2009年12月10日
グレイクリスマスの会『グレイクリスマス』12/09-20俳優座劇場
斎藤憐さんの戯曲『グレイクリスマス』を有志が上演する企画だそうです。初演は1984年。
出演者は三田和代さん以外、文学座、俳優座、劇団昴に所属する方々。文学座の高瀬久男さんが演出されます。“ザ・新劇”な座組みですね。上演時間は約2時間40分(途中休憩15分を含む)。
斎藤憐さんが劇場ロビーで著書にサインをされていました。とても面白い戯曲だったので購入(1050円)。
⇒CoRich舞台芸術!『グレイクリスマス』
≪あらすじ≫ イープラス内サイトより。役者名を追加。
敗戦の冬、伯爵・五篠邸はGHQに接収されることになった。アメリカ軍のサロンとなった五篠邸。敗戦国日本を理想国と夢みた日系アメリカ人ジョージ・イトウ(石田圭祐)とその理想に深く影響を受けることになる五篠華子(三田和代)。二人の心情を軸に五篠家の人々の生き方を通して、日本の原点を鋭く問い直す。
≪ここまで≫
開幕した途端、あまりの茶番劇にひるみました。でもわざと「ひどい芝居」をしていたことがわかり、私は一命(観客生命?)を取り留めました。戯曲にも「ひどい英語劇がはじまった」という戸書きがありました。
私が最近目にしている新劇の劇団公演における、ベテラン俳優の方々の演技のわざとらしさには、毎度驚かされます。でも主役の三田和代さんと石田圭祐さんが素晴らしかったので、いろいろと考えられましたし、感動もしました。
終戦直後の5年間、毎年五篠邸にやってくるクリスマスを描いていました。この戯曲を書くにあたって、斎藤さんがどれだけの書籍を読まれたのか(おそらく数百冊)。その果実をこうやって味わわせていただけるだけでも感謝しています。しかもハーフプライスチケットデーだったので2625円。安すぎです。
ここからネタバレします。
ジョージ「いいですか。憲法というものは、たんなる言葉です。どうにでも解釈できる。憲法を支えていくのはピープルです。ピープルの心が変わった時、憲法が変わるのです。それをわれわれは不遜にも、憲法を変えればピープルが変わると思ってしまった。……もう、この国は駄目です。力を持ったウィロビーたちは、日本を合州国の盟友たる強い日本に変えていくでしょう。ピープルたちに国が栄えることが、お前たちが栄えることなのだと言いだすでしょう。」
※戯曲「グレイクリスマス」109頁より。「合州国」は原文まま。ウィロビーとは日本の保守主義者と手を組んだ情報局のナチスト。
※レビューは短めです。
≪東京、ほか≫
出演:三田和代(㈱矢島聰子事務所)、神山寛(俳優座)、小笠原良知(俳優座)、児玉泰次(俳優座)、森一(文学座)、石田圭祐(文学座)、清水明彦(文学座)、長浜奈津子(俳優座)、米倉紀之子(昴)、若井なおみ(俳優座)、藤崎あかね(文学座)、藤川三郎(文学座)、斉藤淳(俳優座)、細貝光司(文学座)、齊藤隆介(俳優座)、小田伸泰(俳優座)、藤側宏大(文学座)、野々山貴之(俳優座)
脚本:斎藤憐 演出:高瀬久男(文学座) 美術:島次郎 照明:森脇清治 音楽:川崎絵都夫 効果:田村悳 衣装:前田文子 振付:新海絵理子 演出助手:福原圭一 舞台監督:井上卓 制作:山崎菊雄・片山義夫 デザイン:及部売人・海野温子 主催:グレイクリスマスの会(劇団俳優座内)
一般:5250円 学生:3675円 ※12/9、10はハーフプライスチケットデーで一般・学生ともに2625円。
http://eplus.jp/sys/T1U90P006001P0050001P002034007P0030001P0007
http://taste.reenta.jp/event/0000000533.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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【つぶやき】文化芸術推進フォーラム「『文化芸術による人づくり、社会づくり、国づくり』シンポジウム」に行きたかった(涙)
去る11/25(水)に文化芸術推進フォーラム主催「文化芸術による人づくり、社会づくり、国づくり」シンポジウム」が、日経カンファレンスルームにて開催されました。国外にいたため残念ながら私は拝聴できず。⇒芸団協提言まとめ
青年団制作部の野村政之さんが、討論の内容についてご自身のブログにまとめてくださっています(⇒1、2、3)。これはありがたい!
