2010年07月24日
新国立劇場演劇『エネミイ』07/01-18新国立劇場小劇場
蓬莱竜太さんが岸田國士戯曲賞を受賞した『まほろば』に続いて、新国立劇場に新作を書き下ろされました。演出は鈴木裕美さん。
今月は蓬莱さんの新作が2本同時に上演されていましたね。両方拝見しましたが、どちらかというと私は『エネミイ』の方が好みでした。
⇒CoRich舞台芸術!『エネミイ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
主人公・礼司(高橋一生)の家庭はしごく平凡。定年間近の父(高橋長英)、習い事に熱心な母(梅沢昌代)、婚活にいそしむ姉(高橋由美子)、そしてフリーターの礼司。
ある夜、そんな家族のもとに父の旧い知り合いだという二人の男(林隆三&瑳川哲朗)が突然やってくる。二人を力一杯もてなす父親。他愛無い昔話に花が咲く宴会。しかし全く帰る気配を見せない二人に次第におかしな空気が流れ始める。家族総出で帰らせようと画策するが、のらりくらりと居続ける男達。
「どうして帰ってくれないんだろう……」
≪ここまで≫
テーマは学生運動、安保闘争です。かつて運動の当事者だった男たちと、現在フリーターをしている若者が出会いますが、同じ国の同じ場所で息をして、互いに必死で何かと戦っていながら、敵も目的も手段も全く違います。学生運動を知らない30代の作家が、自分に嘘をつかず、現代の日常生活の中の戦いを描いたとても面白い脚本だと思いました。
演出はあまり私の好みの方向ではなかったかも。動きや言葉のニュアンスなどに説明的な要素が多すぎて、ハっと驚けないし、アハハと笑えないし・・・という状態でした。例えば会話でじっくり聞かせて欲しいと思う場面で、流れをぷっつり切る出来事が起こります。それ自体は脚本通りなのですが、明るく盛り上げようとする演出で本題の影が薄くなってしまうのは残念。短くないお芝居なので、あえて見せ場を作る必要があったのかもしれませんね。好みの問題だと思います。
役者さんの中では高橋一生さんが断トツに素晴らしかったです。そう感じてしまったのは、もしかしたら私が観た回は役者さんが本調子じゃなかったのかもしれません。1人だけが目立つのっていいことじゃないですよね。
ここからネタバレします。
舞台となる礼司らの家があまりに豪邸すぎるのではないかと思ったのですが(アイランド・キッチンとか白くて長い階段とか)、電力会社に勤めている父親(高橋長英)は、もしかしたら天下りをいっぱいしてるのかな・・・?などと想像。でも定年“間際”なのか・・・。そんなことが気にならない抽象世界へと広がってくれれば良かったのになと思います。
押し掛けてきた二人は運動家。父はかつて彼らの同志でしたが、離脱してサラリーマンになりました。運動家たちは岐阜(だっけ?)から「三里塚」に行く途中。三里塚とはつまり成田空港建設反対運動が行われている場所です。運動家たちは礼司に同行しないかと誘いますが、父は反対ですし、礼司もピンと来ない様子。
母(梅沢昌代)の趣味はフラメンコで、ここぞという場面で急に踊りだして男たちの議論をうやむやにしてしまいます。こういうこと、現実でもよくありますよね(笑)。愛と情熱が理性に勝利してしまう様を描いたようにも受け取れて、面白かったです。でも私には踊りの時間が長すぎました。
礼司は終盤にやっと自分の思いを伝えます。バイトのシフト表を完成させるのが、どれだけ大変か。コンビニに私たちの生活の縮図があります。礼司が家にいるのは母親が呼び寄せたからだったとわかるのも皮肉ですね。好きでニートでいるわけじゃないんです。ただ、何でも「頼まれたから」やるのも、情けないといえば情けないですよね。
礼司は友達(のちに警官とわかる)と組んで、ネットゲームでお金を稼いでいます。おそらくアドベンチャー・ゲームのようなもので、敵を倒して剣などのアイテムを入手し、それを売ってるんですね。なんとまあ現代的。でも運動家(瑳川哲朗)が何も知らずに電源を切ってしまい、ゲームがすべてリセットされてしまいます。礼司と友人は窮地に立たされること間違いなし・・・。礼司は一瞬うなだれるものの、何も言わずに彼らを見送ります。
礼司が「三里塚」を知らなくて、さらっと「サンリヅカってどんな漢字ですか?」と質問したことは、運動家の神経を逆なでしたでしょうから、お互いのコミュニケーションの前提となる知識に大きなギャップがあるんですよね。こういった無知のせいで起こる事件は加害者に悪気がない場合がほとんどですから、この差を埋めるのは簡単ではありません。
時代の移り変わりのスピードが早くて、情報が洪水のように溢れていて、たとえ親子でもお互いに知らないことが多いです。気持ちがすれ違った時は一方的に怒ったり悲しんだりする前に、「自分は相手のことを全然知らない」ことを認めて、相手の話を聞くことからコミュニケーションを始めるようにしたいと思いました。
「エネミイ」は逆から読むと「意味ねえ」なんですね(パンフレットより)。いいタイトルだな~。チラシのビジュアルもかっこいいです。
出演:高橋一生 高橋由美子 梅沢昌代 粕谷吉洋 高橋長英 林隆三 瑳川哲朗
脚本:蓬莱竜太 演出:鈴木裕美 美術:奥村泰彦 照明:笠原俊幸 音響:長野朋美 衣裳:関けいこ ヘアメイク:鎌田直樹 演出助手:山田美紀 舞台監督:北条孝 芸術監督:鵜山仁 主催:新国立劇場
【休演日】7/5,12【発売日】2010/05/09 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000210_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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本能中枢劇団『家庭の安らぎの喜びと恐怖』07/23-08/01こまばアゴラ劇場
