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しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年10月13日

【写真レポート】新国立劇場演劇「『わが町』制作発表」10/12新国立劇場オーケストラリハーサル室

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『わが町』ポスター

 新国立劇場の『わが町』制作発表に伺いました。『わが町』は1938年に書かれたアメリカの劇作家ソーントン・ワイルダーの戯曲で、ピュリッツァー賞を受賞している世界的な名作です。

 演出の宮田慶子さん曰く、「日本中の俳優養成所が上演していて、私の世代の演劇人で、この作品を通過してない人はいないぐらい有名」。私も数バージョン拝見しています。

 実は今年から来年にかけて、『わが町』の上演ラッシュなのです。文学座公演WiWiWilder企画JAM SESSION公演静岡舞台芸術センター(SPAC)公演俳優座劇場プロデュースの音楽劇など!
 新国立劇場の『わが町』はどんな『わが町』になるのでしょうか。宮田さんと新訳を担当した水谷八也さん、豪華キャストの皆さんが意気込みを語ってくれました。

 ●新国立劇場演劇『わが町』
  期間:2011年1/13(木)~29(土)
  会場:新国立劇場中劇場
  一般発売日:2010年10月16日(土)10:00~ 
  価格:S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円
  ⇒公式サイト
  ⇒CoRich舞台芸術!『わが町
【出演者写真】
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【宮田慶子さん(芸術監督・演出)】

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 宮田「シーズンテーマのひとつである「JAPAN MEETS・・・─現代劇の系譜をひもとく─」では、近代以降に日本が出会ってきた海外の優れた作品、非常に大きな影響を与えた作品を4作品上演します。『わが町』は『ヘッダ・ガーブレル』、『やけたトタン屋根の上の猫』に続く3作目です。
 大きな特徴は、どれもカンパニーに合わせた新翻訳をしていること。『ヘッダ…』も『やけた…』も新しい翻訳をほどこすことで、今の時代に上演することに大きな意味があったと実感しました。『わが町』の台本はとてもわかりやすく、具体的に、今のお客様の心に響くものに仕上がっていると思います。

 『わが町』が書かれたのは1938年、昭和13年ぐらいです。プロセニアムアーチという劇場の枠だけが存在する何もない舞台で、役者の演技が無対象でおこなわれ、スピーディーに場面転換していく。現代演劇のもととなったスタイルを確立させた、演劇史的にも大きな意味のある作品です。今公演においても基本的に何もない空間をつくりたいと思っていますが、稲本響さんのピアノの音楽という、目には見えない、大きな世界観の中でこの物語を展開したい。

 出演者には理想的な面々にお集まりいただき、わくわくしています。『わが町』はアメリカの田舎を舞台にした、とても大きな主題を抱えた作品です。人間の日常の営みの素晴らしさや、人間が恋をして結婚して家族を作り、やがて死んで次の世代へと渡していくという普遍的な大きなテーマを、皆さまにおなじみの素晴らしい俳優と作っていけることが、何よりこの作品を具体的に届けられるポイントだと思っています。

 若者役のオーディションを実施して、1500人の中からエミリー役に佃井皆美さんを選ばせて頂きました(⇒告知エントリー)。15人のBOYS and GIRLS(アンサンブル)もその中から選抜しました。大きな町の話なので色んな年齢の方がいるといいなと思い、蜷川幸雄さん率いるさいたまゴールド・シアターから8人のメンバーに参加していただきます。最高齢が81歳という、素晴らしくパワフルなおじいちゃん、おばあちゃんたちです。本当に楽しみです。キャスティングも素晴らしく、稲本さんのピアノの生演奏、そして新訳と、たくさんの見どころのある作品です。ぜひ皆さんに足を運んでいただき、楽しんでもらいたいと思っております。」


【水谷八也さん(翻訳)】

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 水谷「『わが町』は驚くべきことに日米大戦前の1939年に翻訳され、日本初演は1941年。長岡輝子さんの演出により文学座で上演されました。何度も何度も上演されているんですが、ストーリーに限っていえば全く平凡な、たいして面白くないような話なんです。しかしワイルダーは言葉の外側に、劇の構造などの色んなものを埋め込んでいて、それを感じさせてくれます。今回は稽古の中で、さまざまな見えないもの、最近の科学の言葉では“ダークマター”と言いましょうか、それを探って行ければと思っています。
 『わが町』はこれまでに数種類の翻訳が出ています。単純で平凡な話なので差別化は難しいですが、私は敢えて“死”が尖って出てくるような言葉で、たとえば「亡くなる」といった表現じゃなく、死そのものがイメージされるような訳を心がけました。
 ワイルダー作品はある程度評価が定まっているのですが、知られてない側面もたくさんあるんです。たとえば彼は非常に奇妙な、3分間で終わる芝居をたくさん書いたりしています。そういうことを宮田さんや役者の方々にお話しながら、外側から少しずつ刺激を与えていければと思っています。このカンパニーでできることを楽しみにしております。」
 ⇒マンスリー・プロジェクト
  2011年1月21日(金)14:30/22日(土)17:00
  演劇講座「彼が舞台をハダカにしたワケ-演劇史と近代史の交差点でワイルダーを見る-」
  講師:水谷八也(翻訳家・早稲田大学教授)
  ゲスト:『わが町』出演者(ボーイズ&ガールズ)

