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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年05月11日

箱庭円舞曲『珍しい凡人』05/04-11駅前劇場

 古川貴義さんが作・演出される箱庭円舞曲の新作です。いつもタイトルがキャッチーだなと思います。上演時間は約2時間。

 「CoRich舞台芸術まつり!2011春」審査員として拝見しました(⇒94本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。

 ⇒CoRich舞台芸術!『珍しい凡人

■愚劣極まりない凡人(=私たち)の群像劇

 駅前劇場中央に舞台があり、2方向から客席がはさみます。私はいつも客席がある方に着席。その方向から見て下手に一般家庭によくありそうなリビング。上手は築数十年経ってそうな一軒家の玄関先。室内と野外の2つの空間が隣り合っています。中央の通路は人がすれ違う度に空間のゆがみを生み出し、この世に存在しないはずのものを想起させる見事な美術です。

 自分の欲望のままに行動し、それが満たされないと他人にやつあたりする。自分のことしか考えていないのに、他人がわがままだと批難する。当事者意識がなく、何が起こっても誰か・何かのせいにする。そしてそのことに自覚がない。登場人物全員がそんな人間であることが驚異的です(笑)。全員に対して「そんなこと言ってるけど行動が全然ともなってないYO!」とツッコミができるほど、約2時間の中に緻密に描き込まれた戯曲でした。

 言動や行動がバカ過ぎてうんざりするしイライラするしムカつきます。さらにはそれを通り越して苦笑・失笑するしかない、というところまで徹底した人物造形と空気づくりが素晴らしいです。
 1対1の密度の高い会話やほぼ他人同士の3人がおそるおそる話す場面など、緊張が続くことが多いです。それをフっとほぐすポップでメロディアスな音楽と、パっと色を変えるカラフルな照明がいいスパイスになっており、劇団独特の持ち味だと思いました。

 劇団員が増加し、集団としての力を蓄えて次の段階へと着実なステップを踏んでいると思えた作品でした。役者さんの中では、リビングにいた主婦役のザンヨウコさんが、いつもながら安定感と説得力のある演技を見せてくださいました。

 ここからネタバレします。

 軸になるのは妻と大学生の息子がいる公立高校の教師と、その弟。私の席から見て下手は兄の家で、上手は弟が暮らす実家です。
 兄は殺人事件の裁判員に選ばれ学校を休んでおり、同じく裁判員になったHIVポジティブの女性とインポテンツの男性に振り回されます。バカ息子を溺愛する妻との夫婦生活はうまくいってるようには見えません。かつて画家だった弟は、芸術家をサポートする非営利法人を起業しようとしています。古い民家には奇抜な格好で悪目立ちしがちなアーティストが出入りし、ストーカーになって押しかけてくる画家時代のファンに手を焼きます。

 兄は「反体制派だから学校を休んでストをしている」と学校内で噂され、スムーズに仕事に復帰できるかどうかが危うくなります。弟は開設した非営利法人の公式サイトに「こいつらはテロをたくらんでいる」といった匿名書き込みをされて、非営利法人の認可が下りなくなって夢を粉砕されます。その両方が身近な人々(例えば親戚)の仕業であることが、うすら恐ろしいです。

 首都圏で大々的なストが起こっていますが、登場する人たちは無関心。日本で何らかの大問題が起こっており、それに対してストを起こす人が増大しているという事実から目をそむけ、まるで他人事です。また、噂や評判を考えなしに信じ、事実を自分で確かめようとしません。にわかの流行(体を揺らす)には簡単に飛びつくのに、惰性的に「今までどおり」を求め、問題に気づき変化を目指して行動する人(=弟)に対しては、周囲に合わせるべきだと責めます。そのくせ、自分がやりたいことは周囲を無視して強行し、他人が迷惑を被っても「そんなつもりじゃなかったから自分のせいじゃない」と謝罪もしません。
 そんな愚劣極まりない現代日本人を巧妙にデフォルメして、笑いを誘い出していました。でも実のところは思い当たることばかり。彼らと同様に平々凡々の私は、このお芝居を反面教師にして学びたいと思います。

 2つの空間はぴったり隣り合っていますが、2件の家は物語上は隣りではありません。兄の家のリビングの床が中央に向かって少しそり上がっていました。弟が暮らす実家の玄関先はリビングよりも階段2段分ぐらい低くなっていますので、そり上がった頂点から上手方向は斜めに下がる土手になっており、まるで堤防のようでした。天災などで被害を受けるのは低い方なんですよね。

~The landscape can see only Mr. Noone Special.~
出演:小野哲史、須貝英、爺隠才蔵、片桐はづき, 井上裕朗、玉置玲央(柿喰う客)、清水穂奈美、ザンヨウコ(危婦人), 金丸慎太郎(贅沢な妥協策)、湯舟すぴか(市ヶ谷アウトレットスクウェア)、小笠原結(劇団兄貴の子供)
脚本・演出:古川貴義 舞台美術:稲田美智子 照明:工藤雅弘(Fantasista?ish.) 音響:岡田 悠(One-Space) 衣装:三木葉子(GurturieLaing) 舞台監督:鳥養友美 禅師:山内翔 宣伝美術:Box-Garden House イラスト:須山奈津希 制作協力:林みく(Karte) 企画製作:箱庭円舞曲
【発売日】2011/03/26 前売 3,000円 / 当日3,500円(全席自由) 初日割引 前売:2,800円 / 当日3,300円
http://www.hakoniwa-e.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年05月11日 11:08 | TrackBack (0)