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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年01月16日

黒田育世、BATIK『SePT独舞 vol.20黒田育世 黒田育世×飴屋法水「ソコバケツノソコ」』01/15-17シアタートラム

 黒田育世さん(BATIK)のソロダンスを飴屋法水さんが演出。私にとっては今月の必見中の必見公演です。観客はオールスタンディング、つまり座席がなく、私は上手側の階段のそばに立って観ました。上演時間は約1時間20分。

 最後の最後に、立ったままで観続けて本当に良かったと思いました。上演前に配布されるパンフレットを読んでおくと、理解の手助けになるんじゃないかと思います。明日の16:00の回で千秋楽です。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ソコバケツノソコ
 レビューをアップしました。また長くなってしまいました。短く書く才能も勇気もないようです・・・。

 何もないシアタートラム。客席もないので広々としています。黒い床には白いチョークで何かの印が書かれており、どうやら装置を置く場所を示す場みり(ばみり)のよう。真ん中には穴。飴屋さんが開演前に穴の淵をチョークでぐるぐると色塗りしたので、白い線がチョークで書かれたことがわかりました。

 観客はステージを丸く囲むように座ってたり、立っていたり。私は床に鞄を置いて、たまに階段の手すりにもたれたりして鑑賞。※中央に近いところに座っていた観客の方々には、開演前に誘導のスタッフが座るように声をかけていたそうです。

 やはりずっと立っているとつらくなります。途中で座ろうかと思った瞬間もありました。でも心配になるぐらい激しく踊る黒田さんを観ていると、どうしても休む気にはなれず。妙な忍耐根性がむくむくと出てきて(笑)、立ち続けてました。飴屋さんのさすがの音響で、床から足に伝わる振動も効果大でした。

 どこまで書くとネタバレになるかわからないので、ひとことだけ。最後は私が黒田さんになって踊っている気持ちになったんです。そんな奇跡でした。

 ここからネタバレします。固有名詞やセリフはうろおぼえです。

 無数の運動靴(黒田さんの私物かしら)。黒田さんがずっと習っていたクラシックバレエの衣裳。静かにイスに座っている老婦人。大きなクマ。黒田さんの幼い頃から今までの写真が壁に映写されますので、おそらくこの作品は黒田さんご自身。実生活もプライベートな心の中までも、そのままに晒(さら)します。

 目の前に座っていた女性客に名前をたずねた黒田さん。その人の名前を何度か繰り返し、記憶している様子。でも私には何という名前かは聴こえませんでした。他にも聴こえないセリフが多かったですが、全く気にならず。

 全身全霊、というありきたりな言葉では陳腐なんだけど、でも文字通り、張り裂けるんじゃないか、突然に壊れて朽ちてしまうんじゃないかと恐ろしくなるぐらいに、黒田さんは踊り続けます。消耗しきった状態で「私の名前は・・・」「私の名前は・・・」とつぶやくので、次には「黒田育世です」という言葉が続くのだろうと予想しました。“黒田育世”という命が、目には見えない激しい震動を身体の中に抱いて、限界に届きそうなぐらいにその身体を動かし続けるのを見つめ続けました。ああ、今ここに、私の目の前に、確かに“黒田育世”が存在している。嘘のない、むき出しの“黒田育世”が、私(=観客)に向かって手を伸ばしてくれている、抱きしめようとしてくれていると思いました。
 でも私の予想は完全にはずれ、聴こえてきたのはこの言葉でした。
 「私の名前は・・・ハットリミキさんです。」

 それはさっき黒田さんが繰り返していた女性客の名前。つまり私(=観客)の名前でもあるのだと気づきました。黒田さんは“黒田育世”でありながら“ハットリミキさん”になり、私(高野しのぶ)になったのです。背筋と肩にとても奇妙なしびれが走りました。シアタートラムがぐにゃりと歪んで、空気がゼリーみたいに固まって弾力を持ったような気がしました。またもや激しく踊り続ける黒田さんは、ハットリミキさんであり、私自身であるので、つまり劇場にいる全員が黒田さんになって踊っていたことになります。全員が黒田さんを媒介に一体化して、互いに手を伸ばし、抱きしめ合っているよう。こんなことは全て私の思いこみです。でもそう感じたのだから、奇跡でした。

 身体を揺らしながら音響のオペをする飴屋さん。単純な振り付けをずっとずっと繰り返し続ける役者さんたち。1度たりとも全く同じことなどない“繰り返し”を見つめ続けられたのもすごく良かった。
 
 「バケツの底」の意味を勝手に想像。バケツは黒田さんで、つまり人間。穴があいたバケツに、(北斗七星の)ひしゃくですくった水を入れても漏れてしまいます。いくら汲んでも、すべては汲みきれない。どんなにがんばっても、願いは叶わない。いつも何かを逃してしまう。だから、どんなに絶望しても絶望しきれない。穴のあいたセイフティー・ネットとか、限界のなさのイメージも。
 掃除機で中央の穴を吸引し続けるのは、バケツから水を吸い出すイメージ。何もかも空っぽにして、逆噴射させて、振り出しに戻って、そして人間と人間がつながる。

出演・振付:黒田育世(BATIK) 出演:グジェゴシュ・クルク、立川貴一、村田麗薫、くるみ
演出:飴屋法水 構成:飴屋法水 黒田育世(BATIK) 舞台監督:寅川英司+鴉屋 演出部:河野千鶴、濱路紗優里、林佳美 大道具:大津英輔+鴉屋 照明:岡野昌代(Picoler) 照明操作:宮坂美樹(Picoler)、山田圭(Picoler)、櫛田晃代、熊谷康子 音響:飴屋法水 音響協力:田島誠治(SoundGimmick) 音響助手:浜里堅太郎 演出助手:西島亜紀 衣裳:コロスケ 映像製作:池田野歩 宣伝美術:鋼鉄児童会グラフィコ 制作進行:土屋彩子 制作:山辺千秋 プロデューサー:高樹光一郎 Special Thanks : 松本じろ、mindy 主催:黒田育世、BATIK 提携:財団法人せたがや文化財団、世田谷パブリックシアター 助成:日本芸術文化振興基金 協賛:TOYOTA創造空間プロジェクト 協力:東京芸術劇場(財団法人東京都歴史文化財団) 後援:世田谷区 制作:ハイウッド
【発売日】2009/11/25全席自由(オールスタンディング)一般3,500円/当日4,000円 ※学生3.000円(ハイウッドにて前売りのみ取扱い) 友の会会員割引 3,300円 世田谷区民割引 3,400円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2010/01/sept_vol20.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年01月16日 23:33 | TrackBack (0)