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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年12月03日

イキウメ『見えざるモノの生き残り』12/02-07紀伊國屋ホール

 前川知大さんが作・演出される劇団イキウメの新作です。前川さんはなんと今年3作目の新作(⇒)。漫画原作も手掛けられるなど、今もっとも注目される若手劇作家・演出家の1人です。

 今回登場するのは座敷童子(ざしきわらし)。いい意味で予想を裏切られ、温かい気持ちに。初日はカーテンコールがダブルになりました。上演時間は約1時間50分。

 東京公演の前売り券予約は終了していますが、空席はあるので当日券がたくさん出るとのこと。「フラっとお越しください!」と制作さんがおっしゃっていました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『見えざるモノの生き残り
 ⇒TICKETS@TOKYOで当日券予約(前日18時より開演3時間前まで)
 ※レビューに舞台写真あり!初日に画像データをいただけて嬉しいです。

 ≪あらすじ≫
 都会のどこか。人知れず座敷童子たちが集合している。今日は七節と名付けられた若者(窪田道聡)の新人研修だ。ベテランら(板垣雄亮、有川マコト、森下創)は、それぞれに自分たちが棲んでいた家の話を始める。座敷童子がいる家には幸福が訪れるというが・・・。
 ≪ここまで≫

 私はイキウメのお芝居の、キリっとしていて、それできて柔らかい透明感のようなものが独特だと思います。それを肌で味わうのが好きです。

 キャッチコピーに“座敷童子の事例報告”とあるので、ちょっと怖い目のSFかしらと想像していたんですが、その期待はきれいに裏切られ、少人数の対話でみせる直球の人間ドラマに。笑いもほどよくあって難しく考えずに観られる、いわゆる「わかりやすさ」を備えたファンタジーでありながら、現代日本人(および座敷童子)がそれぞれに“幸福”を求めて、もがきながら生きる様を描いてます。

 誰もが幸福になりたいはずですが、何を幸福と感じるかは人それぞれ。そんなにバラバラな私たちだけど、誰かの幸福に介入したい(あの人に幸福になってほしい)と本気で思った時、人と人とが本当の意味で出会い、つながるのかもしれません。それが幸福なのだろうと思いました。

【舞台写真】左から:森下創、板垣雄亮、窪田道聡、有川マコト(撮影:田中亜紀)
20091202_miezarumono_no_ikinokori.jpg

 イキウメにとって2度目の紀伊國屋ホールですね(⇒1度目)。比較的すっきりした装置に出演者は8人と少なめですが、空間が余っているようには感じせんでした。前川さんの演出も役者さんも大きなサイズへと成長されているのだと思います。

 対話が説明ゼリフの応酬のように感じる瞬間もチラホラありましたが、初日でまだ固かったせいかも。東京公演の後には大阪、福岡ツアーがあります。全国を旅する劇団へと成長してくれたらと願います。

 ここからネタバレします。

 死んだことを自覚できていないなど、“ちゃんと死ねなかった”死者が、座敷童子になるという設定。基本的に座敷童子が語り部となって経験談を紹介していく構成ですが、座敷童子がいなくなった後(梅沢夫婦のその後など)が描かれているのがとても面白いと思います。

 はじめは太鼓打(タイコウチ:森下創)が滞在の“満期”を迎えることができた、梅沢夫妻(盛隆二、岩本幸子)のエピソードから。5才の子供を海の事故で喪った若い夫婦が、太鼓打のおかげもあってか、立ち直っていきます。
 次は新人・七節が若くして死んだ理由が明かされます。両親に借金を押し付けられた若い女(伊勢佳世)と、その借金を取り立てる七節の上司(浜田信也)のエピソードには、大ベテランの座敷童子・日暮(ヒグラシ:有川マコト)が起こした事件も含まれていました。

 太鼓打の話が始まった時はオムニバス形式かと思い、たぶん3話ぐらいはあるのだろうと予想したのですが、エピソードは2つで終わり。日暮が七節を一撃で殺してしまう最後のシーンが、いわば3話目だと思ってもいいかもしれません。“グリーンジャイアント”と“ハルク”の話はただのギャグではなく、日暮の怪力とつながり、最初と最後がくるりと丸くまとまりました。

 無言劇でじっくり見せた七節と日暮との“接触”場面に、有川マコトさんの魅力が凝縮していたように思います。あのシーンは別になくても成立はしていたと思うんです。でも敢えて見せるという選択が、前川作品らしいと思いました。

≪東京、大阪、福岡≫
出演:浜田信也、盛隆二、岩本幸子、伊勢佳世、森下創、窪田道聡、板垣雄亮、有川マコト
脚本・演出:前川知大 美術:土岐研一 照明:松本大介(enjin-light) 音楽:安東克人 音響:鏑木知宏 衣裳:今村あずさ 演出助手:石内エイコ 舞台監督:谷澤拓已 制作:中島隆裕 吉田直美 演出部:宇野圭一 棚瀬巧 渡邉亜沙子 ヘアメイク:前原大祐 照明操作:鳥海咲 宮田正芳 小道具:高津装飾美術 映像制作:原口貴光 大道具製作:C-COM舞台装置 宣伝美術:末吉亮 宣伝写真:渡辺辺マコト 舞台写真:田中亜紀 助成:平成21年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業) 稽古場助成:財団法人セソン文化財団 主催:イキウメ/エッチビイ株式会社
【発売日】2009/10/17 料金:前売 3,800 円当日 4,000 円(全席指定・税込)
http://www.ikiume.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年12月03日 11:25 | TrackBack (0)