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REVIEW

2009年08月18日

DULL-COLORED POP『マリー・ド・ブランヴィリエ侯爵夫人』08/14-17新宿シアターモリエール

 DULL-COLORED POP(ダル・カラード・ポップ)は谷賢一さんが作・演出される劇団です。17世紀のフランスに実在した殺人鬼マリー・ド・ブランヴィリエ侯爵夫人を描いた、肉厚なセリフで紡ぐストレート・プレイ。

 新宿シアターモリエールで前売り3000円(DM割引だと2500円)の公演だと考えると、非常に見ごたえのあるチャレンジングな作品でした。上演時間は約2時間10分(途中10分の休憩を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『マリー・ド・ブランヴィリエ侯爵夫人

 谷さんはほぼ毎回「・・・・え?・・・マジで??」と一瞬疑いたくなるようなことに挑戦しています。自称“演劇悪魔”(笑)。今回は、新劇系の人気俳優を集めた大劇場のプロダクションのような“ド”ストレート・プレイ。
 まるで古典劇のように修飾の多いセリフには、詩のような美しさに挑発的なエグさが意図的に組み合わせられ、言葉自体への愛情(ともすると執着?固執?)があふれかえっています。いわゆる翻訳劇らしい口調で、人によって語られるためにあるセリフは味わい深いです。

 殺人鬼というと「残虐」「恐怖」というイメージがパっと浮かぶものですが、それが17世紀のフランス貴族女性だというと、急に「罪の甘み」「禁じられた官能」などが香ってきます。私が勝手に期待しすぎたからかもしれませんが、残念ながら役者さんの色気や作品全体のエロティシズムは物足りなかったですね。理不尽な征服欲を満足させた時の残酷な快感や、血なまぐささを進んで求める野獣のような強欲さなど、もっと首すじがゾクっとするような生々しさを感じたかったです。
 欲しいものを手に入れるために迷いなく人殺しをしていくマリーが、少しずつ追い詰められていく後半は、殺人鬼とその周囲の人々の顛末を知りたいという欲求をかき立てられ、わくわくしながら観られました。

 役者さんの中では、演じる役人物(マリーの夫)であることに隙がなかった大塚秀記さんが良かったです。

 ここからネタバレします。

 シアターモリエールの舞台上部のロフトをうまく使ったシンプルな美術でした。実はあのロフト、天井が低いので背の高い人は普通に立っていられないんですよね。舞台奥に下手から上手に向かって登る大きな階段を設置することによって、ロフトの高さから1段降りた踊り場で、立った状態で演技することができていました。

 教会の地下の貧民院、マリーの家、マリーの実家、マリーの義妹の部屋など、場面は頻繁に変わります。大道具は主にテーブルとイス数脚の1セットのみという環境で、ほぼシームレスに転換していったのがスピーディーで良かった。特にマリーの夫と愛人らがカードゲームをしているシーンと、マリーと愛人との密談シーンが重なる演出(および脚本)が面白かったです。

 「隠されたものは絶対に見えない」「いくら隠しても絶対に暴かれる」という相反する認識がすれ違うままに終幕。結局マリーは死刑になりますが、彼女がなぜあんなに突き進むことができたのかは謎のまま。マリーが残した(かどうかもわからない)毒薬が、誰か(マリーの実妹である修道女?)の手に渡ったかどうかも濁したまま。人間は自分でさえも自分の気持ちなんてわからないのだろうと思いました。

DULL-COLORED POPvol.8
出演:清水那保、堀奈津美(以上 DULL-COLORED POP)、大塚秀記、尾﨑宇内、久保亜津子(向陽舎)、酒巻誉洋(elePHANTMoon)、七味まゆ味(柿喰う客)、高橋浩利(オムニバス)、田村元、塚越健一、中田顕史郎、原田紀行(reset-N)、日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)、三嶋義信、宮嶋美子、百花亜希
脚本・演出:谷賢一 舞台監督:田中翼、照明:松本大介(enjin-light)、音響:長谷川ふな蔵、美術:土岐研一、衣裳:中埜愛子、頭髪美術:村山香菜、演出部:小林慧輔、演出助手:ピロリ、小林歩祐樹、制作:北澤芙未子(DULL-COLORED POP)、池田智哉(feblabo)
【発売日】2009/07/15 前売 3,000円 当日3,500円 学割:前売、当日共に1000円引
http://www.dcpop.org/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年08月18日 11:09 | TrackBack (0)