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しのぶの演劇レビュー
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2010年05月12日

劇団、本谷有希子『甘え』05/10-06/06青山円形劇場

 本谷有希子さんの新作のテーマは“夜這い”。主演に小池栄子さんを迎えた大人の5人芝居でした。
めちゃくちゃ面白かったです!全く躊躇せず、大きくダブルコール(カーテンコールで2度目の拍手)をしました。

 内容から振り返ると『甘え』というタイトルが素晴らしい!女性だから書ける脚本なのではないかと思いました。本谷さんは青山円形劇場の使い方もお手の物ですね。美術、照明、音響(および音楽・選曲)、衣裳などあらゆるスタッフワークが充実。贅沢なお芝居でした。上演時間は約1時間50分。

 ⇒「劇団、本谷有希子」公式ツイッター
 ⇒CoRich舞台芸術!『甘え
 レビューをアップしました(2010/05/16)。

 ≪あらすじ≫ 
 父から虐待を受けながらも家から出ることができない順(小池栄子)。母はいない。父に新しい恋人(広岡由里子)ができたのだが、全くウマが合わない。
 ≪ここまで≫

 白いカーテンで囲まれた空間が一部客席にせり出している、ほぼ円形の舞台。薄いオレンジ色のタイル(のような柄)が敷き詰められたステージ。光の加減によって、水で濡れているようにも見えます。水には危うさや罪のイメージも香ります(例:韓国映画「春夏秋冬そして春」)。
 中央にはステージと同素材の、人が寝られる大きさのまな板のような、ベッドのような台。周囲の床は斜めになっていたり、穴があいていたり、とても不安定な印象です。

 ダメだとわかっていてもやめられない、他人にそれを指摘されたら逆ギレするキャラクターは、ポツドール(=三浦大輔さんが作・演出される劇団)作品の登場人物に似てる気がしました。何でも他人のせいにするんですよね。「僕が抱いたんじゃない、君が誘ったからだ」とか。
 でも、本谷作品の登場人物は考えに考えています。頭をすごくよく使っている。自己流ながらも必死に考えた末、結局またぐるぐる回ってもとに戻ってくる。頭でっかちで行動が伴わない(まわりくどい・素直じゃない)のは、現代の若者をよく表していると思います。何らかの行動を起こせた場合はその理由づけ(いいわけ)を考えてしまうし、成功しても失敗しても原因を何か(誰か)に求めます。むしろ先を予想してしまうから、行動できない。賢いからこそ、動けない。

 読書家で賢い順の心の中の叫びや妄想を、劇中劇のように表現するのも面白いです。順は体を動かさず頭だけを使っているはずですが、観客の目に見えるのは、舞台で激しく動く役者さんの身体なんですよね。
 タイトルの“甘え”には誰かのせいにする(他人に依存する)という意味はもちろんあるでしょう。でも私は、頭で考えたことの責任を身体に取らせる、頭脳が身体に依存している(甘えている)ことを表しているのではないかと思いました。

 小池さんのナイスバディーを完全に封印した衣裳で、演技と作品自体にフォーカスしたのが憎い!(素晴らしいと思います) 先輩役の水橋研二さんの衣裳は足元(靴とズボンのすそ)がピンク色に染色されていて、肉欲、そして罪がうまく象徴されていると思いました。
 水橋さんの高くて可愛らしい声と、役柄の不道徳な行動および支離滅裂な言動とのアンバランスさがものすごく面白くて、何度もツボに入り笑ってしまいました。

 ここからネタバレします。

 賢いから考え過ぎてしまう。振り返って反省ばかりしてしまう。自分が悪いと思ってしまう。じゃあ賢い頭を総動員して自分が変わればいいんだけど、そう簡単には変われない。自分は変わってもいいんだ、自分は絶対変われるんだと思える出来事が必要。頭では無理だから、体に何かを起こさなければ。だから、複数の見知らぬ男たちに、夜這いされることにする。
 順「私よ、みそがれよ!」

出演:小池栄子 水橋研二 安藤玉恵 広岡由里子 大河内浩
脚本・演出:本谷有希子 美術:中根聡子 照明:小川幾雄 音楽:渡邊琢磨 音響:藤森直樹(Sound Busters) 衣裳:畑久美子 ヘアメイク:二宮ミハル 演出助手:相田剛志 舞台監督:宇野圭一+至福団 美術:新上ヒロシ+上野友美(ナルティス) 宣伝写真:渞忠之 宣伝ヘアメイク:二宮ミハル、奥野展子 宣伝スタイリスト:澤田石和寛 衣裳協力:TADASHI SHOJI WEB製作:ACTZERO 票券:脇本好美 当日運営:宍戸円 制作助手:嶋口春香、杉田香奈恵 制作:寺本真美 協力:青山円形劇場 企画・製作:ヴィレッヂ・劇団、本谷有希子
【休演日】5/14,21,28 6/2【発売日】2010/04/03 料金:6,000円(全席指定・税込)未就学児童入場不可。
http://www.motoyayukiko.com/next_performance/
http://www.motoyayukiko.com/performance/amae/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年05月12日 21:57 | TrackBack (0)