【小堺一機さん(舞台監督役)】
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 小堺「舞台監督という役は、お客様と、舞台である町との懸け橋でありつつ、時には演者にもなるということで、びっくりしました。どうやったらいいのかは、それこそ水谷さんがおっしゃった“ダークマター”というか(まだ目には見えない)。今は真っ白な状態になっておいて、稽古を通じて色んな絵を描いていただこうと思っております。
 何度も読み返してみて、“なんでもないこと”が実はすごく“なんでもあること”なんだと、最後にグっとわからせてくれる脚本だと思いました。アクセルを踏みながらブレーキを踏むことのないように、いいアクセルが踏めるように、がんばりたいと思います。」


【斉藤由貴さん(ギブズ夫人役)】
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 斉藤「『わが町』は芝居好きの姉が出たお芝居で観たことがありました。何にもないところから始まるのが、すごく不親切で、いいなと思ったのを憶えています。私の人生は何でも、最初からお膳立てされたところから始めることが多かったので。それについては感謝すべきことなんですけど。
 何もないところから不親切に始まって、お客さんが身を乗り出して「ん?」と考えてくれることって素敵だなと思います。自分が芝居の中でどんな役割を担うのかは、稽古に入って本番が始まるぐらいまで探っていくことになると思いますが、このお話に参加できることがすごく嬉しいです。」


【鷲尾真知子さん(ウェッブ夫人役)】
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 鷲尾「このお話をいただいた時、『わーっ!』と大きい声をあげました。18歳の時、劇団NLTの卒業公演で『わが町』第一幕のエミリーを演じさせていただいたんです。まだ18歳でしたから、それぞれのシーンを全部覚えてます。こないだやった芝居は忘れてますけど(笑)。
 自分の感性がピュアで色んなものを吸収できる時に、エミリーとして舞台に立ちました。だから『わが町』と聞いただけで感情的になってしまうんですね。でも今回は感情的にならず、冷静になって“お母さん”を演じたいです。日常を大事にして、子供を愛し、ご主人を愛するお母さんを。18歳の時は気づけなかったことに、今では気づくことができています。だから年をとるって素敵だなと思ったりもしています。この作品に参加できることが私にとって本当に幸せなんだということをかみしめて、初日まで、このたくさんのメンバーといい稽古ができることを願っております。」


【相島一之さん(ドクター・ギブズ役)】
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 相島「私は鷲尾さんと逆で、48歳で初めてこの作品に出会うことができました。20代から芝居は始めていましたが、私は当時、大学の小劇場劇団にいて『新劇なんか、古典なんか、なんだ!』みたいに(反発して)突っ走ってきましたので、そのあたりの教養が欠けております。
 はじめて『わが町』を読んで、この年になってわかることなんですけど、これは大変な台本だと思いました。何も、ないんですよ!本当に!さりげないといえばさりげないし、終わり方もあっけない。そこが一番難しいと思いますし、今まで何十年も演じられてきた理由であり、一番重要なことだと思うんです。この年で初めてこういう作品に出会えたことをとても感謝しています。すごく大変なんだろうな~という緊張感もあり、楽しみでもあります。どんな風にでも変われるお芝居だという気もします。ぜひ皆さん、観に来てください。」


【中村倫也さん(ジョージ・ギブズ役)】
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 中村「相島さんもおっしゃってますが、この台本には無限に近い可能性があると思いました。チームによって色んな作品になるんだろうなと思います。役者が無対象で話すということも、すごく怖いですし、プレッシャーです。でもそこに負けないで、ストイックにこの作品を楽しみながら、日常というものを舞台で表現して、いいものを作れたらと思っています。」


