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2009年04月13日

【インタビュー】栗山民也ロングインタビュー『ミュージカル「マリー・アントワネット」』ドイツ・ブレーメン公演②

 に引き続き、栗山民也さんにドイツのミュージカル創作現場について、具体的にお話いただきました。劇場を取り巻く環境はもちろん、作り手のスタンス、観客の意識も日本とは違うようです。

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 ⇒劇場公式サイト(音が鳴ります)
 ⇒公演公式サイト(※Musikをクリックすれば、曲を視聴可能)

■ブレーメン到着翌日に100人の前でプレゼンテーション
―ドイツの舞台創作現場で、栗山さんが体験したことをお聞かせください。約2ヶ月間のブレーメン滞在だったんですよね?

栗山「去年の12月6日に行って2月3日に帰ってきたので、計57日間ブレーメンに居ました。宿泊する部屋に着いたのが夜10時で、その翌日の朝10時から顔合わせ。もう時差とかなんとか言ってられない(苦笑)。
 顔合わせには俳優約50人とスタッフ、劇場の人も含めて100人ぐらいが集まっていました。その100人の前で一番初めに「はい、これから演出家のプレゼンテーションです」と言われて。始まった途端に1時間半、話すことになりました。そういうシステムなんですね。作品について、どんな姿勢でやるのかを全員に宣言するんです。演出家の次は美術家、照明家、衣裳家・・・とプレゼンが続きました。演出家よりは持ち時間は短いけどね。
 顔合わせの後は装置の打ち合わせをしました。装置家はイギリス人で、稽古に入る前にロンドンで2日間ほど話はしていたんですが、何しろ全部で26場ぐらいありますからね、そうたやすく出来る装置じゃないんですよ。その日一日をめいっぱい使って、何時間も装置家と話をして。そしたら翌日から立ち稽古ですって言われて。」

―え!いきなり立ち稽古ですか?
栗山「そう、いきなりそう言われてね(苦笑)。でも「ちょっと待ってくれ」って言って1日だけ猶予をもらって、全スタッフを集めて作品全体の流れを確認し合いました。だからその次の日からですね、立ち稽古に入ったのは。」 ↓会見写真

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■朝と夜に2回の稽古。その間に4時間の休憩がある
―稽古スケジュールについて具体的に教えてください。
栗山「朝10時から午後2時まで稽古して、4時間休憩して、夜の6時から10時までまた稽古というシステムでした。『(俳優の)組合の力が強いので、スケジュールは必ず守ってください』と言われて。初めはすごく戸惑いましたね。」

―なぜ4時間も休憩があるんですか?
栗山「特に北ドイツでそういう時間帯になっているようです。ドイツは16の州からなった連邦制の国家ですから、16州それぞれの法律、政治形態があって。ミュンヘンなどの南ドイツの都市ではまた違うシステムのようです。
 ドイツは離婚率が世界一高い国らしく、母子家庭、父子家庭が多いんですね。だから夕方の4時間の内に子供を迎えに行って、家で夕食を食べさせて、また仕事に行くとか。そういうライフスタイルが反映されているんでしょう。」

―栗山さんはその4時間の休憩の時、何をしていらしたんですか?
栗山「午後2時にいったん開放されるものの、それまでには15分間ぐらいの休憩しか取らないんです。しかも稽古場の集中力たるや、ものすごいエネルギーでしょ。だから4時間でへとへと。休憩時間になったら昼食を取って、2時間ぐらいはぼーっとしてた(笑)。そしてまた夜の稽古が始まる・・・2ヶ月の稽古を2回やったぐらいの感覚ですよ。日本の稽古場みたいな生ぬるさは、全くないですからね。」

■劇場稽古の期間は2~3週間
―日本とは違って、ヨーロッパでは劇場に入ってからの稽古期間が長いと聞きました。
栗山「劇場稽古の期間はプレビュー(4日間)を入れて、2~3週間ありました。稽古のために劇場が空けられているんです。劇場での稽古で、作品はどんどん変わっていきましたね。」

―“海外公演を体験すると、演出家は日本のスタッフがいかに優秀かがわかる”というエピソードを何度か耳にしたのですが、ブレーメンではいかがでしたか?

