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2011年07月10日

東京ドイツ文化センター「原サチコ講演『ドイツで生きる 役者を生きる』」07/10ドイツ文化会館ホール

 ドイツのハノーファー州立劇場専属の俳優である原サチコさん(⇒公式ブログ)の講演会に伺いました。
 劇団演劇舎蟷螂、劇団ロマンチカなどの小劇場団体で活躍した後、1999年にドイツでの初舞台に立ち、2001年からベルリンに移住。この講演では出演舞台を映像で紹介しながら、約10年間のドイツでの俳優活動・生活についてお話しくださいました。⇒原サチコ・ドイツ語圏全出演作 

 来週の平日2日間、原さんがドイツの劇作・演出家ルネ・ポレシュ作の一人芝居を朗読されます。ポレシュさんは今年秋にF/T11主催演目が控える世界的に注目されている方で(⇒過去レビュー)、彼とともに仕事をしてきた原さんだから実現できた朗読公演だそうです。

 ●ドイツ文化センター・リーディングとアフタートーク
  VISIONEN ドイツ同時代演劇リーディング・シリーズ第4回
  原サチコがルネ・ポレシュを読む
  『あなたの瞳の奥を見抜きたいー人間社会にありがちな目くらましの関係
  7月19日(火)、20日(水) 各日19:00- 
  1,500円 (学生・語学講座受講生1.000円)
  ⇒アーティスト紹介(ドイツ文化センター内)

 ※7/17(日)にはドイツ戯曲『文学盲者たち』の朗読公演もあります。サンプルの松井周さんが約1週間の稽古期間を経て同会場で発表されるそうです。出演者も豪華ですのでこちらもぜひ。

 ≪講演概要≫ 公式サイトより
 ルネ・ポレシュをはじめ、クリストフ・シュリンゲンジーフ、ニコラス・シュテーマンらドイツ演劇界の名だたる演出家の下で活躍し、特異な存在感を放つ日本人俳優の原サチコ。2001年に日本をとび出してベルリンに拠点を移し、さまざまな出会いを通じてウィーンのブルク劇場を経て、現在はハノーファー州立劇場専属の俳優として活躍中です。
 ここに至るまでの軌跡や、ドイツで生きる俳優としての日常、これまで一緒に仕事をした演出家や俳優について、原サチコでなくては語れない貴重なエピソードの数々が満載のトーク。終了後は、質疑応答の機会を設けます。
 ≪ここまで≫

 原さんはとても素直で率直な女性でお話も面白く、ドイツでの体験談は非常に興味深いもので、2時間があっという間でした。そして舞台映像がすっごく刺激的。さすがはドイツ演劇。
 「魑魅魍魎のような動きばかりをやっていた」とおっしゃる小劇場劇団での経験が、そのままドイツでも活きているんですね。やはり俳優は身体訓練が基本(前提)なのだなと思いました。また、演出家の要求に素直に応える内に“原サチコだからできること”“原サチコにしかできないこと”が増えて、かけがえのない俳優になられたのだと思いました。

 講演終了後の交流会で原さんに直接お話を伺うことができました。異国で子育てをしながらプロの俳優として生きている方が目の前にいらっしゃる。それだけで勇気づけられました。
 『少年口伝隊 一九四五』をハノーファーで上演した際は、ドイツ版ならではの演出になったと伺いました。外国での上演時には上演される国の文化・環境等に合わせて改訂、演出しなければ、作品本来の意味が伝わりづらい場合があることに納得できました。

 今年9月29日にドイツで初日を迎える原さんが現在稽古中の作品は、福島のことを描いたものだそうです。いつか原さんの舞台を観にドイツに行きたい気持ちになりました。まずは来週のリーディングをその場で予約。

 ドイツ文化センターやブリティッシュカウンシル、東京日仏学院で芸術についてのセミナーなどに伺う度に、自分は日本語しか通じない狭い世間の中に、進んで閉じこもっているなと感じます。今日もそうでした。旅行が苦手で出不精な私ですが、いい加減、甘えたままじゃいけないなとも思い始めました。いい年して今さらですが。

 以下は講演中の原さん語録です。私が聞きとってメモした程度ですので完全に正確ではありません。

 原「『ユナイテッド・トラッシュ』という映画を見て、監督のクリストフ・シュリンゲンジーフといつか絶対に仕事をしたいと思った。だからドイツでも毎日、カフェで偶然出会った人にさえも“クリストフのサインが欲しい!”と言っていた(笑)。それがいつかクリストフの助手の知り合いに伝わり、オーディションを経て彼と仕事をすることに。」

 原「シュテーマン演出『三文オペラ』(原さんはポリー役)はクルト・ワイルの音楽が有名なのもあり、大人気で毎公演ソールドアウトです。ブレヒト戯曲は遺族が厳しくて、一字一句変更してはいけない、ト書きどおりにやらなければいけない等の厳しい制限があります。でも今作はかなり過激な演出になっています。電光掲示板に戯曲の全文を流すことで、“戯曲通りに上演している”ことにしたのです。制限を逆手に取ったというか。でも70ステージほどやってきて、お客さんが途中で帰らない回はない(笑)。」
 ※ドイツでは観客も自己主張することを求められるので、途中退席する方は多いようです。

 原「ドイツ人俳優は観客に悪いイメージを与える役をやりたがらない。自分に不利になることはしない。私は世間の評判など気にしないし親戚も観に来ないから(笑)、ある意味捨て身。だから演出家に重宝される俳優かもしれない。頼まれたら断れないというか、いわゆるNOと言えない日本人なんです(笑)。」

 原「3月は2本の初日があるという無茶なスケジュールだった。そこで震災が起こった。役者になって初めて舞台上で倒れてしまった。倒れてからもセリフは最後まで言ったので、観客は“倒れる演技”だと思って気づかなかった(笑)。救急車で病院に運ばれたところ、原因は心労。今まで元気にやってきたけど、人生でやれることは少ないと気づいた。やりたいことをやっておかないと後悔すると思った。」

 原「『少年口伝隊 一九四五』(関連リンク⇒)には3人の子役を出演させ、私も含めて計6人が出演する芝居になった。ドイツでは今も広島に行ったら被ばくすると思っている人もいるぐらい、原爆や広島についての知識が少ない。ドイツの州立劇場で広島の芝居が上演されたという事実だけでも大きな成果だった。ハノーファーと広島は友好都市。ハノーファーの役所の方々にも喜んでいただけた。今の広島を伝えたい思いもある。広島のお好み焼きをつくってお客様に召しあがっていただきながら、広島で取材したことを報告する『HIROSHIMA SALON』も開催した。」

 原「ルネ・ポレシュは哲学、社会学を現代口語におきかえてわかりやすく伝える貴重な人。来週ここで上演する『あなたの瞳の奥を見抜きたい』もわかりやすい一人芝居です。
 たとえば『ハムレット』を演じるならハムレットにならなきゃいけないと思う俳優が多いと思います。でも今生きているあなた(私)だって大変なのに、オフィーリアに近づかなくてもいいよ、自分の苦しみを舞台にのせて観客と共有すればいい。これがルネの考え方です。順応性が高くて、決して人に押し付けない。」


“ドイツで活躍する俳優 原サチコのトーク”
2011年7月10日(日) 14:00 - 16:00 
聞き手:伊達なつめ(演劇ジャーナリスト)
入場無料(要お申込み)
http://www.goethe.de/ins/jp/tok/ver/ja7567518v.htm

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年07月10日 23:40 | TrackBack (0)