REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2010年05月21日

THEATRE MOMENTS『マクベス-シアワセのレシピ-』05/20-23シアターX

 THEATRE MOMENTS(シアターモーメンツ)は佐川大輔さんが構成・演出される劇団です。“フィジカルシアター”と呼ばれる身体表現でみせる演劇なんですね。
 古典戯曲だけでなく童話なども上演してこられています。今回は第14回公演でシェイクスピア原作『マクベス-シアワセのレシピ-』の再演。上演時間は約1時間40分。

 「CoRich舞台芸術まつり!2010春」審査員として拝見しました(⇒91本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。

 ⇒CoRich舞台芸術『マクベス-シアワセのレシピ-

 ■予言に翻弄されるマクベスを現代に読み替える

 シンプルな装置の中で、主に身体表現で戯曲を立体化するスタイルでした。想像していたよりも原作に忠実で、初めて「マクベス」を観た人にもその内容があらかたわかるようになっていたことに好感を持ちました。主人公マクベスは三人の魔女の予言に翻弄されますが、それを現代に読み替えた演出がとても面白かったです。

 オープニングの「観客の恋愛体験をその場で手短に演じてみる」という余興(ガチンコ馴れ初め芝居)は、個人的には好きにはなれませんでしたが、舞台から役者さんが観客に気さくに話しかけ、希望者全員に飴を配るサービスづくしの幕開けには、劇団の姿勢がよく表れていて感心しました。ロビーでは絵画展が併催されており、演劇鑑賞の窓口を広げる工夫もされています。
 初日はシアター・カイが通路席まで埋まっており、劇団の固定ファンを大勢獲得されているのがよくわかりました。

 受付に長蛇の列ができており、スムーズに客席につけたとは言いがたい状況でした。終演後に演出の佐川大輔さんとお話させていただいた際、作品の感想と一緒にそのことをお伝えしたところ、真摯に聞き届けてくださいました。翌日からは具体的に改善されていたようで、観客への誠実な対応を嬉しく思いました。

 ここからネタバレします。

 衣装は末広がりのパンツ・スーツで統一しつつ、中に着る白系のインナーやヘアメイクで個人差を出していました。統一イメージで俳優を記号化し、演じる役が次々に変わっていくことで、物語の普遍性を伝えられていたと思います。
 マクベスとマクベス夫人を演じる役者さんをある場面から変えることで、2人のおかれた状況および精神状態が大きく変化したことを示すのは、演出家の解釈がはっきりと表れて面白いです。

 フィジカルシアターとはいえ心理描写は非常にリアル。メソード演技の技術を感じさせました。たとえば、王位には就けたが心の静寂を失ってしまったマクベス(山本悠生)が、マクベス夫人(絵理)に「お前のせいでこんな目に遭った!」と涙を浮かべて逆ギレする姿に、爆笑できたんですよね。「演技をしている人たち」を眺める階層から、「自分のことを棚にあげて誰かに当り散らす困った人」を目の当たりにする階層へとジャンプできたからだと思います。

 赤い糸と紙(新聞紙)、てるてる坊主などの小道具の使い方も効果的でした。
 敵兵に囲まれ孤立したマクベス(佐川大輔)は、新聞記事を身にまといながら舞台をぐるぐる走り回ります。それはTVコマーシャル、ノウハウ本、占い、噂話などに翻弄される現代人を表していました。

 個人的にもったいないと思ったところを数点。ダンカン王を演じていた山本悠生さんが、後でマクベスを演じていたのには違和感がありました。1人1役ではないものの、メインの役柄については固定イメージがつく演出だったので、違う役者さんにしてほしかったです。
 マクベスを破ったマルカム王子が勝利宣言をする場面は、できれば皮肉な視点も盛り込んで欲しかったですね。最初の場面のリプライズになり、パタっと突然とぎれるような幕切れも物足りなかったです。

 マクダフのエピソードをカットして「母の腹をやぶって生まれてきた」のをマルカム王子にするのは、思い切った選択ですが巧い工夫だと思えました。


出演:佐川大輔、中原くれあ、矢ヶ部妙子、松浪淳平、青木まさと、山本悠生、小暮智美、宮山知衣、南早希、絵理(嘉月絵理改め)、矢原将宗
原作:W・シェイクスピア 演出:佐川大輔 IMAGINATION:all members 原作:W・シェイクスピア 構成・演出:佐川大輔 音響:寿島宅弥 音響操作:越川徴郎 照明プラン:清水義幸(カフンタ) 照明操作:白浜若奈 舞台監督:江連亜花里(カフンタ) 舞台美術:根来美咲(劇団青年座) 衣装:有島由生 宣伝美術:下元貴心 宣伝・舞台写真:prayer 宣伝キャスト写真:basigrapher ビデオ撮影:株式会社キャット WEB:まさ&マツタケ 稽古アシスタント:三石美咲 製作:THEATRE MOMENTS 翻訳協力:小田島雄志先生(白水社Uブックス「マクベス」) 大道具:U-MAX
【発売日】2010/03/20 【全席自由席】 大人 早割3,000円 / 前売3,500円 / 当日3,800円 高校生以下 早割2,000円 / 前売2,500円 / 当日2,800円 【リピーター割引】自由席:1,500円
http://www.moments.jp/play14/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2010年05月21日 10:38 | TrackBack (0)