栗山「僕が現地のスタッフに向かって『なぜ今すぐできないの?』『さっき言ったでしょ?』と言うことはありました。すると彼らは『僕らはそんなに急いで作ってないんだ』って言うんです。あるドイツ人スタッフが言っていました。『僕は日本に行ったことがあって、2日間の仕込みでオペラの幕を開けることができた。僕らの方式を取っていたら、幕は開かなかったかもしれない。日本人スタッフは驚くほど機敏に働いてくれて、とても感謝している。でも、日本の現状では、そうせざるを得ないのでしょう。』と。
 ドイツでは準備期間があるので、劇場で自由に稽古をやっていいんです。彼らは、劇場での稽古で新しい発想が生まれて、芝居がより良くなればいいと考えている。つまり稽古場が劇場に移っただけで、まだ稽古中なんだと。」

■プレビュー最終日に装置が突然停止
―何かトラブルはなかったですか?
栗山「最後のプレビューの日、第1幕の終わりで突然バトンが止まって、装置の吊り物が動かなくなったんです。場面転換が一切できない。休憩時間に協議した結果、2幕からはコンサート形式でやることになりました。演出家としては非常に難しいところでしたが、俳優たちがすごくやる気でね。『ここまでドラマを観てくれた観客を帰すわけにはいかない』と。彼らは観客を守るんです。コンサート形式になっても観客は誰も帰りませんでした。終演したのは夜12時頃。凄い拍手だった。もちろんチケットは全て払い戻しです。
 スタッフはその後から北ドイツ中に連絡を取って、色んな手配をして、初日の公演にバッチリ間に合わせてくれました。俳優も今までの力を出し切って、すごい集中力でしたね。」 ↓プレミアのカーテンコール  ⇒初日映像レポート(東宝)

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■観客は劇場の一員。文化は日常生活の中で動いている。
―公立の劇場がミュージカルをプロデュースし、しかも4ヶ月のロングラン公演を実施するなんて、日本では想像も出来ないことだと思います。でも、ブレーメンの人口は54万人ですよね(ex.東京都世田谷区は83万人)。4ヶ月間も観客が集まるものなのですか?

栗山「正確なことはわかりませんが、チケットは売れているようです。ドイツは鉄道が発達していて、観客は色んな地域からやって来るんですよ。俳優も、ドイツのさまざまな地域から集まっていました。」

―ドイツの公立劇場にはそういった地盤が整っているということなのでしょうか?
栗山「公立劇場のあり方として当然のことですが、住民の税金で劇場が成り立っているわけだから、劇場は住民のものなんですよ。彼らはそこで上演される作品を評価すべきなんですよね。俳優、スタッフと同じように、観客(住民)は鑑賞するという形での劇場の一員なんです。だから、幕が開くのを心待ちにしている。」

―ブレーメンで暮らす人々や客席に集まった観客が、そういう意識を持っていると感じられたのですか?
栗山「もちろんです。(この作品の幕が開くのを)待ち構えていましたからね(笑)。ブレーメンは小さいですが、いわゆる中世の都市でとってもいい街なんですよ。『街を挙げてこの作品を守ろう、成功させよう』といったポスターが、いたるところに貼ってありました。
 僕はアーティスト・レジデンスの一角のアパートを借りていました。つまり劇場の中に住んでいたんです。窓を開けると劇場へ行くお客さんや、稽古場に向かう俳優が通っていく。だからつぶさに見ましたね、劇場がいかに街の人々によって支えられているのかを。文化は日常生活の中で、動いているものなんだってことをね。」

■クビを切るのは当たり前
―街を挙げての大プロジェクトなんですね。
栗山「例えば日本のように『来年の3月公演はどうする?』と、劇場の空き状況をきっかけに創作が始まるのではないんですよ。まず作品があって、完成形が出来上がる時期を見据えて、公演期間を決める。充分な準備期間を確保してね。そして作品に関わる人間と劇場が一体となって、数年後のその時に向かって、動いていくんです。」

―関わるアーティストの意識も相当に高いものになるのではないかと想像します。逆に言うと、公演の失敗は許されないというか・・・。

栗山「俳優はもちろん、ヨーロッパではスタッフもいわばオーディションで選ばれているんです。作品についてプレゼンをして、ダメなら落とされます。今までのキャリアなんて関係ない。だからその熱の入れようはハンパじゃないですよ。
 それに、ぎりぎりになって(スタッフの)誰かを降ろしたとか、よく例に出されましたよ。ダメな時はクビを切る、そういうことが頻繁に行われると。ヨーロッパでは常識なんですね。だから演出家(の僕)も降ろされる可能性はあった(笑)。ただ、いいものを作るために。そのへんの割り切り方が凄いですね。」

栗山民也ロングインタビュー③につづく!

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年04月13日 15:16 | TrackBack (0)