本能中枢劇団は元ベターポーヅの西島明さんが作・演出される劇団で、今回が第2回公演なんですね。ものすっごく久しぶりに西島ワールドに足を踏み入れました。
観客はパンを持参、と直前に知ったので、私は持って行けず。貢献できなかった…。上演時間は約1時間25分。
⇒CoRich舞台芸術!『家庭の安らぎの喜びと恐怖』
脈絡が全然わからない不思議エピソードの連続。でも中盤以降はストーリーにもなっていきました。途中で少々退屈しましたが、最後は面白かったです。
激しく踊るシーンが素敵だな~と思ったら、振付が山田うんさんでした。
横塚真之介さんと宮下今日子さんが共演されているのを観るのは一体何年振りかしら・・・勝手にすっごく懐かしい気持ちになり、思い出の走馬灯状態に陥りました(芝居と関係ないですね、すみません)。
ここからネタバレします。
黄色い布団に寝る男(森田ガンツ)の周囲で、それ以前の場面が回想されるように繰り返されていきました。細い棒に切り取られたキューピー人形の手を3~4本並べて立てて、その棒を口にくわえた女(空也みたいな感じ)が怖くて良かったです。なぜレインコートを被ってたのかな~。
大量の保険金が入った壺と爆弾を取り違えていき、貧しいが善人だったはずの男(横塚真之介)が金に目がくらんで女を捨て、間違って爆弾の蓋を空けてしまい自爆。真っ赤な照明と爆音。その後、なぜか女2人(吉原朱美&宮下今日子)がBeatlesの"Yesterday"に合わせてしんみり踊って終幕。・・・なんだそれは!(笑) そこが面白かったです。
第二回公演
出演:猿飛佐助 吉原朱美 森下亮(クロムモリブデン) 真下かおる(くねくねし) 成田さほ子(拙者ムニエル) 飯野遠(民藝) 森田ガンツ(猫のホテル) 横塚真之介 宮下今日子 特別出演:田辺茂範(ロリータ男爵)
脚本・演出:西島明 振付:山田うん 舞台美術:ふくいく 宣伝美術:大内かよ 舞台監督:上林英昭 照明:colore 音響:高塩顕 衣装:川口知美(COSTUME80+) 制作運営:三村里奈(MRco.) 主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 企画制作:本能中枢劇団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 技術協力:鈴木健介(アゴラ企画) 制作協力:尾形典子(アゴラ企画) 芸術監督:平田オリザ
発売日6月19日(土)チケット料金 前売り 3000円 当日3300円 (日時指定 整理番号付自由席) 当日券の販売等、受付開始は開演の60分前、開場は30分前。
http://honchu.net/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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東京芸術劇場「水天宮ピット・オープニングイベント」07/23水天宮ピット・大スタジオ等

玄関の看板
舞台芸術の稽古場施設“水天宮ピット(東京舞台芸術活動支援センター)”のオープニングイベント(⇒告知記事)にお邪魔してきました。
※7/26(月)よりオープン。利用方法は公式サイトでご確認ください。
内覧会からオープニングセレモニー、パフォーマンスと続く約4時間でしたが、大盛況でとーっても楽しかった~~~!!元気なパフォーマンスを見て、野外で気持ち良くビールを飲んで、集まったお友だちとゆっくりお話もできました。
【写真:劇団鹿殺しRJPのパフォーマンスに集まる人々】
まずは16:00からの内覧会に参加したところ、東京都の職員の方が詳しい説明をしながら稽古場内を案内してくださいました。芸術団体の方々はもちろん、地域の一般の方々も大勢いらしたようです。
廃校になった学校をリニューアルした施設なので「ここはもともと家庭科室で、あそこは図書室でした」と言われると、建物自体の歴史にそっと触れた気がして、知らない部屋なのに懐かしい気持ちになります。ソファやテーブルなどの家具類は廃品をリサイクルされているそうです。さすがは公立の施設、経費節減ですね。
【写真:内覧中に2階から中庭(元運動場)を眺めました。夜にはイスとテーブルがもっと増えました】
廊下や部屋の中にはネビュラエクストラサポート(Next)の提供で、舞台公演のチラシが展示されていました。中には思い出深いものもあって、ついつい立ち止まって眺めてしまいます。稽古の休憩中の話題に事欠かないでしょうね~!
大スタジオでオープニング・セレモニーが開かれた後は、FUKAIPRODUCE羽衣のパフォーマンス。カラフルな照明や2階のロフトなど、大スタジオの機能を大々的に使って『朝霞と夕霞と夜のおやすみ』の山登りのエピソードを披露してくれました。約20分間ぐらいの短編なのにやっぱり泣かされた・・・!
大スタジオから外に出ると、劇団鹿殺しRJPのライブにすぐに大きな人だかりができました。力強くて堂々としていて、元気をもらえました。小さな子供たちが最前列に座ってお行儀よく見ていて可愛かった~。
古い校舎が贅沢な稽古場に生まれ変わり、これからたくさんの人が集まって新しい作品をどんどん生み出していく場になるのだと思うと嬉しくなります。自分が作るわけじゃないのにね(笑)。
最初から最後まで私はとっても楽しかったんですが、それは周囲の方々がいい笑顔をされていたからだと思います。充実の稽古場として機能していくことに加えて、周辺地域にも舞台の面白さが伝わっていくといいですね。
7月23日(金)16:00~20:00 入場無料
出演:FUKAIPRODUCE羽衣 劇団鹿殺し RJP 森田智博
主催:東京芸術劇場(東京都歴史文化財団)
http://www.geigeki.jp/suitengu/open.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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