演劇が大好きで「あれが面白い」「これが凄い」と観客視点で観劇感想を書いてきた私ですが、それだけでは「劇場に通うことが日本人の習慣に」はならないのだと、認めざるを得なくなっています。「事業仕分け」関連記事⇒1、2、3
そもそも「文化・芸術は必ずしも人間に必要なわけではない」という考えを持つ方が、日本には多いのかもしれません。私にとっては文化・芸術が自分の生きる糧なので、ついつい前提としてしまっているんだと思います。高い場所から俯瞰するように演劇を見つめて、語る言葉を持ちたいと思います。
カテゴリー:【演劇教育】
開会:野村萬(文化芸術推進フォーラム議長)
提言:実演芸術による社会の将来ビジョン
討論:芸術の力が人と社会を変える-その仕組みづくり
パネリスト:金森穣(りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督/Noism芸術監督) 河村建夫(衆議院議員・音楽議員連盟副会長) 斉藤鉄夫(衆議院議員・音楽議員連盟副会長) 鈴木寛(文部科学副大臣・参議院議員) 仲道郁代(ピアニスト) 平田オリザ(劇作家・演出家)
主催:音楽議員連盟 協力:社団法人企業メセナ協議会/芸術がむすぶ絆・東京実行委員会 後援:社団法人全国公立文化施設協会/財団法人地域創造 助成:社団法人私的録音補償金管理協会(sarah)
http://www.geidankyo.or.jp/06gei/s-forum/new.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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ポかリン記憶舎『「垂る」-shizuru-」』12/09-13アトリエヘリコプター
明神慈さんが作・演出されるポかリン記憶舎の新作です。8月に出演者オーディションの告知をしておりました。五反田のアトリエヘリコプターに、横幅が広い木製の抽象舞台が出現。上演時間は約1時間20分。
登場人物の1人ひとりが粒だった存在感で、一定の緊張を保ちながら、ゆるり、ぎゅるりと空気をうねらせます。お芝居が終わった後、誰もいない舞台をじっと見つめながら、彼と彼らの残り香を存分に体にしみこませました。
⇒稽古場ブログには大きな写真がいっぱい。充実しています。
⇒CoRich舞台芸術!『「垂る」-shizuru-」』
≪あらすじ≫
都内某所。乗り物が来るのを待つ人々。和服姿の見知らぬ女性がやってきて、予言したことには・・・。
≪ここまで≫
木の板(すのこのようなデザイン)で出来た装置は、幅の細いスロープがシャープで、木の温かみとの組み合わせがおしゃれ。木々の間からもれる照明のほのかな明るさがきれい。暗さの調節で空気の重さが変わります。
前回と比較すると、一見わかりやすく親しみやすい筋書きがある作品です。会話の中から徐々に伝わってくるのは、登場人物の望みや悩みなど個人々々の私的なエピソード。それぞれの背景も丁寧に作られており、最初は群像劇のような印象もありました。
役者さんの演技は、会話をしていても1人ひとりが完全に独立しているように見える状態で、ちょっと違和感がありました。でも、いま見えているものの裏に別の流れが隠れていたのがわかった時、ぱらぱらとめくれるように疑問が晴れました。
優香役の成田亜佑美さんは、全身で呼吸をするように共演者とコミュニケーションを取って、時には大きく、時には小刻みに心を揺れ動かしているように見えました。私はそういう演技が好きです。ふるふると震え続けている感じ。
ここからネタバレします。
舞台は目黒川の水上バスの乗り場。潤(日下部そう)は恋人の優香(成田亜佑美)と最終便を待っています。若い夫婦(井上幸太郎&中島美紀)や車いすの老人(二瓶鮫一)とその介助者(本多麻紀)らが次々とやってきて、大きな声で携帯電話で話しまくる奇妙な女・舞(町田カナ)が、場の空気をざわつかせます。
和服の老女(桜井昭子)が告げたのは、彼女が見た凄惨な夢のこと。これから来る最終便に乗った者は全員、無差別殺人犯(=東谷英人?)に刺殺されるというのです。彼女の話を信じてその場を去る者もあり、そのまま待つ者もあり。潤と優香は「もし今、自分たち2人が死んだら」と話をふくらませ、少し離れた場所で体を重ねます。(あーもーこれがエロすぎた。「生でヤりたい」なんて露骨なセリフがなぜちゃんと官能的に成立するのかって、明神さんに聞いてください!)
このお芝居の主人公は潤。全ては、水際にやってきた彼が頭の中で想像した出来事だったとも考えられるでしょう。舞台にいる人々がバラバラに浮遊していたのは、このためだったんだと納得しました。
潤は舞の導きによって過去の記憶を思い出します。父が母を刺殺したため、彼は母方の祖父に引き取られて暮らしてきました。水上バス乗り場にかつてあった銭湯の煙突と、実は歩ける車いすの老人が吸ったタバコの煙が、母の遺体を焼いた火葬場を思い起こさせます。
育ての親となった祖父に父のことを全否定され、母不在の家庭で育った彼は、おそらく自分の命を肯定することできないまま生きてきたのだと想像できます。その彼が死を目前にして何を欲したか。彼は「愛する人との間に子供を残したい」と願い、実行したのです。
潤は自分の中にあった孤独の暗闇を見つめ、その奥底にあった生への渇望に気づいたのだと思います。舞台中央に一人で立ち、暗い明かりの中で、ゆっくり、ゆっくりと回転する潤の姿には、ひとつの命があらためて生まれ直すような、再生の意味が含まれていたのではないかと思いました。
ポかリン記憶舎♯16
出演:中島美紀 日下部そう 町田カナ 井上幸太郎 本多麻紀(SPAC) 成田亜佑美 東谷英人 桜井昭子 二瓶鮫一
脚本・演出:明神慈 音楽:木並和彦 舞台美術:杉山至+鴉屋 舞台監督:寅川英司+鴉屋 大友圭一郎 照明:木藤歩 音響:荒木まや 写真:松本典子?AD:松本賭至 衣裳:フラボン 演出助手:小杉美也子 黒木絵美花 橋本和加子 直原薫 由かほる?制作:フラボン 主催:ポかリン記憶舎?
【発売日】2009/10/02 前売3000円 当日3500円 平日マチネ割2500円 和服割2500円 (フラボンのみ取扱い) 学割 500円 ※要学生証 (フラボンのみ取扱い)
http://www.pocarine.org/mt/archives/2009/09/_shizuru.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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