枝豆 加藤啓 さけもとあきら 水野栄治 岡田誠 村上勧次朗 星智也 原慎一郎 福山健介 石井則仁 二宮優樹 南智子 菅原さおり 松田愛子 多岐川装子 高山のえみ いせゆみこ
ミュージシャン:青木タイセイ(トロンボーン/ベース/キーボード) 内橋和久(ギター/ダクソフォン) エミ・エレオノーラ(ピアノ/アコーディオン) 坂本弘道(チェロ) 塩谷博之(クラリネット/サックス/フルート) 高良久美子(マリンバ/ビブラフォン/パーカッション) 芳垣安洋(ドラム/パーカッション)
脚本:ベルトルト・ブレヒト 音楽:クルト・ヴァイル 翻訳:酒寄進一 演出:宮本亜門 音楽監督:内橋和久 歌詞:三上博史 美術:松井るみ 衣裳:岩谷俊和 振付:上島雪夫 音響:山本浩一 映像:栗山聡之 歌唱指導:伊藤和美 音楽監督助手:中條純子 演出助手:寺﨑秀臣 技術監督:堀内真人 舞台監督:有馬則純 主催・製作:Bunkamura/TBS  企画:Bunkamura
【発売日】2009/02/07 S席12,000円 A席9,000円 コクーンシート席6,000円
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_09_sanmon.html
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/09_sanmon/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年04月06日 01:00 | TrackBack (0)