【佃井皆美さん(エミリー・ウェッブ役)】
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 佃井「『わが町』という作品に出会って、人生観が変わるぐらい素敵な作品だと思いました。読んでいて胸がいっぱいになりました。そんな作品のエミリー役をやらせていただけて、ありがたいです。1500人の中から選んでいただけたこともあり、たくさんの人の期待に応えられるよう、精いっぱい頑張りたいと思います。」


【稲本響さん(作曲・ピアノ生演奏)】
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 稲本「ソーントン・ワイルダーの時代に合わせて、ちょうど1900年代前半のニューヨーク・スタインウェイ(のピアノ)をトラックで中劇場に運び込んで、毎日、生で演奏させていただきたいと思っています。宮田さんがおっしゃったように音楽は目に見えないですが、皆さんの心に浮かぶような音楽を作り上げていけたらと思っています。
 曲はすべてオリジナルで書きおろす予定で、今、作っている最中です。録音だと事前に作るのですが、今回は初日ギリギリまで曲を作っていたいなと。〆切を伸ばしてくださいという意味ではなく(笑)。キャストの皆さんの空気感や思いを感じながら、自分で毎日演奏できることに喜びを感じています。それが一番楽しみです。」

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■大きな空間で『わが町』のスケールを表現/翻案はしな
 宮田「新国立劇場の中劇場は非常に大きな空間なので、演出家としては怖くもありますが(笑)、逆に言えば、ミクロから宇宙まで広がる『わが町』のスケールを、中劇場ならではの空間を生かして作りたい。
 『わが町』はよく翻案もされていて、たとえば来年3月には柴幸男さんが『わが町・可児』をお作りになられるようですが、今回は日本の町を舞台にして翻案するのではなく、ワイルダーのオリジナルの台本を使いながら、それでいて現代の日本人である我々が共感できる作品にしたいです。」

■緑が鮮やかなポスターのデザイン
 宮田「近年話題の本条直季さんの写真です。都市の写真を撮ってらして、本条さんの写真集は写真集としては珍しいベストセラーになっています。写真なのに模型のようですよね。この写真がズバリ『わが町』だと惚れこみました。俯瞰した目線は死者の視点。なんでもないT字路が、死者の目から見るとこんなにも美しいのです。」

■『わが町』が同時期に多数上演されることについて
 宮田「こんなにたくさん出そろうとは思ってなかったんですけどね~。先日もJAM SESSIONという団体が赤坂RED THEATERで『わが町』を上演してまして、演出の西沢栄治さんとも話をしてたんです。「なんでこんなにみんなで『わが町』になったんだろうね」と。西沢さんは「時代ですかね」と言っていて。
 時代の流れがあまりにも激しくて早いので、誰もが一度立ち止まりたかったんだろうなという思いがあります。みんなが拠り所を探している。もう一度家族に立ち返ろうとしている。自分の足元をもう一回見つめ直そうとしている。
 今年上演されているということは、去年か一昨年ぐらいに企画を考えていたはずで(笑)、たしかに政権交代もありましたし、みんながそういうことを考えたのかなと思います。もう一度ここで、等身大の、自分なりの、生きていくための拠り所を探したかったんじゃないか。私自身も全く同じ思いです。」

【稲本響さんによるピアノ演奏】
 小さいピアノですが(笑)、迫力のある素敵な演奏でした♪
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2010/2011シーズン JAPAN MEETS・・・ ─現代劇の系譜をひもとく─ Ⅲ
【出演】メインキャスト:小堺一機・鷲尾真知子・相島一之・佐藤正宏・中村倫也・佃井皆美・中村元紀・山本亨・青木和宣・増子倭文江・斉藤由貴 ボーイズアンドガールズ:内山ちひろ・斉藤悠・高橋宙無・高橋智也・横山央・下村マヒロ・橋本淳・佐々木友里・内藤大希・宇髙海渡・水野駿太朗・橋本咲キアーラ・菅野隼人・大村沙亜子・朝倉みかん さいたまゴールドシアター:森下竜一・中野富吉・徳納敬子・都村敏子・北澤雅章・竹居正武・吉久智恵子
作:ソーントン・ワイルダー 翻訳:水谷八也 演出:宮田慶子 音楽/演奏:稲本響 美術:長田佳代子 照明:沢田祐二 音響:渡邉邦男 衣裳:加納豊美 歌唱指導:伊藤和美 演出助手:高野玲 舞台監督:澁谷嘉久 芸術監督:宮田慶子 主催:新国立劇場 共催:TBS 後援:TBSラジオ 宣伝美術:good design company 写真:本条直季
一般発売日:2010年10月16日(土)10:00~ S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 「JAPAN MEETS・・・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」特別割引通し券の販売は終了
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000324_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年10月13日 17:24 | TrackBack (0)