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2009年10月05日

マレビトの会『cryptograph(クリプトグラフ)』10/01-06こまばアゴラ劇場

 マレビトの会は松田正隆さんが作・演出される京都の劇団(過去レビュー⇒)。『cryptograph(クリプトグラフ)』はエジプト、中国、インド公演を経た東京公演です。

 セリフはありますが、象徴演劇みたいでした。ひとこと「難解です」と言い切れる作風です。でもわからなくても面白く観られる人は多いんじゃないでしょうか。私もその1人でした。上演時間は約1時間10分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『cryptograph(クリプトグラフ)

 舞台から受け取ったイメージは⇒昔の白黒写真、廃墟となった都市、戦場、墓標、博物館、ミイラ、亡くなった人々の記憶・記録・歴史、今この瞬間もすぐに過去になって朽ちて消え果てていく、など。
 2本の灰色の柱は⇒門、鳥居、狛犬、男女、二項対立、戦争、切り裂かれた国境、廃墟など。

 『島式振動器官』よりも理解しやすく、楽しく拝見できたのは、うっすら既視感があったからじゃないかな~と思います。例えば『溺れる男』や『悪霊』など。
 とってもセクシーでかっこいい女優さんがいる!と思ったら、やっぱり魚灯の武田暁さんでした。

 ここからネタバレします。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫ 発言はメモ程度ですので、完全に正確だというわけではありません。
 出演:松田正隆 佐々木敦 司会:劇団制作 森真理子

 「演劇は素人に毛の生えたほどしか観ていないし、マレビトの会は『声紋都市』に続いて2度目で、しかもこの作品は今まさにお客様と一緒に観たばかり」と謙遜してらっしゃいましたが、佐々木敦さんはさすがの鋭さで『cryptograph(=暗号器官)』を読み解いてらっしゃいました。松田さんとのお話もスムーズに進み、深いところまで詳しくお話を聞くことが出来ました。とても充実した、贅沢な内容だったと思います。

 ただ、果たしてそれが観劇体験として良かったのかというと、私にとってはあんまり・・・。というのも、作り手の具体的な意図を知ってしまったせいで、私が受け取ったイメージが薄れてしまったのです。時間が長かったせいもあると思います(1時間弱ありました)。ポスト・パフォーマンス・トークはすごくお得なサービスですが、作品によっては敢えて聴かないようにする勇気も必要ですね。

 トークに出てきたキーワード:イタロ・カルヴィーノ、ベンヤミンの「パッサージュ」、ゴダール「女と男のいる舗道」のヴェートーベン、謎と秘密の違い(謎は解かれるが、秘密は明かされない)、セリフ「何を言おうとしてなかったか、それは秘密だ」、など。

 俳優の演技方法についてお2人が話された内容には疑問が残りました。
 松田「俳優は役人物になりきるのが演劇界の前提だったが、俳優の演技方法はここ2、3年でめまぐるしく変わってきた。例えばチェルフィッチュの岡田君、岡崎藝術座の神里君、サンプルの松井君、KUNIOの杉原君など。“振り”を超えた説得力のある演技方法で、現在を担保しながら、亡霊を表せるかどうかに興味がある。」
 佐々木「たとえばワーキングプアの問題にしても、当事者性を押し出しすぎるのは、ある種の暴力ではないかと思っているので、私は(その考えに)共感します。」

 “役人物になりきる演技”とは一体どの演技のことを指していたのかしら。役になりきろうとしているのが透けて見える状態、役を自分自身に近付けた状態、役と自分が並列に存在している状態など、“役人物になりきる演技”といっても様々だと思います(観客の受け取り方によりますが)。日本でリアリズムの演技といっても、新劇のリアリズム演劇と心理的リアリズムは違うものですしね。

 俳優が登場人物その人であると観客が信じられた時、その人物像が鮮明になるだけではなく、むしろ人物と人物の間にある目には見えないものや、彼らの背後の世界、さらには今ではない過去や未来の風景が見える(ように感じる)ことがあります。“役人物になりきる演技”=“当事者性を押し出す”ととらえるのは早計ではないでしょうか。

≪カイロ(エジプト)、京都、北京(中国)、上海(中国)、デリー(インド)、ラクナウ(インド)、東京、名古屋≫
出演: 牛尾千聖 F. ジャパン 武田暁 西山真来 枡谷雄一郎 宮本統史 山口春美
作・演出:松田正隆 美術:奥村泰彦 衣裳:堂本教子 音響:宮田充規 照明プラン:福山和歌子 照明オペ:藤原康弘 映像プラン:山田晋平・遠藤幹大 映像オペ:遠藤幹大 舞台監督:夏目雅也 演出助手:米谷有理子・桐澤千晶 制作:森真理子・西村麻生 企画制作:マレビトの会
主催:マレビトの会 提携:(有)こまばアゴラ劇場・アゴラ企画
全席自由席 一般 前売:3,000円 当日:3,500円 学生&ユース(25歳以下) 前売:2,000円 当日:2,500円
http://www.komaba-agora.com/line_up/2009_10/marebito.html
http://www.marebito.org 

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年10月05日 23:23 | TrackBack (0)