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2010年03月08日

東京芸術見本市/TPAM2010「平田オリザvs 岡田利規 対談 vol. 1」03/01東京芸術劇場大会議室

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TPAM2010ポスター

 東京芸術見本市/TPAM2010で平田オリザさんと岡田利規さんの対談が2日連続で開かれると知り、朝から池袋にテクテクと出かけました。⇒連続対談 vol. 2

 午後からは「パネル・ディスカッション:芸術見本市のこれから」も拝聴しました。

 ●3月1日[月]10:00~12:00/東京芸術劇場 大会議室
  平田オリザvs 岡田利規 連続対談 vol. 1 ⇒詳細
  「私たちは何を成し遂げ、どこに向かっているのか― 真の公共劇場とは何か?」

 以下、私がメモした内容です。

 ■スピーカーの活動紹介および日本の現状解説(海外の参加者にも向けて)

 平田さんの活動紹介は、PCの画像とともにご自身でプレゼンテーションされました。メモを取ってません。

 岡田「新作『わたしたちは無傷な別人であるのか?』で言葉と身体を切り離すことをした。具象ではない表象をした。例えば髪を引っ張る動作でワインが入った紙袋をぶらさげていることを表したり。話し言葉を書くことをやめて、書き言葉を書くことをした。身体表現についても具象をやめた。観客の内部で具象を完成させる。」

 岡田「1つの作品を繰り返し上演することでしか獲得できないものがある。作品が成熟し、強くなる。そして公(パブリック)なものになる。“パブリックとは何か?”という問いについては、安易な回答は出したくないけれど。」

 平田「日本は遅れて近代化したため、思想・哲学については、ヨーロッパの現代思想の紹介をするに留まってきた。また、60年間政権が変わらなかったことで、批評のための批評ばかりが生まれ、ルサンチマンとなることが多かった。」

 平田「私には劇言語に対する違和感があった。例えば強弱アクセントを使っていることへの違和感。演劇でしか使われない、日本語ではない変なアクセントなど。英語で“This is a cup”というセリフの“cup”を強調したい時は、“cup”を大きなアクセントで言う。でも日本語の場合は“コップ、コップ”と名詞を連続させる。仏語は名詞の連続を嫌うので、決して“コップ、コップ”とは言わない。その代わり指示代名詞が非常に多くなる。それは自分にとって大きな発見だった。」

 平田「80年代まで演劇は日本語のようで日本語でない奇怪なシステムで上演されていた。意図されていないままに。それは翻訳劇から始まったのだろう。」


 ■“新しい”方法論

 岡田「チェルフィッチュは、観客に対して俳優が話しかけることをした。でもそれはブレヒトがすでにやっていた“観客を変容させること”。ヨーロッパでは既に一般化されているものだった。」

 平田「昔、私の芝居についての劇評(か何か)で“音楽を使わないことには勇気がいっただろう”と書かれていた。でも今は音楽のない芝居は当たり前。方法論として定着させるには時間がかかる。」


 ■“リアリズム”について

 平田「“リアリズム”という言葉はヨーロッパでは“退屈なもの”という印象。」※岡田さんも同意。

 平田「人間は外界からの影響や他者との関係があってしゃべってる。つまり常に主体的にしゃべっているわけではない。何かに影響されてしゃべる(※岡田さんも同意)。“しゃべらされる私”というのは岩松了氏がよく示していた。」

 岡田「演劇は具象が不得意なメディア。具象しようとすると無理が大きい。齟齬を隠そうとすると、本質がネガティブになってしまう。隠すことなき表象から立ちあがるのが演劇の最も興味深い点だ。」

 平田「たとえば“舞台上で死ぬ”ことは難しい。拙作『S高原から』のラストシーンは患者がイスに寝転んでいる場面で終わる。それを死んだと受け取るか眠っていると受け取るかは観客次第。半数が死んだ、半数が寝ていると受け取るバランスを意図して上演。」


 ■日本の今の創作環境について

 平田「再演のシステムが成熟する必要がある。2002年に新国立劇場が韓国と共同制作した『その河をこえて、五月』は、実験性と大衆性を兼ね備え成功した珍しい作品。日本と韓国の両国で名誉ある賞を受賞した。でも初演時は海外(韓国)に持って行ってコストを回収するシステムがなかった。結果、ノーギャラ(誰がノーギャラなのかは詳しく言及されませんでした)で韓国公演を敢行した。再演が2005年だったので、初演でコスト回収が必要だった。」

 平田「プロデューサーが不足している。アーティストに新しい文脈を与えるのがプロデューサーの仕事。たとえば私に女子高生の芝居を書くよう勧めてくれたのは、当時の青山円形劇場のプロデューサーで、現在北九州芸術劇場のプロデューサーの能祖将夫さん。そして出来たのが『転校生』。私が教育方面に向いているということを、あの時に見抜いていた。」

 岡田「(今の日本における)プロデュース公演で自分の作りたいものを作るのは難しい。2008年、2009年に日本の公立劇場と作品を作ったが、非常に困難だった(雑誌「悲劇喜劇」にも書いたこと)。」


 ■劇場法について

 岡田「劇場ばかりに力が集中することに不安を覚える。」

 平田「アーティストが安定して、継続して、集団で創作ができる場所が必要。国際競争力のある作品を国内で継続的に創作する環境が必要。この秋にも日本で施行予定の劇場法では、フランス国立演劇センターのシステムに近いものが作りたい。ピーター・ブルックやアリアーヌ・ムニューシュキン(太陽劇団)は劇団たらざるを得ないので、それは例外として。若い人たちのためにも。せっかく作るのだから育てて長く持たせたい。」

 平田「劇場法は決して実現が難しいシステムではない。たとえば青森県で公演する場合、300席の劇場を3ステージ満員にできればいい。それならカンパニー(および劇場)にとってそれほど無理な話ではないだろう。青森県の劇場が1000人の支援会員を獲得することは不可能ではない。演劇に1公演3000~5000人の観客動員は必ずしも必要ではない。かつて演劇鑑賞会は30万人の会員を獲得していたのだから可能。」

 平田「劇場が若い優秀なスタッフをかかえ、観客組織も劇場がつくればいい。劇場がお客さんを育てる。日本は世界有数の劇場大国でリソースはあるのだから、手間暇かければできないわけではない。失敗もあるだろうけど、不可能ではない。問題はやる気。やる気を支えるシステム。」


スピーカー:平田オリザ[青年団主宰・劇作家・演出家・大阪大学大学院教授]/岡田利規[チェルフィッチュ主宰・演劇作家・小説家]
モデレーター:丸岡ひろみ[東京芸術見本市 事務局長]
*「平田オリザvs 岡田利規 対談 vol. 1」と「芸術見本市のこれから」は、1,000円でご参加になれます(事前申込み不要)。
詳細:http://www.tpam.or.jp/2010/seminar.html
「TPAM2010ポケットガイド」ダウンロード⇒http://www.tpam.or.jp/2010/docs/TPAM2010PocketGuide.pdf

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年03月08日 16:55 | TrackBack (0)